第18回「大成功!みくのしんブチギレドッキリ
  

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OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
唄/森の子町子

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教室にテロリストはこない

 

 

例えば、授業中の教室に一匹のハチが迷い込んだとき、高校生がとる行動はだいたい決まっている。 

 

「別になんでもないけど?」みたいな表情を保ちつつ、ハチの動向をつぶさに伺うのが大半。僕もこのタイプで、平静を装いながら、不意にハチが向かってきたときにビクついたり「ウオオッ」みたいな無様な声をあげたりしないように身構えていた。

虫が苦手な生徒は机を引いたり、席を離れたり、ときには悲鳴をあげるなど、多少大げさにリアクションをとるかもしれない。このタイプの生徒がリアクションを取ると、教室が一気に平常時から緊急時に切り替わる。彼らのエマージェンシーアラームのおかげで、ようやく僕らも「おっと。君らが怖がるんなら無視はできないよね。僕は平気だけど」という態度が取れる。

教師はなるべくハプニングを無視しようと努めるが、教室がざわつき始めたら仕方なく窓際の生徒に窓を全開にするよう指示をするだろう。飛行機の非常口付近の座席は緊急時に援助する義務が発生するらしいけど、それと同じだ。

 

余談だけど、ああいう時に察しが悪いやつってムカつくよね。言われなくても窓開けるくらいの知能はあれよ。こういうやつってプリントを後ろの席に回す時に、振り返らずに腕だけで渡してこようとするんだよ。自分は前を向いたままで、「そら取れよ」みたいな態度しやがる。んで、こっちが板書写しに夢中になってたりしてそれに気づかなかったりすると、若干キレ気味に机に叩き置いてくんのね。

ごめん、余談の方が長くなってしまった。何が言いたいかというと、こういう時の教室は、みんなが互いに牽制しながら、次第に「これ、誰が始末つけんの?」という雰囲気が広がり始めるよね、って話。

 

 

その日、僕がいた教室も同じで、いつも通り落ち着きのない緊張感が漂っていた。

しかし今日は違った! まごつく教室に1人の声が響いたのだ!

 

「みんな動くな!」

松藤君だ!

「伏せていろ! そいつは俺が片付ける!」

 

 

…松藤君が?

その時、皆が思った。なぜ?

 

 

僕らの「?」には2種類あった。

 

一つは、なぜ君が名乗り出たんだ? という点。

松藤君は典型的なこじらせ系のオタクで、教室の隅でいつもラノベ、もしくは小難しい洋書を読んでいて、クラスでもわかりやすく浮いていた。

スクールカーストの底部を支えていた僕が言うのもなんだけど、こういうときにハチ退治するのは彼よりもサッカー部キャプテンとかクラスのお調子者とかの方がサマになる。

 

もう一つは、なんかセリフが芝居じみてない? という点。

いや、全然気のせいならいいんだけど、なんかね。僕らも「伏せていろ!」なんてあまり言われ慣れてないからびっくりしちゃって。

 

予想外の人物が予想外のセリフを発したもんだから、教室は呆気にとられていた。そんな中、松藤君は悠然と立ち上がり、つぶやいた。

 

「やれやれ…。俺の出番ってかい…」

ああだめだ。松藤君は、なりきっている。

 

何かはわからないが、いま彼はなりきっている。多分主人公に、だ。何のスイッチが入ったんだ、松藤君。何の血が騒いだんだ、松藤君。

この辺りから、クラスメートたちは主人公然と振る舞う松藤君をクスクス笑い始めた。突然、同級生が主人公になったのだからそりゃそうだろう。

ただ、僕はこういう「他人が恥ずかしい行動をしている」場面を見ると、我が事のように恥ずかしくなってしまうタチなので、もう本当にダメだった。やめてくれ松藤君。どうか冷静になってくれ。

 

松藤君は続けた。

「女子供は伏せていろ!」

 

マジでやめてくれ松藤君。女はともかく教室に子供はいないだろ。僕は耳が真っ赤になっているのに、肝心の君はなんでシラフなんだ。目の前で彼の黒歴史が描かれていく様に僕はとても冷静ではいられなかった。

 

クスクス笑いの中、松藤君は丸めた国語便覧を構えながら、果敢にハチに向かっていった。

 

どうしてだ松藤君。君は別にハチ駆除の専門家じゃない。案の定、ブンブン飛び回るハチに向かって、国語便覧をお粗末に振り回している。

なぜ名乗りをあげたんだ松藤君。君ほんとは虫苦手だろ。ハチが顔付近を飛ぶたびに、背骨大丈夫? ってくらいのけぞってるじゃないか。

 

 

ひとしきり格闘した後、結局ハチは開いている窓から出て行ってしまった。松藤君はフッとため息をついてつぶやいた。

 

「てこずらせやがって…」

 

 

仕上げも完璧かよテメエ。

ハチと一緒に僕も逃げ出したかった。マジで。

 

 

この時の騒ぎはそれからひとしきりクラスの話題になった。その時授業で扱っていた「山月記」になぞらえて、「松藤君が発狂した」「松藤君が虎になった」と笑い話にしたものだ。

 

 

僕はというと、正直あまり笑えなかった。

 

人をいじるのは倫理にもとるとか、出来事自体に面白さを感じないとか、そういうことではない。

 

あの時の松藤君の行動は、当時僕がよく夢想していた「もしも教室にテロリストが現れたら」のシミュレーションとほぼ一緒だったからだ。マジで他人事じゃないというか、自分の妄想が晒されたような気がしたのだ。

 

学校を占拠しようとテロリストが押し寄せる。そこで、普段は目立たない根暗な僕が「みんな動くな!」とクラスメイトを一喝。机の脚をへし折って即席の武器を作り、果敢にテロリストに襲いかかり行動不能に。すぐさま相手の武器を回収し他のテロリストを掃討する。

 

ほぼ一致。

テロリストは一匹のハチだったし、武器も丸めた本だったけど、あの時の松藤君の迫真の演技は、まさに僕がクラスの隅っこで空想していた「カッコイイ俺」そのものだった。

 

あれから10年経った今になって思えば、少しだけ彼が羨ましい気もしてくる。

この日本で、教室に現れたテロリストを撃退したことがある人間は多分松藤君しかいないんじゃないか。

END