~ 決行当日 ~
僕の住んでる片田舎にはバーなんて洒落たものは1件も無いので、都会へ。
やってきたのは「大阪・天王寺」です。
日本で最も高い高層ビル「あべのハルカス」が、僕を歓迎してくれています!
さて、息巻いて来たのはいいのですが、実は僕……
バーに行ったことが、一度もありません!!
バーの知識なんて村上春樹の小説(めちゃくちゃセックスしてました)を読んだぐらいで、ほぼ0!
しかも今回は「あちらのお客様から」をするという使命があるので、あまりにもキモかったら店から追い出される危険性もありそうです。あと映画とかでよくある闇の取引や、ある組み合わせでお酒を頼むと、それが合言葉となり裏にあるギャングの隠し部屋へ案内されて殺されるかも……
などという言い訳を頭の中で繰り返し、トボトボ歩くだけで1時間過ごしてしまいました。これじゃあまずい。
こんな時はそう……
テンションを迎えに行こう!!!!!
氷結ってアルコール度数が高いイメージがあったのですが、思ったより低くて全然酔いませんでした。
氷結ストロングを飲まなきゃダメだった……。でも心なしか、さっきよりテンションが上がってきました。
敷居の高いバーとは言え、基本的には飲食店。オドオドした客であろうとも受け入れてくれるはず……。
おびえる心を奮い立たせ、僕は一軒のバーの前へと立ちました。
そしてバーの前に立って見て、気付いたことがあります……
バーって入りづら!!!!!!!
こんな感じで、バーって人を拒絶している感じがするし、会員限定の店もあって敷居の高さをこれでもかと見せつけられます。
しかも今回は「女性が一人でカウンターにいる」というシチュエーションがないと何も始まらないので、曇りガラスはもどかしいぐらい邪魔ですね。
しかしここで立ち往生していても仕方ない……仮に女性客がいなかったとしても、まずは「バーデビュー」という大きな一歩を踏み出すんだ!
僕は呼吸を整え、思い切って地下にあるバーの曇りガラスの扉を開けました。
▼一軒目「地下のバー」
はい。図を見てわかるように男しかいませんね。
入って写真を撮ろうと思ったのですが、めちゃくちゃ怒られる可能性もありそうで、びびってカシャカシャできませんでした。とにかく薄暗くて大人な雰囲気です。そしてメニューを見てもう一つ気づいたことがあります。
たっけぇ!!!!!
ビールが一杯800円!? オシャレなカクテルとなると、1000円を超えたりもしてます。大トロでも入ってるのか? という強気の値段設定に、僕の手はアル中みたいにブルブルと震えました。
結局僕はビールを選択。おつまみとして、なぜか奈良漬けが付いてきました。バーって結構好みの分かれる食べ物を突き出しとしてチョイスするもんなんですか? まぁとにかく、ようやくバーに来たのにお酒を飲んでるだけでは仕方ありません。バーテンダーに自然な調子で話しかけ、いろいろ情報を聞き出すんだ!
無理でした。
緊張のせいで、ずっと下を向いてしまい、バーテンダーに「一人で、しんみり飲みたいやつ」と思われ、心の距離ってやつがガッポリ空いてしまいました。
この失敗で一つ学んだことがあります。「バーテンダーに話しかけるには注文の時しかない!」。
やはり大前提としてバーテンダーの協力なくしては、「あちらのお客様から」なんて出来ません。
一軒目のバーでの実行を諦めた僕は、二軒目へと向かいます。800円のビールで助走をつけたお陰でバーへの抵抗感が無くなり、次はビルの二階にある「隠れ家バー」とやらへ行くことにしました。女性は隠れ家って言葉に弱そうですし、ここにはミーハーな女子大生が沢山いるはず!
期待に胸を膨らませて、二軒目の扉を開きます。
▼二軒目「隠れ家バー」
うーん……デジャブ……。いや、しかしこれは逆に好都合なのかも! 男性客しかいないうちにバーテンダーと仲良くなっておけば、後から入ってきた女性客にあちらのお客様れるはずです! あとは、どれだけバーテンダーとの距離を縮められるか……。
会話のきっかけは注文の時に作った方が良いので、「自分は今日初めてバーに来た」(二軒目だけど)という設定で、まずはバーテンダーとのコミュニケーションを試みます。
僕「すいません、実は初めてバーに来たんですけど……バーといえばこれ!っていうカクテルとかありますか?」
バ「おー!いいですねー! 最初はパッと目に入ったお酒でいいと思いますよ! サッパリ系が好きならならジンとかオススメですけど」
と言われたので、悩んだ結果どこかで聞いたことある「ギムレット」というカクテルを頼みました! ジンとライムジュースをシャカシャカすると出来るみたいです。
あ!これだ! こういうグラスを見ると、ようやくバーに来たって実感が湧きます! 場の空気も温まってきたので、バーテンダーに一番気になることを聞いてみることにします
僕「ちょっと疑問なんですけど、ドラマとかでよくある『あちらのお客様からです』とかって実際にあったりするんですか?」
バ「うーーーーん……まぁないことは、ないですけど……」
バ「こういうパターンが、ほとんどですね」
僕「それって、ナンパですやん!?」
バ「まあ、そうですね。でもお客さん同士の交流もバーの醍醐味ですからね」
僕「なるほど……。僕、実は『あちらのお客様から』をしたいと思ってるんですが、そういうのって勝手にやってもいいもんですか?」
バ「うーん、お客さんによっては気持ち悪がる人もいるかもしれないので、お店としてはいきなりやることはオススメできないですね……」
僕「じゃああの、『あちらのお客様から』を実現するのを手伝ってください! って言ったら協力してもらえますか?」
バ「それは全然いいですよ!でも今日はもう女性のお客さん来ないかもだね。平日だし」
そう、この日は平日。今はもう夜の23時。
だから入ったバー二軒とも男しかいなかったのか? バーのお酒って高いし、一人の女性感覚だと一週間のご褒美みたいな感じで週末に行きそうな気が何となくしました。せっかくバー初体験も済ませたのに、これで終わってしまうのは悔しい……やるせない……。こうなったら……
花の金曜日にリベンジだ!
~ リベンジ当日 ~
というわけで、改めて金曜日に「大阪・梅田」へと、やってきました。富裕層がいる「北新地」から、コロッケが美味しい「天満」まで、あらゆるニーズに対応している歓楽街です。天王寺よりも都会なので、バーの数も10倍ぐらいあります。しかし、すでにバー童貞を失った僕の敵ではありません!
ここで一度、作戦をまとめておきましょう。
1.「初めて来た客として話しかける」
2.「バーテンダーと共犯関係になる」(二軒目で学んだ)
3.「あちらのお客様からです」
はい、手順はこの3行程です。シンプルですね。バーテンダーと話すタイミングもマスターしましたし、一度バーの空気を味わった以上、雰囲気に圧倒されるという心配もすでにありません。本日はちょっと強気で、いかせていただきます!!
▼三軒目「老舗のバー」
ありがとうございます。ついに女性客です。やはり花金ということもあり、ほぼ満席。皆さん上品な雰囲気で、お酒や会話を楽しんでいます。
こちらのお店はオープンしてから32年という老舗のバー。バーテンダーもベテランオーラがある方ばっかりです。「あちらのお客様からをしたい」とかふざけたこと言って、殴られないかな……という不安も感じつつ、とりあえず作戦通り、バーテンダーの攻略から開始します。ちなみに話しかけたバーテンダーの人は「ワクワクさん」に似てて、しかも店長さんでした。
僕「すいません、実は初めてバーに来たんですけど、本格的なハイボールを飲みたいんです! どれがオススメとかありますか?」
バ「初めてですか!いいですね!やっぱりウイスキーによってだいぶ味が変わるので、自分がピンときたウイスキーで挑戦するのが面白いと思いますよ!」
そう言ってカウンターにウイスキーのボトルを並べてもらったのですが……
結局、読めるという理由で「山崎ハイボール」を頼むことにしました。普通の居酒屋にもありそう。写真を撮ろうと思ったのですが、隣に女性がいたので恥ずかしく、シャッターを押せませんでした(盗撮魔だと思われたくないので……)。
チラチラと隣の女性を観察すると、どうやら一人で来ているみたいで、静かにカクテルとチーズを食べていました。見た目は10代かな? というぐらい幼く見える方でした。
しかしすぐ隣の席というのは運が悪い……。「あちらのお客様から」は、やはり「あちらの」という距離感があって初めて成立するもので、これが「こちらのお客様」となると、途端に格が下がるような気がするんです。
図で表すとしたらこう。僕の理想の「あちらのお客様」は、ダンディゾーンにいる女性にのみ適応されるということです。ゼロ距離での「あちらのお客様」は、単なる子供のお遊びです。
仕方なくしばらくバーテンダーの方と日常会話でお茶を濁していると、隣の女性が席を立ちました。これで、やっとバーテンダーに今回の入店の目的を話すことができます(何しろ女性が横にいると緊張しますからね……)。
僕「すいません、ずっと気になってたんですけど、ドラマなどでよくある『あちらのお客様からです』っていうのは、本当にあったりするんですか?」
バ「そうですね……最近は全然ないですけど、トレンディードラマが流行った15年前は、しょっちゅうありましたよ」
僕「おお……! 実は僕、『あちらのお客様から』をするのが夢なんです! なので今日は、それをやりに来ました!」
バ「本当に言ってますか!? おもしろい……あなたのようなお客は10年ぶりですよ……」
僕「そんなにですか! でも僕の夢なんですよ……よかったら協力してもらえませんか?」
バ「うーん、ご新規のお客さんやこちらが性格を把握していない人に、そういう事をして相手が引いてしまったりすると、もうお店に来なくなっちゃうんですよね。結果、お客さんを一人失う事になってしまうので、僕が仲のいい人や、冗談が通じる人じゃないと難しいかも……」
僕「ああ……なるほど……」
ということで、なんとトントン拍子にお店の方に協力してもらえることになりました……!
女性の方はパッ見20代半ばぐらいの、綺麗よりは可愛いって感じの方でした。
僕の声が小さ過ぎて3回ぐらい聞き返されましたが、とにもかくにもこれで夢を達成するお膳立てが整いました!
バ「やりましたね! 夢、叶いますね!」
僕「ありがとうございます! この瞬間を待ち望んでいました!」
そしてついにその時が……!
憧れだった「あちらのお客様からです」ができた!
やったー!
今回はお店と女性の許可を得てからの変則的な『あちらのお客様から』でしたが、バー初心者だった僕がここまで来れただけでも感動です!
【結論】
バーでの「あちらのお客様からです」は、バーテンダーも思ったよりノリノリだったので、
・「あちらのお客様から」をするという強い意志
・バーテンダーとの連携
・冗談の通じる女性客運
この3つの条件が揃えば、思ったより気軽に達成できる! ということが分かりました。
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