「Sさ~ん、遊びにきましたよ~」
「ん? おぉ、ギャラクシー君か」
「…え? え、え、え? ちょっと…」
「今夜もヒマだな~。そっちはどうよ?」
「Sさん…なっ、何やってんすか?」
「何って…?」
「え、何のこと?」
「そ、それですよ。ていうか一旦止まってくださいよ怖いから」
「何のこと言ってんの? それって何?」
「や、やだなあ、なんの冗談なんですかそれ…」
(注:絶叫)
「ヒイイイイ!! な、なんでもないですゥゥ!」
「現場の方はどうなの? 何時頃終わりそう?」
「え、現場は順調ですけど…あの、それ疲れないんですか?」
「ヒイイイイイ!!」
Sさんは完全に精神が壊れていました。
延々と地獄のダンスを踊り続けながら、それをまったく自覚できておらず、ダンスのことに触れると突然大声で叫びだすのです。
何より、めちゃめちゃ異常な動きを続けながら、ものすごく普通のことを喋ってくるので、こっちがおかしくなりそうでした。
「おれ最近発見したんだけどさぁ」
「焼き鳥に七味マヨネーズつけたらめちゃウマイんよ~」
「ヒイイイイイ!!」
深夜の倉庫街で、異常なダンスを続ける初老男性と二人きり…そう考えると恐ろしくなり、休憩時間が終わるからと言って、そそくさとその場を離れました。
それから1時間ほどで仕事は滞り無く終了し、僕はSさんに無線で「終わったんで解散です」と伝えて一目散に帰りました。
数日後、Sさんは退職したそうです。
辞めるまでの数日間、Sさんの奇行はとどまるところを知らず、
「勤務中ずっと排水口に枝を刺していた」
「休憩でコンビニに行くたびにアーモンドを買ってくる」
などの目撃例が報告されていました。
その後、Sさんがどうなったかは知る由もありません…
一体なぜSさんはあんなことになったのでしょう。
僕は今でも考えるのです。
前職をリストラされた時から静かに壊れ始めていたのか
昼夜が逆転する夜勤の仕事が合っていなかったのか
それとも…
僕が心底恐ろしかったのは、Sさんは自分がおかしくなっていることをまったく自覚できていなかったということです。
みなさんも、ちょっとでも自分がおかしいなと思ったら、無理せず休養をとって、こころを落ち着けるようにしてくださいね。
では、今回はここで終わりたいと思います。
またお会いする日まで、
おわり