なんてことない、とある休日だった。

 

木々に囲まれたこの公園は、僕のお気に入りだった。
ベンチに座って目を閉じ、耳を澄ます。
風が吹くたび枝葉がざわめき、遠くではしゃぐ子供の声が聞こえる。

 

こうしていると、日々の小さな悩みや社会の息苦しさから解放される気がする。

(平和だ……)

 

──その時、

きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!

平穏を引き裂くような悲鳴が公園に響き渡った。

 

 

なんてことだ!
あれは怪人じゃないか!?

 

「ヒーッヒッヒー!獲物どもよ!泣け!叫べ!」

 

平和を脅かす異形の存在──怪人。
人間の力では全く対抗できず、警察でさえ役に立たない。
管轄が違うとか民事不介入とかで当事者間の解決をお願いされるからだ。

だが、その絶望に立ち向かう者がいた!

 

 

まてぇーーーーーーーい!

 

シュタッ

 

 

 

あの銀色の影は……!?

 

 

「正義とは多様な価値観があり一概に定義できるものではないが己が信じる正義を掲げる戦士!」

 

「正義マン!!」

 

やった!ヒーローがきてくれた!
これで安心だ!

 

「君!怪我や精神的なショックなどはないと認識していいか!?」

「あ、はい!大丈夫です!」

「無事のようで何よりだ!では本日の活動に関する事後顛末書を関係各所に提出せねばならず客観的な事実を証明するための『目撃証人』が必要となっている!協力してくれまたえ!」

「あ、はい」

 

「なんだぁ貴様!
俺の狩りの邪魔をする気か!?」

 

「私は君を、
可能な限り抑止する方向で動く!!」

 

「あの、さっきから気になってたんですけど……」

「なんだ?」

「言い回しがくどいのはなんなんですか?」

「ヒーローとして過激かつ断定的なワードは口にできない!
近頃はコンプライアンスが特に厳しいからな!」

 

説明しよう!彼は現代のコンプラ社会の力を身に着けたヒーローなのだ!
相手のコンプラ違反を記録し告発することで社会的に抹さつすることを得意としているぞ!

 

「コンプラは徹底する!
それが私の正義だ!」

「な、なるほど……」

僕は圧倒されつつも、なんとか納得しようとした。
目撃証人に選ばれたのなら、ともかく状況を説明するのが先決だ。

「あの、公園で過ごしていたら、
突然”怪人”が現れて……!」

 

まてぇーーーーーーーい!

 

「その呼称は使わないでほしい」

 

呼称?”怪人”と呼んだことに何か問題があるのだろうか。

「近年、人種や属性による差別的レッテル貼りに該当する可能性を議論されている」

は?

「じゃあなんて呼べば」

「現状では”外見が個性的な人物”だな」

 

「?」

 

 

「でもなんかあいつ自身ピンと来てないみたいですけど」

 

「当人がどう思ってるかは関係ない!!ヒーロー活動のコンプラ本にはそう書いてあるのだから!!!!」

 

最初の安心感はとうに消え失せ、不安だけが大きくなるばかりだった。

 

「”外見が個性的な人物”・・・
──略して”外人”が暴れているのか!?」

更に良くない気がするが今はそれどころではない。

「そ、そうなんです!
外人が暴れて襲われそうになって……!」

 

まてぇーーーーーーーい!

「”襲われそう”とはつまりまだなんの被害も受けていないという事か?」

「まぁそうですけど」

「では”暴れている”というのも主観であって、現時点で彼が犯罪を犯す確証はないということだな」

 

「いや刃物振り回してるしどう見ても危ない奴ですよ!?」

「よく見たまえ!!」

「凶器に思えるあれは彼の手の一部であって身体的な特徴だ!」

「ハンディキャップを抱えている相手を一方的に攻撃するのは心象が悪い!」

「暴れている証拠を記録してから動かなければ・・・!できれば複数アングルで」

 

なんなんだよこいつ。

 

「私が先に手を出すのはコンプライアンス的にまずいんだ」

 

 

ジャスティースレコォーディングッ!

 

 

「撮影に協力してくれたまえ!」

 

そう言うと自分のスマホを取り出し撮影を始めた。

 

 

 

「あの、あなたの他にヒーローはいないんでしょうか?」

一縷の希望を込めて尋ねる。

 

「いない、私以外のヒーローは行政の処分や逮捕や炎上により消えてしまった」

 

それでこの事なかれ主義のカスだけが残ってしまったのか。
この時ばかりは、現代社会に蔓延するリスク回避構造を呪った。

 

「チッ!馬鹿共に気を取られてる隙に獲物が逃げちまう!」

 

外人はこちらが動かない事に気が付くや否や、逃げ惑う人々へと目を向けた。

 

 

 

\ 助けてー!誰かー! /

 

まずい!逃げ遅れた親子が!

 

 

もういい。


こんな役立たずに期待した僕が馬鹿だった。

自分がやるしかないんだ!

気が付けば、走り出していた。

後ろから何か叫ぶ声が聞こえたが、構わない。
僕は親子を庇うように、前へ立ちはだかった。

 

「なんだお前?雑魚の癖にヒーロー気取りか?」

 

「ヒーローとかコンプラとか、そんなの関係ない!」

「ただ……目の前の人を見捨てたくないだけだ!」

 

「ヒーッヒッヒー!
ならまとめて貫いてやろう!」

 

僕は死を覚悟し目を閉じた。

 


 

「!?危険だ!やめろ!」

正義マンは叫ぶ。
だが青年は一瞥もせずは親子のもとへと走り去る。

 

(なぜだ……なぜ力もコンプラ意識もない彼がそうまでして戦えるんだ……)

 

──僕はただ……
目の前の人を見捨てたくないだけだ!

彼の言葉が脳裏に突き刺さる。

 

───『皆を守りたいんです!』

 

そうだ……かつての私もそうだった。

誰かを救いたかった。

泣いている人を助けたかった。

 

かつて、憧れていた先輩ヒーローがいた。

誰よりも正義を信じ、誰よりも弱者を守ろうとしていた人だった。

だが、ある戦闘で発生した二次被害の責任を問われ、世間から激しく糾弾された。

炎上。
スポンサー契約解除。
訴訟。
行政処分。

そして先輩は、表舞台から消えた。

 

それから私は、
“人々を守る方法”ではなく、
“人々から消されない方法”ばかり考えるようになっていた。

 

私は恐ろしかった。

怪人よりも、傷つくことよりも、

 

……社会と市民の目が怖かった。

 

 

 

 

 

『だから、何もしないのか?』

 

懐かしく、力強い声。

忘れるはずもない。

 

この声は────

 

スーパージャスティスマン!?

 

『言ったはずだ。
ヒーローが信じるべき”正義”とは』

『他人や社会ではない、
”己の正義”だと』

でも……
自分を貫いたところで、誰も守ってはくれないんです……!

 

『ウフフ……弱気な正義ちゃんもかわいい♡』

 

あなたは……!

 

 

 

コスチュームが過激だと炎上したプッシウーマン!?

 

『けど、たまには肩の力を抜いてもいいんじゃない?』

しかし……
ヒーローは、常に正しくなければ……!

 

『全く……相変わらずの石頭だな、キサマは』

 

お前は……!

 

不倫騒動で謹慎中のスーツ仮面・・・!

 

『多少スキャンダルがあろうが、救われた命まで消えるわけじゃないだろう』

だが……

 

『荒野じゃな……最後に立ってた奴が正しいのさ』

銃刀法違反のガンマン・・・!

 

『‥‥‥‥‥‥』キラン

執行猶予無し禁固25年の黄金ナイフ・・・!

 

『正義マン!頑張るでザウルスよ!』

奈良公園の鹿を食べて殺処分されたティラノ・・・!

 

『正義マンちゃんはあーたもうほんとむかっしからもうほんと気にしいだからねえほんともっと世間様を信じてもいいんじゃないかしらねえ』

さつきおばさん・・・!

 

皆……

 

『それに、私達は消えてなどいないさ』

 

え……?

 

 

『 お前の中に我々の正義は受け継がれているのだから!!!!!!! 

 

 

 

 

 

 

「……ああ!!」

 

 

 

 

>>Bパートに続く!