こんにちは
鳥角(とりけら)と申します。

突然ですが、この場を借りてどうしても皆さんに告白しなければならない事があります。
僭越ながら、執筆した作品がとあるコンペにて賞をいただきました。

ですが、実の所を言うと、
あれは私自らが書いたものではありません。

いえ、他人が書いたという訳でもありません。
正確に言えば、書かされたのです。

強要されでもしなければ、この様な痴態を晒せるはずない。
本当は私だってこんな事やりたくなかった。
やりたくなかったんですよ。
しかし、気が付けば体は理性に反して動き出し、
何らかの意思に突き動かされるように行動していた。
そう、私は何かに操られていたとしか思えない。
何によって?

虫によって

脳に巣食う虫によって

そう、私の頭の中には、虫が寄生しているのです
ロイコクロリディウムをご存知でしょうか?
カタツムリに寄生する生物です。

本来、臆病なカタツムリは寄生されると、
虫に操られ、わざと目立つ行動をとり、最後には鳥に食べられてしまうのです。
この生物の存在を知ったとき、私は直感しました。
こいつだ。
こいつが、私に寄生しているのだ。
私を操り、最後には破滅させようとしているに違いない。

そいつは囁きます。 外に出ろと囁きます。 光を浴びろと囁きます。
外に出ると大きな鳥に食べられてしまいます。

思い返せば昔からそうだった。
走行中の自転車の前輪に足を入れてみてみたのも
夏休み明け唐突に坊主にしてみて全然ウケなかったのも
ミリしらでFXやってみて貯金が全部吹き飛んだのも
本当は言うはずなんかじゃなかった、あの人を傷つけた、あの一言も
周囲に話すと思い込みだと言われました。
自身の倒錯した欲望を発露する為の都合のいい思い込みだと。
俺の人生がめちゃくちゃになっちゃたのも!!!!!?????

これらすべてが思い込みだと!?!?!?
いや、すべては頭の虫に操られたせいだ。
そうじゃないと、だって、こんなの、
おかしい

あ、
まずい
出ようとしてくる

ああくる

出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくるてくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくるてくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる!!!!!!!!!!



ハァイ

「まったく、全てを私の責任にされていい気はしないな」
で、出たーーーーーーーーーーー!!!!!

「そんなに驚くことはないだろう。私はずっと君の中にいた」
お、お前が……俺の奇っ怪行動の原因……?

「そうさ。私は事ある事に君の背中を押してきた。だが勘違いしないでほしい。私は君を導くためにここにいる」
み、導く……?
「ほら、窓の外を見てごらん。光がこんなにも眩しい。風が、こんなにも優しい」

か、体が勝手に!?
「大丈夫。私に身を委ねなさい」
嫌だあああああああああああああああああああああああ!

嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!
体が勝手にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

本当はこんなことしたくないのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

見ないでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!

イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ

イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ

イヤッフーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


気がつくと私は、なんとも見晴らしのいい展望台の上にいた。
こんな場所があったなんて今まで知らなかった……

眼下には森と町が広がり、日の光に包まれていた。
風が頬を撫でる。
ただそれだけのことが、奇跡のように思えた。
「どうだい?殻の中にこもっていたら見ることはない光景だろ?」

これまで、どれだけこいつのせいで失敗してきただろう。
他人を傷つけ、自分を傷つけ、広告で回ってきたweb漫画を単話で買って……。
でも、考えてみれば、こいつがいなければ笑われるのを承知で記事を応募する勇気もなかった。
そして、この景色を見ることもなかった。
腹立たしいが、感謝すべきなのかもしれない。

突然ふと思った。
もしかして、この”虫”は他にも、
他の皆の頭の中にもいるのではないか。
かつて、崖をよじ登ろうとした者に、水平線の向こうを確かめようとした者に、空を夢見た者に。
ずっとずっと昔から、人と共に生きてきたのではないか。
人が大地を旅し、海を渡り、空へ飛び立ったのは、
すべてこの”虫”に突き動かされたからではないか、と。
「衝動」という名の虫によって。


たまには、こうしてこいつに身を任せるのも悪くない。
少なくとも、ただ今は、そう思えた。
バサッバサッ

バサッ!バサッ!
ん?

バサッ!バサッ!

え?恐竜?笑
ガシッ

あ痛い痛い
バサッ!バサッ!バサッ!

痛い肩の付け根痛い
バサッ バサッ!

え……?
バサッ バサッ

……空広っ


俺は大コンドル!
普段は悪目立ちした人間を攫って食ってる!
「衝動」ってのは翼になる!
新しい景色を見せてくれる!
けどな、溺れれば簡単に食われちまう事を忘れちゃいけないぜ!
言いたいことはそんだけだ!
じゃな!

大コンドルの羽ばたきは、空の向こうへ消えて行った。
おわり

鳥角







