幼い頃、ツツジの蜜を吸うのが好きだった。

幼稚園に生えてるツツジを送迎バスの待機列で吸った光景から私の人生の記憶はスタートしている。

まだ買い食いもできない年齢で親の管理外のものを口にする背徳感、友達と談笑しながら甘いもの口にする楽しさと蜜の味は年を経るごとに美しい思い出となる。ヒメオドリコソウよりも蜜の吸い応えがあるので好きだった。

大人になった今でもツツジの生垣を見るとあの頃を思い出してつい手を伸ばし、口にしたくなってしまう。でも……

えっ、そうなの!?

ソース→ https://weathernews.jp/s/topics/201904/200135/

うっ、その通りです… 

はい………

成長し色々なことを考えられるようになった今、もうツツジを吸えることはない。(当時のツツジたちごめんね)

当然のことではあるし仕方ないことでもあるが、目の前にあるのにもう二度とできないと考えると余計にウズウズしてしまう。しかし倫理を無視してまでやることでもないのだ、もう大人だし、

でも……

せめて、本物でなくても格好だけでも。

話は変わるが、アメリカ版アニメワンピースのサンジのタバコ飴に差し代わっている画像をご存知だろうか。

こういう画像です

ネット上で一度は目にしたことがある人もいるかもしれない。この比較画像。

アメリカでは子供向けアニメの喫煙シーンの描写が厳しいらしく、サンジの持つタバコを全て棒つきキャンディーに描き替える処理を行っているらしい。私はワンピースに詳しくないのにもかかわらずこの画像がやけに好きで、見かけるたびに「おっ、サンジさんの飴!」と思っている。

倫理的にダメな咥えるものは飴にしたらいいのかもしれない。もう咥えることのできないツツジも。

サンジさんもそう思いますか?

 

というわけで「ツツジを吸った気分になれる飴」を作ってみた。

ざっくりとこのような仕組みになっている。飴部分をCHU♡と吸えばツツジを咥えているように見える、擬似的にツツジを吸った気持ちになれる飴である。

 

花びらの造形には「すけるくん」という、乾燥すると透明感の出る特殊な粘土を使用した。

少し透明感のある作りのほうが花びららしさが出てフレッシュに見えると思うので。

手触りがもっちりしているのに手にくっつきづらく非常に扱いやすい。好きな粘土です。

最初は造花を使用しようと考えたが、ツツジの造花というのは手頃な場所にあんまり存在しない。

ダイソーで手に入るユリの造花を代用しようとも考えたが花びらの枚数が違い、ユリは花びらが6枚でツツジは5枚らしい。

すけるくんは一晩放っておくだけで下の図のようにスケスケになる。

どういう仕組み????すごい

練習として色をつけずに白いままで花びらを作ってみたが「氷の国で朝露の時間だけに咲く花」のようなファンタジックな姿になったのでこれだけでもう気持ち良い。架空植物を作るにはかなり最適ですよ。

 

外に丸めるために伸ばし棒に沿わせて乾燥

ツツジの花びらはよく見ると外側がヒラヒラしているので指で潰しながらそれらしいうねりを加える。指の腹でヒラヒラを作っている時は餃子の皮を作っている気分。

これは合間に作ったクリスタル水餃子。

 

乾燥すると色が濃くなるので絵の具の量には注意が必要だ。これは赤色を入れすぎたせいで安い居酒屋の半解凍ビシャビシャ馬刺しみたいになってしまった花びら。

700円近くするのに5切れしか乗っていない適当な馬刺し、許せない。

 

飴の棒とツツジの花びらを繋げるためにガクのパーツを3Dプリンターで作った。別にこのパーツはデジタルで作らず粘土で作ってもよいのだがこういうところをカチッと作るとなんだか製品ぽくなって嬉しい。

実際にツツジの蜜を吸うときはガクを外すものだけど無視しますよ。真実に忠実であることだけが全てじゃないから。

 

飴は食用に使えるシリコンに既製品の飴を砕いて流し込み、小さい円柱型に成形する。これでプッシュポップ(スーパーのお菓子コーナーにあるおもちゃみたいな手がベタベタになる飴)のようにチュポチュポ吸えるはずだ。

花の味として咄嗟に思いついた「花のくちづけ」の飴をベースにしたが、花のくちづけって味は別に花関係なくてミルクスモモ味だった。

 

他の造花からおしべをちぎって差し込み、それらしく整えることでツツジの蜜を合法的に吸った気分になれる飴が完成した。

季節外れになってしまったのでもはやツツジかどうかもわからない公園の植え込みにそっと置いてみる。悪くない。

 

CHU……🌷

 

あれ…?

確かにツツジを吸ってはいるのだけど……こんなんだったっけ?あの時のときめきを完全に再現したはずなのにどこかさびしい。

私はこの時思った、

ツツジの蜜は実のところ「みんなで楽しむ時間」を味わっていたのではないか。

幼稚園バスを待ちながら吸ったあの日、小学校の帰り道で吸ったあの日、誰かと一緒に吸うことでより楽しめるのではないか。

 

それは喫煙所の時間にも似ている。

私はタバコを吸わないが、喫煙所のコミュニティはずっと羨ましかった

グループや年齢関わらずあの場所にいる人だけの特有の交友関係を指咥えて見ていた。なぜか教授と交流の多かった同級生、なぜか他フロアの偉い人に気に入られている同僚、大体喫煙所にいる。タバコ以外の選択肢で混ざることができたら……

 

ツツジなら入っていけるのではないか。というか、ツツジ飴を吸うだけのグループがあっても良いのではないか。

仕事の合間に小さい部屋で肩を寄せて花を啄みながら談笑する時間はあまりにもかわいいから。

大人が花を吸う行動って日常で見慣れすぎて他人にやらせておいてまっすぐ見て良いものかわからなくてドギマギしてしまう。ツツジ吸いが当然の世界では「他人がやっていたらドキッとする仕草」にランクインしているのかもしれない。

あとツツジの漢字表記っていかつすぎる!「見る人が足を止めるほど美しい」という説や「毒性を知る動物たちが避けて通るから」という説があるらしい。足すぎ。髑髏(どくろ)と構成も似ているし。

 

話は戻り、ツツジ飴は真剣な場面でも効果を発動する。

仕事をすることがあれば煮詰まった会議のひとつやふたつ抱えるだろう。そんな時に……

ちっちゃい生垣!?

 

~𝑪𝒉𝒊𝒍𝒍~

オフィスにツツジがあれば会議だってリラックスし、お互い童心に戻ったかのような柔軟な発想で闊達に話し合いができるだろう。花を吸うこんなに麗しい姿の相手を鬼詰めすることなんてできないはずだから。

デスク生垣は小さいカゴに仏花の造葉を差し込んで作った。ツツジ飴もビニールで包めばそのまま差し込んでコンパクトな什器にすることができる。

飴の什器界でトップを独創していたチュッパチャップスタワーに一石を投じたい。アスクルでも取り扱って欲しい。オフィスグリコにも殴り込みたい。

大人になった今こそツツジ吸いを復活させたい。酒やタバコに次ぐ嗜好品としてのツツジ、いかがでしょうか。コンビニのレジの後ろに番号のついたツツジが並ぶ様子はきっと今より少し平和かもしれないから。

 

…でもこれ、見た目はそれっぽいけど蜜を吸ってる感覚とは違うかも!?

 

うっ…その通りです…

 

作っている時は気づかなかったが飴にすると実際のツツジとはちょっと吸い心地が違うのだ。

この時の違和感は口心地(くちごこち)の違いもあった。固形じゃなくて蜜を吸いたいんだよね。

 

そこで花の蜜を吸っている感をより出すためにツツジにハチミツの原液タンクユニットを取り付け、性能ぶっ壊れチートのような花に改造した。

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うおー!こっちの方がより蜜っぽい!吸って良いの!?

 

 

あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ

まい

このユニット、すごいんだ。

少し吸っただけでねっとりと洪水のような「甘」が口内を覆う。直飲みハチミツの甘さによる衝撃もあるが、視覚にツツジが入ることでよりリアルに花から直接摂取しているような、自然界の王になったような贅沢な錯覚をする。

これ、ヤバすぎます

効く、なにかに……

頭の中に「ツツジのフォアグラ」という概念が駆け巡る。子供の頃一生懸命わずかな甘さの蜜を求めてツツジを吸った動作と同じだからこそ、軽く吸うだけで最上級の大量の蜜がなだれ込んでくる違和感に頭がボンヤリしてくる。これが大人のプレミアムツツジ

 

あまりにも危険なのでハチミツバージョンツツジは一旦封印することにした。これは盆か正月にしか開けちゃいけない。みなさまも試される際は用法・容量を守り一人で過ごす金曜日の夜などにひっそり嗜まれるのが良いかと思います。

 

もしくは退職する人への花束に潜ませるのも手です。その状態で吸う蜜が一番美味しいと思うから。

 

(おしまい)