この夏！

 

日本列島に「暴走超特急オックス・エクスプレス」旋風が巻き起こる！

 

 

　国土交通省とニチレイが一夜限りのタッグを組み技術の粋を集めて開発した完全予約制後払い方式新型特急列車「暴走超特急オックス・エクスプレス」がこの春ついに人々の夢と希望等(ら)を乗せて

 

　走　り　出　す　……。

 

 

　津〜大津間を走るこの列車は電気やガソリンに代わるエネルギーとして誰も見てないのをいいことに好き放題、ママにも内緒で最高時速560キロに到達。あなたは座席に腰掛け、5分、いや、30秒時間を稼いでくれればいい。6営業日もあれば目的地に辿り着く。これはVTuberというジャンルが世に誕生してから商売になるまでのスピードとほぼ同じであり、そのことから「奇跡の鼎壺」とも呼ばれていると専噂(もっぱらのうわさ)。むろん我々はそれを「命」と呼ぶことも決してやぶさかでない。

 

そして本日。

 

 

　幸運にも2千万人の応募者の中から抽選で選ばれた電車戦士(ﾄﾚｲﾆｯｸ・ｳｫｰﾘｱ)たちが、暴走超特急オックス・エクスプレスの初運行を体験すべくロンドン駅のホームで虎視眈々と爪を光らせていたのだった……。(続きます)

 

 

 

 

 

 

――プルマン駅、第三ホーム

 

 

 

 

 

 

ｶﾞﾝｯ！

ｶﾞﾝｯ！

ｶﾞﾝｯ！……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

　最高ですよ先生！夢にまで見た暴走超特急オックス・エクスプレスに一番乗りできるなんて！

　おいおいハシャギ過ぎだぞ。一応これも取材なんだからな

 

　つゆ　つき　　　つぁーり
梅雨月　九割

爆乳推理小説家。

世界で初めて「爆乳推理小説」というジャンルを確立させた安全でかわいい友だち。

彼女の処女作「爆乳鬼ごっこ〜プライベートでごめんなさい…〜」は芥川賞と直木賞を2枚抜きするという快挙を達成し、その勢いは留まることを知らず今現在も衛星軌道上を周回し続けている。

 

　そして。

 

まごころ　たもと
真心 袂

担当編集者。

要領が悪く失敗ばかり繰り返すが仕事は常に全力投球！(キミと同じだね。)

何かにつけて

① ⑤ ② ④
　 ③ ⑥ ⑦

の順番でピノを食べたがる常軌を逸したド変態。いつも始点が見つからなくて泣いている。

 

　まっ、かく言う私も窓外の景色をつまみに楽しもうと、こいつを持参したわけだが

 

 

＼ヒェ〜〜〜ッ／

 

 

　あっ……！ワインだ！

 

　フフ、しかもメルシャンの300年モノだ

 

　すっげえや！ワインってなんかブドウをお題に大喜利したみたいな味しますよね

 

　こら！すこし考えちゃっただろ

 

 

 

　ごめんなさ〜い

 

 

 

 

 

　ワハハ……

 

 

ｼﾞｬﾝｶﾞｼﾞｬﾝｶﾞｼﾞｬﾝｶﾞｼﾞｬﾝｶﾞ……

 

　うわっ！な、なんだ！？

　(この臭い……まさか、ガソリン！？)

 

 

 

 

「え〜〜〜〜〜〜〜ｼﾋﾟｯ、ｼﾋﾟﾋﾟｯ(紙をめくる音)、

暴走超特急オックス・エクスプレス、まもなく発車時刻となります。

これから注意事項の説明とお互いの自己紹介を兼ねた簡単なオリエンテーションを行いますので、乗客の皆様はロビーへこぞってお集まりください」

 

　あっ、もうすぐ発車みたいですよ！ロビーへいきましょう！

　手元の資料によるとロビーは5号車のようだな。まったく君といると3年前で更新が止まってる子育てアカウントを見ているようだよ。我々も急ごう

　はい！

 

 


　……もしかしてさっきの、プロポーズなのかなあ。

 

　ねえ、みんなはどう思う？

 

 

 

※今後のストーリーで重要になるので各自プリントアウトして手元に置き、手垢で真っ黒になるまで使い込むことをお薦めします。

 

 

　梅雨月たちがロビーに足を踏み入れるとすぐに車内BGMがルパン三世のテーマ(オルゴールver)に切り替わり、彼らの入場を祝福した。

 

 

 

 

わいわい

 

がやがや

 

ビールおかわり

 

 

 

　ロビーはまるで西原理恵子の揚げた唐揚げに群がる男子小学生のごとく大勢の乗客で賑わっていた。彼らの興味が軒並み自分ではなく列車に向いていることを思えばなんだか虚しくなって鼻の奥がツーンと痛みだす梅雨月。とんでもなく自分本位で甘えた考えという自覚はありつつも、彼女には世界中の誰一人として自分のことを意識しない瞬間が少なからずあるというのが許せなかったし、それを思えば寿命の半分も生きた心地がしないのであった。

 

 

　フン……(モグモグ)

 

　フッ……(クチャクチャ)

 

　……(ズゾゾゾゾゾ……)

 

 

 

　すごいですね、先生！世界中から著名なセレブやドレブが集まってますよ

 

　うむ、よく見ておくといい。将来の破産管財人かもしれんからな。

 

　ロビーのテーブルの上には世界各国の様々な料理が所狭しと並んでおり、見る者に感動の二文字を与えること甚だしい。これこそまさに、乗客たちに心から旅を楽しんでもらいたいという運営側の粋な計らいを思わせるものであった。

 

 


△ 粋な計らいの例

 

 

 

なぜ笑うんだい？筑前煮はおいしいよ。

 

 

 

　皆さま、本日は暴走超特急オックス・エクスプレスに急にご乗車いただきありがとうございます。私がこの列車の車掌、蘇(チーズ)でございます

 

　そして同じく、私が急に運転手を務めさせていただくストーム・スリンガーです。快適きわまりない陸の旅を皆様にお届けするべく粉骨砕身いたしますのでどうか許してください。

 

　ふむ、楽しい旅になりそうだ……

 

だが、その予感はすぐに打ち砕かれる。

 

 

 

ガタン……ガタンガタン……

 

ガタンガタンガタンガタンガタン………

 

 

 

シュッポー！！！！！！

 

 

　タ　　ト
ガ　ンゴ　ン

 

ガ　ンゴ　ン
　タ　　ト

 

ガタンゴトン

 

シュイイイイイイイン……！

 

 

　お、おい！列車が勝手に動き始めたぞ！

 

　え！？　私まだなんもしてないですよ

 

　しろよ

 

　まるで四季のごとく突如移ろいはじめた列車、その瞬間を五感で味わった乗員・乗客たちの間に、どよめきと黄色い水たまりが広がっていく。

 

　そして、なおも悲劇は続く。

 

 

 

ザザッ、ザザザッ

 

 

　あー、あー。聞こえるかね

 

　みんな見ろ！スピーカーから音がするぞ！

 

　言われてみれば確かに……！

 

　突如いくばくかの雑音がスピーカーから流れたかと思えば、それに続いて響き渡る謎の男の声。一体この地で何が起きようとしているのか……？

 

 

 

　我々は秘密結社「おぼろリングス」

 

　今からこの暴走超特急オックス・エクスプレスは我々、秘密結社「おぼろリングス」が占拠する！

 

 

 

？？？？？？？？？？？？？？

 

 

 

 

　も、目的は何だ？遅延証明書か！？

 

　違うんだなこれが

 

　今回、君たちにはあるゲームに挑戦してもらう

 

　ゲームだあ？こちとらあいにく、コール？オブ？ビューティ？？？で間に合ってるぜ！

 

　そうだそうだ！アニメ。ゲーム。タレントが出した謝罪文の赤ペン添削。オタクを馬鹿にするな！！！！！

 

 

　そんなものとは比べ物にならないほど頭と体をフルに使う楽しいコンテンツさ、フフ

 

　なるほど……

 

　なおゲームをクリアするまで列車は絶対に停止することはないので、そのつもりで

 

　デビ！？

 

　止まらないですって！？

 

　ふざけんな！！

 

　は、早くしないと始まっちまうだろうが……！！4時からデリカが……！！

 

　こんな旅ぜんぜん楽しくないな……

 

　謎の男の一言で、場内は面白いくらい悲鳴で溢れた。

 

　落ち着きたまえ。今からゲームのルールを説明するから

 

 

　この列車内の何処かに、4ケタの緊急停止コード「3152」が隠してある。

 

　それがどうした！

 

　うおっ急にでかい声出すなよ……(大声ダイヤモンドかっつーの)

 

　大声ダイヤモンドではないのであった。

 

　そのコードを運転台に入力すれば列車は止まる

 

 

　コードの隠し場所を示すヒントは車内のあちこちにばら撒かれている、それらを手がかりに見つけ出すことだな

 

　つまり「3152」を探し出して入力するしか列車を止める手立てがないわけか

 

　そういうこと。理解が早くて助かるよ。どこのどいつもかなわんよ

 

　えへへ褒められちゃいました

 

 

 

　それでは諸君、健闘を祈る。

 

 

 

 

 

　最後に意味深な言葉を残し、スピーカーからの声は途切れた。

 

 

 

 

　どどどどうしましょう先生！！

 

　落ち着きたまえ。優秀な君がなんたるザマだ。

 

　それに輪をかけて優秀なのが日本の警察だ。いつか真実にたどり着いてくれるさ

　せっかくの旅なんだ、楽しまなきゃ損だぜ。受付で借りてきたアグリコラでもしながら一杯やろうじゃないか

 

　それも一興、ですよね

 

　二人はロビーを出て客車へと舞い戻った。

 

 

――それから、数時間後。

 

 

ぐぎゅるるるるるるるるるるるる

ぐぎゅるるるるるるるるるるるる

 

　すごい騒がしさだな。電話売り場か？

 

　客車中に響き渡る謎の怪音。それは確かに、真心の腹部から発せられていた。

 

　せ、先生……

 

　お腹がすきました……

 

　我慢したまえ。食堂車が常連客と店員で盛り上がっててすごく入りづらいんだから

 

　きっとこれもあの犯罪者たちの仕業だろうな……

 

　両顎に手を当てて唸る梅雨月。

 

　そんなあ。食堂車でごちそう食べるのを楽しみにして9年前から絶食してるんですよ

　そんだけ耐えたなら今日も平気だろ

　それが今日爆発したんですよ

　そっか……

 

 

　も、もうだめだ。このままだと物心を失ってしまう

 

　それ失うことあるんだ

 

　あ！見てください先生！

 

 

 

　あんなところにスシローが！やったー！

　ま、待て！よく見ろ。それはおそらく罠だ

 

　外界から隔絶された空間に突如出現したオアシス。だが、梅雨月の聡明たる頭脳と長年の経験が、一見完璧と思えるスシローから微かな綻びを感じ取っていた。しかしもう遅い。

 

 

　すべての食材に感謝をこめていただきます

 

　梅雨月が制止するより早く、スシローとおぼしき金属片に手を伸ばした刹那、鋭い衝撃が真心の全エクボを貫いた。

 

 

 

べしゃりブリンッ

 

 

 

 

　ギャアアアアアアアアアアアアアア

　ああ……言わんこってす

 

 

 

 

 

　ウ　アウッ　ウァア　アクッ　ヒクッ　ファッ　アグッ

　かわいそうに……落とし穴とはなんと卑怯な……

 

　見るも無残な姿でさめざめと涙を流す真心。ダメージは深刻なようで苦痛に顔を歪ませ、その表情はどことなく陰茎の断面図を彷彿とさせる。

 

　ちょっとこの布借りるぞ

 

　梅雨月はつい先刻まで身に着けていたボロネーゼ柄のパンティーを脱ぎ下ろすと、ほかほかと躍動するその布塊(ぬのくれ)を真心の傷口へ惜しげもなく大胆にあてがった。
(人間、いつだってこうありたいものだ)

 

　せ、先生……！汚いですよ

 

　こら、動くと余計に痛むぞ、しばらくは動かず安静にしているんだ。

 

　なぜ、罪もゆかりもない彼がこんな酷い目に遭わなければならないのか。

 

　普段は温厚な人柄で「びっくりするからガラスをたたかないでね！」と書かれたことさえある梅雨月も、この時ばかりは犯人に対する怒りがご飯食べた後の子猫のお腹のごとく膨れ上がった。

 

　秘密結社おぼろリングスとかいったな……あんま悪いやつじゃなさそうだからと静観していたが、大切な身内を傷つけられたとあってはもはや看過できん……！

 

　待ってろよ暴走超特急オックス・エクスプレス！必ず謎を解明し、ここから脱出してみせるんだからな！

 

　出た！先生のいつもの決め台詞「待ってろよ！暴走超特急オックス・エクスプレス！必ず謎を解明し、ここから脱出してみせるんだからな！」

 

 

　丸亀製麺のうどん札でパンパンになった財布を握りしめながら、決意を新たにする梅雨月であった。

 

　でも、どうやって脱出するんですか？

　うん。今はしらみつぶしに当たるしかないな。これから乗客に聞き込みを行う、行くぞ！早くついてきたまえ！

　はい！

 

 

 

 

ｶﾞﾝｯ！

 

 

　最初のプレゼンターはこいつだ。

 

　　まりさ　　　　おるがん
魔理沙 オルガン

都内で会員制の高級殴られ屋「井出の面(いでのつら)」を68店舗運営する実業家。

歯に衣着せぬ物言いで毀誉褒貶が激しく、なにかと世間を騒がせている。

つい先日も自身のSNSで「ちいかわより孫のほうが可愛い」と投稿し炎上、ちいかわ派と孫派に分かれての大論争を引き起こしたことは記憶に新しい。(最終的に「中学生カップルの初々しさの前にはどちらも児戯に等しい」という結論で決着した。)

良くも悪くも話題に事欠かさない人物である。

 

グググッ

 

 

　私、こういうものでして……ッ

　ほう、ビーダマンの持ち方で名刺を渡すとは見上げたやつだ。

　へへん、いいでしょ。私が教えたんだよ

　感心感心、韓信の股いじり

　(韓信の股くぐりのパロディAV！？人間って面白……)

　それで、話とは何だね？

　それが……

 

ぐぎゅるるるるるるるるるるるる

 

　あっ

　き、キミ！なんて失礼な。人が話してる最中に言うに事欠いて咆哮とは

 

　す、すみません

　ったく、最近の若いモンはどういう教育受けとるんだ。どうせアレだろ？ABCも「H・I・J・K・LMNOP」で覚えた世代だろ？なんだよOPって。オッパイのこと考えすぎだからそんなもん入る隙が生まれたんだ

　申し訳ない……。あとは私がやっておくのでもう帰って大丈夫です

 

　そうか、頼むよ全くッ！

 

　肩をぷりぷりと怒らせて彼が大股で去っていったあと、梅雨月は真心の方へ向き直る。

 

　まったく君ときたら……

 

　ごめんなさ〜い……。生きて罪を償います

 

　まあまあ、そこまでしなくても。気を取り直して次に行こう。

 

 

――４Ｆ、喫煙室

 

　いぎ　　やしゃ
イギ夜叉

イギリス人の父と日本人の母をもつ青年エリート証券マン。

出社直後に伊藤園の株を1000つ購入し、そこから8時間ひたすら健康ミネラル麦茶を飲み続け、退社直前に株を売却することで月に300万以上の利益を得ているやり手である。

その手腕によって、30代前半にしてジム、プール、温泉、カラオケ、ビリヤード、ダーツ、ドリンクバー、ソフトクリーム食べ放題付き、お席の移動は何度でも自由。

　ぶしつけだがお話をお伺いしても？

　構いませんが、仕事もあるので手短に願えますかな

　大丈夫です。仕事のことなんかすぐに忘れさせてやりますよ

　頼もしい……

 

 

　梅雨月が話を切り出そうとした途端、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 

モワ～ン、モワ～ン。

 

　失礼、電話だ。ちょっと待ってくれ

 

 

　もしもし

　……なに！？

　コクヨの株が大高騰した！？

 

　よし、今すぐ全て買い占めろ！いいな！

 

ﾌﾟﾁｯ

 

 

 

　すまない。それで、どのような話を……

 

モワ～ン、モワ～ン。

 

　失礼、また電話だ

 

　もしもし

　……なに！？

　コクヨの株が大暴落した！？

 

　よし！今すぐ全部売れ！いいな！

 

ﾌﾟﾁｯ

 

ｶﾁｯ、ｼｭﾎﾞｯ

 

 

 


　フー、株を触ったあとの手で吸うタバコはうまい……

 

 

　(なるほど、ああやって旅先でも遠隔で株取引することで莫大な利益を得ているのか)

　でも、そんな生き方が本当に幸せなのかな……？

 

　釈然としない思いを抱えながら、二人はその場を後にした。

 

 

　最後はこいつだ、手強そうだし背筋引き締めていくぞ

 

フーピー・キリムロンド

イギリスの名家、キリムロンド家の一人娘。

キリムロンド家は創業以来およそ200年の歴史を持つヨーロッパ有数の醤油問屋である。
彼らが苦心の末生み出した世界最長の醤油「ザ・オロチ」は一度垂らし始めたらこの世の全てを漬(づ)けつくすまで決して止まらないという伝説で恐れられている。
また、この一族の機嫌を損ねたら今後二度と鼻セレブに醤油を付けて食べられなくなるなど、ティッシュ界隈にも絶大な影響力を持つ。

 

　すみませんがお話を聞かせていただこうか

 

　梅雨月九割さんね

 

　あなたの書いた「シャングリラ・フロンティア〜我、乳首でイクことに成功せり〜」、私も読んだわよ

　おお身に余る光栄。どうだった？

　2ページ目まで読んでもまだ目次だったから飽きて捨てちゃった

　そこからがオモロいのに！

　ふん、どうだか……

 

 

 

　ねえ、そこのアンケートオタク。

　ふぇ？私ですか

　他に誰がいるってのよ。私が幽鬼のたぐいに見えて？

　はい

 

　ねぇ、こんな赤ちゃんの肘の内側より汚い女といるより私の部屋へ遊びに来ない？

 

　(言ってくれるな、赤ちゃんの肘の内側とは。夢が詰まってるんだぞ)

 

　握りこぶしと勘違いしているのであった。

 

　で、でも僕は先生に常についていないと……

 

　真面目ねえ。それじゃあ……

 

　真心の両耳に顔を寄せ、そっと囁くフーピー。

 

 

 

　４コマ漫画でもお目にかかれない”文鎮”みたいな”サーターアンダギー”、食べさせてあげてもよくってよ……

 

 

 

　うっ、ずるい……

 

　……ﾝｺ……ﾊﾟ……

　え？なに？

　……ｼ……ﾝｺ……ﾊﾟ……！

　なんて？

　……ｼﾝ…ｶﾝｺ……ﾊﾟ……！

　「新歓コンパ」って言ってる？

　…………ｸｿｶﾞｷ……クソガキめ……！

 

 

　悋気に逸り顔を歪ませる梅雨月九割。

 

　常に合理的で冷静沈着、深謀遠慮な彼女にあっても怒りを抑えきれない瞬間はある。特に許せないのがクソガキ・クソアマ・クソジジイの三つだった。頭にクソのつくものにはロクなものがない。それがこの経験から得た唯一の学びである。

 

　そして……、幸か不幸か、彼女にとってフーピーはそのうちクソガキとクソジジイの2つの条件を満たす人物に映っていた。

 

 

 

 

 

　日本国憲法がお前を生かす判断を取ったことに感謝しろよ

　えっ、うぇっ、なに？

　先生なりの励ましですよ、生きとし生けるものに感謝の心を忘れるなって

　……。

 

　そういうことではないのだがな。

　梅雨月はストローに息を吹き込み、クリームソーダをぶくぶくと鳴らせた。

 

――列車爆発まで、あと25分。

 

 

　これで乗客全員に話を聞けましたね、どうですか？なにか分かりましたか

　うむ。そういえば誰も今回の事件について一言も発さなかったな。これは全員、犯人グループと何らかの関与があると断定していい

　へえ、今そういうのが流行ってるんですか

　嘆かわしいことにな

 

　事件は暗礁に乗り上げ、途方に暮れる二人。

 

 

 

 

 

 

＼キャアアア／

 

 

　おっ、悲鳴悲鳴。

　何か起こったらしい、行ってみよう

 

　闇夜をつんざく鋭い悲鳴を耳にして、二人は声のする方へと駆け寄った。

 

　すると、そこには。

 

 

 

　あ、さっきの罠だ……！

 

 

 

　ウ　アウッ　ウァア　アクッ　ヒクッ　ファッ　アグッ

 

　罠の前には、苦しそうな呻き声を上げるフーピー・キリムロンドの痛ましい姿があった。

 

　だ、大丈夫ですかフーピーさん！

 

　わ、私としたことがこんな初歩的な罠にひっかかるなんてね……

 

　僕がかかったトラップのこと悪く言わないでください！

 

　梅雨月さん……

　なにィ

 

　こんなことなら、あなたの書いた本も謝辞まで読んどくべきだったわね……

 

　君……

 

　ぱ、ぱーぷる……

 

　そう言い残して彼女は気を失った。

 

　「ぱーぷる」というのはほんの、瀬戸内寂聴が素性を隠してケータイ小説を執筆した時に用いたペンネームにすぎないが、その一言は頑なだった梅雨月の心を溶かすには十分すぎる威力を誇っていた。

 

　分かった、君のためにもこの豚糞みたいなゲームをきっと終わらせてみせる

 

　出た！先生の決め台詞「豚糞」！！

 

 

　しかし未だに脱出手段がさっぱり浮かばんな

 

　そういえば車内にヒントがあるとかないとか言ってましたね

 

　このポスターとかどことなく変じゃないですか？

 

　そう言って彼が指さしたのは、壁に掛けられた一枚の広告。

 

 

 

 

 

　いや、多分関係ないだろう。今回の事件と古田の間に関連性はない

 

　そうですか。じゃあこっちは？

 

 

 

 

 

　これも違うだろう

 

　それにしても無駄に金をかけてるんだな、この乗り物は……

 

　呆れながらポスターを眺めていた梅雨月だったが、突如何かに気づいたようにハッと顔を上げた。

 

　そうか、そうだったのか……！

 

　真心くん！今すぐ乗客のみんなをここへかき集めてくれ！

 

　は、はい！

 

 

　かくして、ロビーに集められたすべての乗客たち。

 

 

　おいおい、なんだよ

　探偵ごっこもそのくらいにしとくんだな

　せっかく寝てたのに騒がしいわね……

 

　ひい、ふう、みい……まあこんなものか

 

　乗客たちを指差しで数えて満足気に頷く梅雨月。彼女の出した答えは果たして、この事件を終焉に導くのか、それとも……？

 

　お集まり頂いた所すまない

 

　じゃあ真心くん、運転席のパネルに今から言う4つの数字を打ち込んでくれ

 

　は、はい

 

 

3

 

1

 

 

5

 

 

 

 

 

2……！

 

 

 

 

ｽｩｰｰｰｰｰｰｰｰ

 

 

 

 

 

ピ　　　　タ　　　……

 

 

 

　れ、列車が……

 

　止まった！？

 

 

　でもどうして！？

 

　あれほどしつこく地上を大爆走していた暴走超特急オックス・エクスプレスが、たった4桁の数字を打ち込むだけでピタリと静止したことに驚きと局部が隠せない乗客たち。

 

 

　簡単なことだ。

 

 

　この列車を止めるためのコード、それが「3152」だった。それだけさ

 

　何故それが分かった？

 

　理由は……

 

　梅雨月は、彼らの背後で妖しく蠢く2枚のポスターを指さす。

 

 

 

　このポスターだよ。

 

　なんだ、普通のポスターじゃない

 

　おいおい(笑)、考えてもみたまえ

 

　こんなチンケな電車に、わざわざ無駄金かけて豪華な有名人を使う意味ないでしょうが

 

　たしかに

 

　それなのにこの二人を採用したのは、そうでなければいけない理由があったからだ

 

　理由？

 

　人間が例外なく誰しも持ち得る2桁の数字がある。分かるかい

 

　尿酸値？

 

　惜しい

 

　そうか……！

 

 

　年齢……！！

 

　古田敦也は31歳、そして花江夏樹は52歳。2人の年齢を並べると……

 

　3152……！！

 

　そういうこと。

 

　犯人はかつて言った。この車内にヒントを散りばめていると

 

　31歳の有名人といえばこの世に古田敦也しかいないし、52歳に関しても同様だ

 

 

　だからわざわざ、この2人を採用したのだよ

 

　これが全ての謎の結末だ

 

　すごい洞察力だ！いったいどんな修羅場を……？

 

　梅雨月は舌なめずりをしながら、ぽつりとつぶやく。

 

　God bless you…(ごっそさん)

 

　お前はそれでいいのかよ

 

 

 

　おい、秘密結社おぼろリングス。どうせ今の会話も聞いてるんだろ

　ごめん。オッパイのこと考えてて全然聞いてなかった

　ふん、それ見たことか……これで分かっただろう

 

 

 

 

これが、私たちの絆の力だ！！

 

 

だってさ。

 

 

　う、ううううう……

 

 

 

 

 

 

　ムキー！！！ちくしょー！！！！！！

 

 

　おぼえてろよーッ！！！！！

 

 

　アハハハハ！！！顔真っ赤

　みじめなもんだなァ！いつの時代も悪ってヤツは

　おーい、忘れモンだぜ！迷惑のオッサン！

 

　迷惑のオッサンは全員だろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終われっ……！！

 

 

 

 

 

 

終われっ……！！

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頼む！！！！！！

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わってください！！！！！！！！

お願いします！！！！！！！！