突然ですが、これが何の数か分かりますか?
「アメリカで1年間に消費されるフリスビーの数」?
それとも「ふじいあきらがこれまで口から出したトランプの枚数」でしょうか。
多分違います。
この数字の正体は、ロックバンド・AC/DCが出した『バック・イン・ブラック』というアルバムの総売上枚数。
1980年に発売されたこの作品は、その記録から「人類史上2番目に売れたアルバム」と言われています。(※3番目という説もある)
ただ「このアルバムが世界で2番目」と言われたら、1番目も気になりますよね。一体誰の作品でしょうか?
「史上最も売れたアルバム」は、マイケル・ジャクソンの『スリラー』(推定7000万枚以上)らしいです。流石キング・オブ・ポップ。
多分アルバムを通して聴いたことはなくても「マイケル・ジャクソンが死体と踊るやつ」としてご存知の方も多いはず。表題曲の他には『ビート・イット』や『ビリー・ジーン』なんかも有名ですよね。
では話を戻して、AC/DC、そして『バック・イン・ブラック』はどうでしょうか。
パッと思いつく曲や、知っているメンバーはいますか?
…
大丈夫です。きっと、
という方がほとんどだと思います。
そう、AC/DCは伝説的な記録を持っていながら、実は日本での知名度があまり高くないんです!
先程質問に答えられたのは、かなりのロック好きか楽器経験者だけでしょう。
ただ、これには仕方がない部分もあります。
例えばビートルズは海外アーティストの中でも知名度や影響がトップレベルですし、クイーンも伝記映画が近年めちゃめちゃヒットしましたよね。
彼らと比べると、AC/DCにはそういったフックが多いとは言えません。
どこかで曲が流れても「AC/DCの●●という曲」ではなく「なんかノリの良い洋楽」という認識を越えないことがほとんどです。
というか海外のバンドってそもそもアルバムがたくさんあるし、作風もメンバーも時期によって違うし、古い音源は音質のギャップが凄いし…
「どんなバンドなんだろう?」って興味を持ったとしても、正直取っつきにくいですよね。
でも大丈夫!!
何故なら…
この記事で私が言いたいのは、正直これだけです。
今年でなんと結成50周年を迎えるAC/DCですが、その間ずっと作風が変わっていません。
半世紀の間ずっっっとシンプルなロックを演奏しているバンド、それがAC/DCなんです。
シンプル過ぎる歌詞
AC/DCの「シンプルさ」を端的に表したジョークを紹介します。
サビといえば、曲の中で一番盛り上がる部分。美しい歌詞やメロディーは人の心を強く打つものですが、ハードロックバンドである彼らはあまりそういった方法を取りません。
それどころか「サビの歌詞はただ曲名を叫ぶだけ」で、しかもそういう曲「しかない」…!?
思わず「嘘乙」と疑いたくなってしまいますが…
こちらの画像は「よくあるAC/DCの歌詞パターン」です。
叫びすぎじゃない??
イントロは簡単なギターリフから始まって、サビはひたすら曲のタイトルを連呼するだけ。音楽ってこんなシンプルでいいんだ。
「サビでハイウェイ・トゥ・ヘルって言う曲」こと、『ハイウェイ・トゥ・ヘル』
代表曲『Highway to Hell(邦題:地獄のハイウェイ)』をはじめ、実際AC/DCの楽曲はほぼこんな感じです。もうShazam要らないかもな。
…しかし、先程書いたようにAC/DCの活動期間は約50年。
「全曲は言い過ぎ」「実際はそうでもなかったりするんじゃない?」と思う方もいるでしょう。
事実私も大まかにしか覚えていないので「本当に全部タイトルを叫んでいるのか」と言われると正直自信がありません。実際には意外と6割くらいだったり…?
ただ、中学生の時から10年以上AC/DCを聴いている私としては、彼らの認知度が低いままなのはやはり寂しい!
ギターの音楽が下火になりつつある現在でも、十分魅力が伝わりやすいバンドだと思っています。
…ということで今回は、
AC/DCのシンプルさを証明するために
「本当に全曲タイトルを叫んでるのか」を調べてみます!!
「50年間で通算何回叫んだ?」
「一番叫んだアルバムは?」
「1曲で平均何回叫ぶ?」…といった、
恐らく本人たちも知らないAC/DCの秘密が今日明かされる!!!
調べる前に
検証に入る前に、まずは彼らの来歴について軽くおさらいしましょう。
※イメージです
AC/DCは1973年にオーストラリアのシドニーで結成されました。
ロックといえばアメリカやイギリスのイメージが強いだけに、少しだけ意外ですね。
31 March 1955 – Angus Young born in Glasgow. pic.twitter.com/NZ4thook0g
— AC/DC (@acdc) March 31, 2022
デビュー以来なぜかずっと学生服を着用しているアンガス・ヤング氏
中心となったのは、マルコム・ヤングとアンガス・ヤングという兄弟。担当楽器は2人ともギターで、作詞作曲も主にこのヤング兄弟が担当していたようです。
アンガス(弟)が前に出てリードギターを弾き、マルコム(兄)は後ろで伴奏に徹する。これがAC/DCの基本的なスタイルです。
どうやって検証するのか
なんとなくAC/DCの来歴が分かったところで、次に検証方法と「全楽曲」の範囲を決めましょう。
こちらは、彼らの主な作品をまとめたものです。
AC/DCがこれまでにリリースしたスタジオアルバムは16枚。
今回の検証では、そこにミニアルバム(EP)や限定音源を加えた計186曲を対象とします。
余談ですが、女優・歌手である菊池桃子さんの楽曲数も180曲くらいだそうです。
「AC/DCと菊池桃子はどちらが曲のタイトルを叫ぶのか?」という検証企画もいつかやってみたいですね。
検証には、CDの歌詞カードやサブスクサービスの歌詞表示機能を使用。
186曲を聞きながら、186曲分の歌詞を読んで確認します。かなり分かりやすい。
例えば『Hells Bell』(邦題:地獄の鐘の音)というタイトルの曲であれば、原文の歌詞中に”Hells Bell”(地獄の鐘の音)というワードが含まれていればOKとします。
確認が終わったら、叫んだ回数と評価を記録します。全曲聴き終わると同時に、歌詞の集計データも全て揃う訳ですね。
バークリー音楽大学の課題ってもしかしたらこんな感じなんでしょうか。現役生の方がいたら教えてください。
ちなみに検証前の現時点では「AC/DCは全曲サビでタイトルを叫んでいる」と予想しています。
もちろん全く叫ばない曲が存在する可能性は否定できませんが…できれば100%に近い結果であってほしいですよね!
では早速、検証スタート!!
(追記:ファーストアルバムの1曲目が『It’s a Long Way to the Top (If You Wanna Rock ‘n’ Roll)』ってタイトルなんですが、検証の最初の曲としてめちゃくちゃ良くないですか?(別にロックンロールの頂点を目指しているわけではありませんが…))
データで見るAC/DCの歌詞
まずはAC/DCがデビューした1970年代の作品から。
76年『High Voltage』から79年『Highway to Hell』まで、計57曲中何曲叫んでいるかを確認してみます。
結果はこちら!
57曲中、叫んでいたのは56曲!!
いきなり叫んでない曲あるじゃん!!
最初から意外な結果となり驚きが隠せませんが、一体どんな楽曲なのでしょうか…
この時代唯一叫んでいなかったのは『Crabsody In Blue』というブルージーなナンバー。タイトルは『Rhapsody in Blue』のもじりでしょうか。
実はこちら、3枚目のアルバム『Let There Be Rock』のオーストラリア限定盤だけに収録されたちょっとマイナーな曲。現在流通しているバージョンでは別の楽曲に差し替えられています。
もしかしたら「一回もタイトル叫んでないしカットせん?」というバンドの意向があったのかもしれません。(多分違う)
次に「叫んだ回数」を見ていきます。
70年代にリリースされた作品と、タイトルを叫んだ回数をグラフにまとめました。
1曲平均はおよそ16~20回が基本なようです。ただ最も叫んでいた『Go Down』は、なんと1曲の回数でアルバム全体の1/3を占めています。
アルバム単位で見ると、4枚目の『Powerage』だけ異常に低かったり活動初期らしく多少のブレはあるものの、全体的には160回前後で安定していますね。
比較対象がないと分かりにくい気がしたので、最も叫んでいた『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』と、手元にあった『放課後ティータイムII』を比べてみました。
楽曲数が同じにも関わらず、歌詞にタイトルが登場した回数は約9倍もの差がついています。叫びすぎだろ。
もちろんこれはどちらかが優れているという話ではありません。
両者の間にあるのは「放課後ティータイムはガールズバンドであり、AC/DCはタイトルを叫びまくるハードロックバンドである」という違いだけ。っぱ音楽って自由だから。
80年代のAC/DC
80年代に入り、AC/DCはバンドとして大きな転換期を迎えることになります。
OTD 1980 – Bon Scott R.I.P.
Photo: © ERIC MISTLER/DALLE pic.twitter.com/OUHKoGs2uY
— AC/DC (@acdc) February 19, 2022
1980年の2月、ボーカルを務めていたボン・スコットが不慮の事故で逝去。
前年発表の『Highway to Hell』がヒットし、世界的なブレイクを起こしかけていた矢先の出来事でした。
OTD 1980 – “Back In Black” mixes are finalized at Electric Lady Studios in New York.https://t.co/Ml2Gbv7pci pic.twitter.com/4ckHRVCina
— AC/DC (@acdc) June 29, 2022
帽子がトレードマークのブライアン氏
その後、新ボーカルとしてブライアン・ジョンソンを迎えリリースされたのが、冒頭で紹介した『バック・イン・ブラック』です。
この作品はAC/DC史上最大のヒットアルバムとなり、今なおロック史に残る名盤として語り継がれています。
この時代に発表された楽曲は計53曲。
ボンとブライアンはそれぞれ一部楽曲の作詞も手掛けていたようですが、歌詞に変化はあったのでしょうか…?
結果は…
全曲叫んでました!!すごすぎる!!
飛び抜けて高い数値にはならなかったものの、叫んだ回数も150回前後で非常に安定しています。
主要メンバーの交代を乗り越え、スタイルを貫き通したAC/DCの屈強さが伺える結果となりました!
番外編:AC/DCと映画
80年代、ついに世界屈指のロックバンドとして地位を確立したAC/DC。
とにかくシンプルで盛り上がる彼らの楽曲は、とりわけ映画の世界では「シーンの高揚感をMAXまで引き上げるBGM」として起用されてきました。
『アイアンマン2』や『バトルシップ』といったアクション作品から、クラシック・ロックへのリスペクトが詰まった『スクール・オブ・ロック』まで、数々の人気作品でAC/DCの曲を聴くことができます。
今回はそんな中から、AC/DCがオリジナルの主題歌を書き下ろした2本の映画を紹介します!
『ラスト・アクション・ヒーロー』
1993年公開の『ラスト・アクション・ヒーロー』は、みんな大好きアーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション映画。
映画の世界に入り込んでしまった少年が、スクリーンのヒーローと大冒険を繰り広げる作品です。端的に言えば「発砲&発砲&爆発」という感じ。
アンガス&シュワちゃんの身長差にも注目
この映画の主題歌としてAC/DCが書いたのが『Big Gun』という凄いタイトルの曲。
なんとMVではコスプレをしたシュワちゃんとAC/DCが共演しています。真顔でステージをウロウロする188cmの男、邪魔過ぎるだろ。
ちなみにサビはやはり「ビッグガン!!ナンバーワン!!」みたいなことしか言ってません。
AC/DCの中でもトップレベルでストレートな歌詞だと思うんですが、心臓を撃ち抜くようなギターリフや、この時参加していたクリス・スレイドのパワフルでタイトなドラムが「デカい銃が一番強い」という歌詞に絶大な説得力を持たせている気がします。
(※ちなみに叫んだ回数は16回と割と平均的な数値でした)
『地獄のデビルトラック』
『地獄のデビルトラック(原題:Maximum Overdrive)』は、
自我を持った機械(主に大型トラック)と人類の極めて小規模な闘いを描いたパニックホラー映画。
公開は1986年。監督・脚本を務めたのは、現代ホラー小説の巨匠スティーブン・キングです。
「80年代!」なスネアに思わず頬がほころぶ
AC/DCは主題歌『Who Made Who』に加え、まさかの劇中の音楽全般を担当。キング氏が元々AC/DCのファンだったそうです。
ホラーの巨匠と無骨なハードロックバンドというタッグがどんな化学反応を生むのか非常に気になりますが、
この映画にはどこかゆるい雰囲気が漂っています。
こういうのが襲ってくる
機械によっては反乱のやり口が地味だし(暴言を吐くなど)、人類側も殺人トラックを目の前にトランプで遊び始めたりするし、
そもそも映画の半分くらいはトラックの列がガソリンスタンドの周りを周回する映像だし…
そこに加わるのがAC/DCのご機嫌なロック。郊外の開放的な景色も相まって「アメリカのデカいトラック、カッコいいな…」という気持ちにさせてくれます。
そんな訳でそこそこ迷作として扱われている『地獄のデビルトラック』ですが、現在はU-Nextで観られるみたいです。ハードロックやアメリカントラックが好きな方はぜひ!
90年代~最新アルバム
90年代以降のAC/DCは、徐々にアルバムリリースのペースが落ちていきます。
それまでは10年で5枚ほどのペースだったのに対し、90年~現在までの30年間で出たアルバムは計6枚。
(ペースが延びたことにより、アルバム1枚の収録楽曲数も少し増えてますね)
というわけで、90年『Razor’s Edge』から最新アルバム『Power Up』までの結果は一気にまとめて発表したいと思います!
まずは「叫んでいた楽曲数」から!結果は…
76曲中、なんと71曲!!!
ここに来て叫んでいない曲が5曲も。流れ変わった?
こちらが叫んでいなかった楽曲。特に相関性は見られなかったものの「実は最近、叫んでいない曲も増えている」と言えそうです。
それを踏まえた上で、次に叫んだ回数の推移を見てみましょう。
データを見ると、やはり「2000年を境に回数の傾向が大きく変わった」ようです。
『Stiff Upper Lip』以前と『Black Ice』以降で1曲の平均に差が出ていますね。
1990~2000年にかけてのアルバムは、1曲平均の数値は以前と変わらないものの、収録楽曲が増えたことによりアルバム1枚の合計がやや高めになっています。
そんな中、2000年発売の『Stiff Upper Lip』はアルバム合計と1曲平均どちらも全作品中1位となりました。
収録曲数が増えているだけでなく、そもそも一曲毎の叫ぶ数が異常に多い本作こそが「AC/DCで最もタイトルを叫ぶアルバム」と言って間違いないでしょう。(実際聴いてて体感できるくらい叫んでました)
2008年の『Black Ice』あたりからは、1曲中で叫ぶ回数が減ってきます。
細かく見れば『Money Made』(30回)や『Dogs of War』(24回)のような高回数の曲も健在ですし、元来の「タイトルを叫びまくるバンド」であることは変わっていないはずですが…
全くタイトルを叫ばない曲が増えていることも踏まえると、やはりこの15年間でAC/DCの歌詞に変化が生まれている…?
もし今後新しい楽曲が出るとしたら、叫ぶ回数はどのように変化するでしょうか?
現在新しいアルバムやツアーの予定は特にないようですが…結成50周年というメモリアルな本年、何か動きがないか楽しみですね!
AC/DCは本当にタイトルを叫んでいたのか
183曲全ての集計がついに終わりました。
AC/DCが曲中でタイトルを叫んでいたのは…!
186曲中、180曲。
検証の結果「AC/DCがタイトルを叫ぶのは、全楽曲中の96.8%」であることが判明しました。
予想通り100%…ではありませんでしたが、これはもう「AC/DCにはタイトルを叫ぶ曲しか無い」って言っていいのではないでしょうか。いいよね?
ちなみに叫んだ回数は累計で2773回。1曲平均は約14.9回となりました。
叫んだ回数TOP5と、叫んでいなかった曲はこんな感じです。
一番叫んでいた『Go Down』、最後の1分位本当に“Go Down”しか言わないパートがあります。(というかここに載っている曲はほとんどそう)
ちなみに「時間あたりの叫んだ数」では『Brain Shake』が最多でした。およそ5.6秒に1回は”BRAIN SHAKE!!”と言っているらしいです。
逆にAC/DCがタイトルを一切叫ばないレアな曲がこちら。
もちろんタイトルを叫ばないからといって、楽曲にAC/DCらしさが無いわけではありません。
『Rock ‘n’ Roll Train』『Rock the Blues Away』はMVも制作されていますし、当たり前ですが本人たちも叫ぶ回数にこだわって作っているわけではなさそうですよ。
全楽曲をまとめた詳細な集計データはこちらから御覧ください(※大きめの画像が開きます)
生活でためになったりする情報は一切無いので、暇な時にみて「ふ~ん」って言おう!
さいごに
検証は以上となります。AC/DCのシンプルさはご堪能いただけたでしょうか?
今回調べたデータは、恐らく長年のAC/DCファンでも知らなかったはず。ぜひご家族や学校の友達に話して変な顔をされましょう。
最後に、出揃った検証結果を踏まえて
「AC/DCが全然タイトルを叫ばないプレイリスト」を作ってみました。
もし記事を読んでAC/DCに興味が湧いたら、ぜひ一緒にタイトルを叫ぶか、首を振り回すかしてみて下さいね。
(叫ばない方は比較的キャッチーな曲が多いので、海外のロックを普段聴かない方にもオススメ!)
それでは次回「アメリカのHR/HMバンドが曲中でエンジンを吹かす確率は何%なのか?」でお会いしましょう。
ありがとうございました。
(続きません)