宮野「よう!久しぶり!」
わたし「あ…!ほんと久しぶりだね」
宮野「仕事でこっち来ててさ」
わたし「はえーそうなんだ」
12年ぶりの宮野は、そもそも宮野の顔自体そんなに覚えていなかったのもあり、なんか普通だった。
カフェでたまたま向かいに座っている人、といった感じだ。
ふと宮野が下を向いた。
「この革靴、さっき買ったんだ」
下を向いた横顔。
あの時、うんこの沼を拭いていた顔だ。
間違いない。
わたし「宮野じゃん」
宮野「なに?宮野だよ」
わたし「懐かしいなと思って」
宮野「なんだそれ。明日朝から仕事でさ。だからまだ17時だけど、飲み行っちゃおうよ」
朝から発泡酒を飲んでいた俺は少し恥ずかしくなった。
わたし「そうだね。行こう!」
宮野「おれ東京わかんないからさ、うまいとこ案内してよ」
わたし「おう、任してよ」
鳥貴族に入店した俺たちは、生で乾杯を済ませた。
宮野は、ちょくちょく若さがちらつくも落ち着きを見せる、まさに社会人2,3年目といった印象だ。
うんこドラゴンの鱗をティッシュで剥いでいたことを、覚えているのだろうか?
わたし「で、今はどうなの?宮野」
宮野「いやー忙しいよ。新入社員だった頃はまだよかったけどね」
わたし「そうなんだ。これからどんどん下も育っていくと考えたらしんどいよね」
宮野「本当だよ。崖でどんどん背中を押されて社会の溶岩に近づいてる感じ」
わたし「本当に」
宮野「お前はどうしてるの?」
わたし「なんにもしてないよ。フリーター」
宮野「東京で夢を追いかけてるとか?」
わたし「実はそうなんだ。大富豪になって、玉座の前で美女2人がレズプレイしてるのを眺めたいんだ」
宮野「麻薬王じゃん」
宮野とは快活に話が進んだ。
この様子だと、会社でもうまくやっているのだろう。
少し、自分が情けなくなってしまった。
わたし「そういえばさ、なんで俺に連絡くれたの?」
宮野「だってお前、成人式来なかったろ。東京にいるって聞いてたし、ちょっと気になってさ」
わたし「ああ、なるほどね。金なくて帰れなかったんだよ」
宮野「それに、ちょっと話したいこともあって…」
わたし「え、俺に?なになに?」
宮野「幸せになりたいって、思わない?」
マジかこいつ
え、そういう感じ?
わたし「え?まあそりゃ思うけど…」
宮野「そうだよね。お金もないようだし」
こういう時ってどうしたらいいんだ
あ~~ホイホイついてくんじゃなかったわ
わたし「えっと、何の話?」
宮野「持ってるだけで運気が上がって、仕事も恋愛もうまくいっちゃうの」
わたし「・・・」
宮野「そんな石があったら、欲しいと思わない?」
何なんだこいつマジで
俺を舐めないでくれ
わたし「そんな石あるわけないじゃん」
宮野「な!あるわけないんだよな~~!あればいいのにな~~!!あったら絶対ほしいよな~~」
わたし「え、え?何の話?」
宮野「いやそんな石があればいいのになって話よ」
わたし「あ、うん、あればいいよね…」
何だこいつ
宮野「でもさ、稼げる仕事ならあると思わない?」
わたし「え?」
宮野「たった5万の元手で、月50万稼げるような仕事」
え、次は何?
勘弁してよ。俺そういうの興味持っちゃうよ
宮野「スマホだけで月50万。そんな仕事があったら、やりたくない?」
わたし「うん、やりたい」
宮野「な!!やりたいよな~~~!!!!あればいいのにな!!無いんだよなーー!!!!」
何なんだこいつマジで
わたし「こつこつやるしかないよね」
宮野「結局ね~!」
わたし「ちょっとトイレ行ってくる」
宮野「おう、次何飲む?注文しとくよ」
わたし「ありがとう、じゃあハイボールで」
小便を終え、手を洗いながら思った。
やっぱりいい奴だ。
あのうんこ事件のこと、ちゃんと謝ろう。
俺からティッシュを投げられたとき、さぞ屈辱だったはずだ。
もしかしたら、謝罪を待っているかもしれない。
宮野「おう、ハイボール来てるよ」
わたし「お、ありがとう」
受け取ったハイボールを飲み、さっそく話を切り出した。
わたし「宮野、あのこと覚えてる?北村の…」
宮野「ああ、ウンコ漏らしたやつ?」
わたし「そう。その時なんだけど…」
宮野「うん」
わたし「あの時は、ごめん!」
宮野「え、何が?お前なんかした?」
わたし「いや、宮野が掃除してるのを笑ったり、ティッシュ投げたり…」
宮野「いいんだよ、そんなこと」
わたし「よくないよ!だってうんこマンなんて呼ばれたりして…」
宮野「確かに、俺もうんこマンってあだ名には文句があるよ」
わたし「やっぱりそ… うッ」
ヤバイ。
何だこれ。
めちゃくちゃ気分が悪い。
宮野「どうした?」
視界が歪む。
腹の中で、何かが暴れまわっている感覚だ。
だめだ、少しでも動いたら吐いてしまう…
宮野「ちょっと入れすぎたかな」
額から汗が噴き出す。
もう、気を失いそうだ。
俺は目を瞑って倒れようとした。
宮野「おい!しっかりしろ!寝るな!」
宮野が俺の肩をがっちり押さえた。
その衝撃を受け、俺は腹の中の悪魔を解放せざるを得なくなった。
わたし「オエエエエエエッッッ」
キャー!
周りの席から悲鳴が聞こえる。
最悪だ。
居酒屋の床で吐く迷惑な酔っ払いになってしまった。
宮野「おい、大丈夫か?ありがとな」
わたし「え…?」
宮野「俺、人前で友達の汚物を掃除するとめちゃくちゃ興奮するんだ」
宮野は店員から布きんを受け取り、掃除を始めた。
手伝おうとする店員を制止しながら、ひとりで掃除を続けた。
宮野「うわあどんだけ吐いてんだよお前。最高マジでたまんねえよ」
わたし「おまえ…」
宮野「おまえ朝から飲んでたろ。くせえんだよクズ」
わたし「………」
宮野はうっとりとした顔で俺のゲロを掃除している。
宮野「わかったでしょ?俺はうんこマンじゃないから。ゲロもめちゃくちゃ好きだから」
※この物語はフィクションです