ブロス編集部です。
8月の日曜日は色んなジャンルの「オススメ小説」をご紹介する記事をお送りしたいと思います。
今週は……「オススメのホラー小説」!夏の夜長にひやっとお楽しみください。
梨のオススメホラー小説
をんごく(北沢 陶)
【オススメ人:梨】
舞台設定、キャラクター、ロジック、文体、
そのすべてがこの世界観のために設えられたかのような、
恐ろしく緻密な小説です。この本を読んで喚起される感情には、
「こわい」も勿論ですが、
その一視点だけでは語りつくせないほどの
「おもしろい」が凝縮されています。いわゆる「ホラー小説」をあまり読んだことのない人にこそ
自信を持っておすすめできる、
個人的には2023年トップクラスの傑作です。
ダ・ヴィンチ・恐山のオススメホラー小説
殺人鬼 覚醒編(綾辻 行人)
【オススメ人:ダ・ヴィンチ・恐山】
綾辻行人といえば『十角館の殺人』に始まる「館シリーズ」と、アニメ化もされた『Another』などがよく語られますが、実はゴリゴリのスプラッタ・ホラー・ミステリも手掛けていまして、それが『殺人鬼』シリーズです。『覚醒編』と『逆襲編』があるのですが、まずは『覚醒編』をオススメします。
あらすじは実にシンプルでして、山の上にキャンプに来た若者たちのところに突如として屈強な殺人鬼が現れ、一人ひとり追い回して嬲り殺していく、というもの。グロテスクで痛々しい表現に力が入っており、まさにB級スプラッタホラー映画を文字で追体験しているよう。思わず目を覆いたくなる残虐・爽快な殺しっぷりです。
それのどこがミステリなんだ、と思われるかもしれませんが、館シリーズやAnotherと同様に、本作にも大胆な仕掛けが施されています。積み重なった微妙な違和感の正体が最後に明らかになったときは「大胆なこと考えるな……!」と感嘆しました。全てはこのトリックのためのアレだったのか……と。
まきののオススメホラー小説
リカ(五十嵐 貴久)
【オススメ人:まきの】
20年ぐらい前に読んだやつ+ホラー小説はそこまで読んではいないんですが、その中でも「ホラー小説といえばこれだな…」と真っ先に思いつくくらい怖かったのがコレです。映画やドラマなどメディアミックスされてるので知ってる人も多いかと思いますが…。
妻子持ちの平凡な会社員・本間がほんの出来心で始めた出会い系アプリで知り合ったリカという女性がやべ〜奴だった…という「座敷女」に代表されるいわゆるストーカーもの。じわじわと主人公を追い詰めていくリカの異常な執着の描写には背筋が凍ります。
なにより衝撃だったのは、クライマックス…今でも記憶に残ってるぐらい鮮烈でした。ぞぞぞ。久しぶりに読み直そうかな〜。
ギャラクシーのオススメホラー小説
黒い家(貴志祐介)
【オススメ人:ギャラクシー】
幽霊や妖怪が出てこないサイコスリラー。大竹しのぶ主演の映画版を先に見て、すげーコエーなこの話!!特に大竹しのぶが今から殺そうとする若い男の前でおっぱい出して『乳しゃぶれェー!!』って言うとこー!!!と思って、気になって原作を読みました。
小説は、より逃げられない感覚でじわじわ恐怖が迫ってきてめちゃめちゃ怖いです。菰田妻の同じ人間とは思えない桁外れの狂気がおっそろしすぎる(それがスマートで知的な感じではなく、むしろ愚鈍な感じのキャラクターだからより怖い)。あと“黒い家”に入ってからが、文字だけだと想像力働きすぎてハンパなく怖いですね。映画見てるときに思った「アクションでなんとかできるかも」とか、「あそこから逃げられるかも」とか、そういうのを封じられて縛り付けられたまま読まされてる感じ。とてつもなく長く感じる時間でした(でも次々と恐ろしいことが起きるので決してページをめくる指が止まることはない)
よく「結局怖いのは幽霊じゃなくて人間だよ」みたいなこと言う人いますが……いや確かにこの小説には幽霊とか出てこないですけど、これを“人間”とカテゴライズしちゃだめな気がする。この狂気はヒトの枠を超えてる。
※ちなみに原作には乳をしゃぶらせるシーンはありません
瀧ヶ崎のオススメホラー小説
海と毒薬(遠藤周作)
【オススメ人:瀧ヶ崎】
生きた人間の身体にメスが入れられる。ただ殺すための実験として。
内臓が切り取られる。血管に海水が注入される。人はどれだけ生きていられるのか?終戦間際の日本で実際に米兵に対して行われた、生体解剖事件がモデルの小説です。舞台は九州の大学病院。教授、助教、医大生や看護婦長など様々な”それに加担した人たち”のストーリーが語られていきます。戦時の熱狂が、出世争いが、貧困が、それぞれの心を麻痺させていく様子がじっとりと描写されていくのが嫌〜で気持ちいいです。知り合いのもっとも醜い顔、気まずい瞬間を目撃しているような気持ちにさせられます。それぞれの加害者が鬼畜ではありながら共感可能な人間です。
追い詰められたらウチの社員も人を平気で殺すのかな?もしかしたら自分も…という気分になります。そういうホラー気分な方は是非!
それで気が滅入ったら筆者のエッセイ「狐狸庵閑話」もオススメです。小説の暗さとは一転、陰気さが突き抜けて明るくなったような筆者の人柄に触れられる、僕が一番好きなエッセイ集です。
原宿のオススメホラー小説
かわうそ堀怪談見習い(柴崎友香)
【オススメ人:原宿】
ホラー特集を組んでいた「文藝 2024年秋季号」の中に、梨さんと春日武彦さんの対談記事があり、その中でこの連作短編集の名前が出ていて、「かわうそ堀ってなんかカワイイな」と頭に残ったので、軽い気持ちで買って読んでみました。残念ながらかわうそは全く出てこないのですが、読み始めると今までは気にならなかった、部屋の中で鳴るブゥゥ……ーーンという空気が通り抜ける音のようなものが無性に気になってきて、「え?これって前から鳴ってた? 今、自分にだけ聞こえてる?」と少しずつその音にフォーカスしていくと……やべぇやべぇ! どこかのタイミングで人の声に聞こえちゃったりしたらどうしよう! やめよっ! こんなことやめよっ!
「忘れるな」
心地よい不安、でも身を委ねすぎると日常が崩壊する予感。冷房の効いた喫茶店なんかで読むのがしっくりくる一冊でした。
加味條のオススメホラー小説
うるはしみにくし あなたのともだち(澤村伊智)
【オススメ人:加味條】
クラスで一番美人な生徒・更紗が、突然自殺した。人気者で何もかも順風満帆に見えた彼女がどうして?と周囲はいぶかしむ。葬儀の場ではなぜか遺族は頑なに死に顔を見せようとしない。
数日後、何者かの手により教室の黒板に数枚の写真が貼られる。
「うるはし」と書かれた下には、美しかった生前の更紗の写真が。
「みにくし」と書かれた下には、老婆のような容姿に変わり果てた更紗の姿が――。クラスの面々は、これが学校に伝わる、他人の容姿を自在に変えられるという都市伝説「ユアフレンド」の呪いだと察するが……。
とある高校で、何者かが行使する呪いの力で、クラスの容姿の整った女子が次々と醜くされていく事件が起こります。
ただこの「醜い」のレベルが度を超えており、被害者たちは髪も歯も抜け皺だらけの顔になったり、顔中血まみれ・膿だらけになるほど大量のニキビができたりなど、社会生活を送るのが困難なほどに顔面を破壊されてしまいます。
一体誰が「ユアフレンド」の呪いを使っているのか?というスリリングな犯人探しと同時に、ルッキズムがいかに恐ろしい怪物かを強く実感させられます。読み終わると、自分がいかに、顔面を覆っている薄皮一枚の美醜で自他を評価しているのかを思い知らされます。
岡田悠のオススメホラー小説
ZOO 2(乙一)
【オススメ人:岡田】
過去にどんなホラーを読んだかな…と考えていた時、ふと思い出した物語がありました。たしか高校生の時、受験勉強で訪れた図書館で手に取った本。タイトルも著者も忘れたけど、とにかく衝撃的な展開からの最悪な結末に呆然として、全然勉強できなかったことを覚えています。記憶を頼りに検索してみたところ、『ZOO 2』(乙一著)に収録された『神の言葉』という短編がヒットしました。
15年ぶりに読んでみたところ、これだ!!!懐かしさと共に、やっぱりラストが最悪で最高でした。「言葉にした命令が全て現実になる」という神の如き能力を持った主人公の少年が、日々に絶望した末に、どんな言葉を発するのか….その結末を、ぜひ確かめてみてください。
本書は「ジャンル分け不能の乙一傑作短編集」と銘打たれているだけあって、他の短編も猟奇的なものからコメディっぽいものまでバリエーション豊かなのですが、どれもざらざらした後味が残って余韻を楽しめます。おすすめ!
来週も!
今週は以上!
来週は「おすすめミステリー小説」をお送りします。
お楽しみに!