読者のみなさんは今年、読んで面白かった書籍などございますでしょうか?

オモコロブロス編集部の私は、イラストレーター・三好愛さんの『ざらざらをさわる』というエッセイが印象的で、どのエピソードも情景が浮かぶ言葉が散りばめられていて、日常の中に潜むざらざらした思い出にふれるような感触におどろきました。

今回は数ある漫画の中から、オモコロライターとBHB社員が【2023年に読んでオススメしたい漫画】を紹介させて頂きます!

 

恐山がオススメしたい書籍

『エレファントヘッド』白井智之

【作品のポイント】

今年読んだミステリで一番ヤバかった本です。

家族を愛する精神科医の周辺で起こった不審な死から全ては始まるのですが、展開される斬新すぎる設定と極限まで練られた多重解決トリックがあまりにも強烈で、堅牢なパズルのようで、ゾクゾクしました。ネタバレなしで一気に読むのを推奨します。

悪趣味全開・倫理観ゼロなので、苦手な方は絶対読まないほうがいいでしょう。悪魔が小説を書くとしたらきっとこんな作品なんだと思います。

 

岡田悠がオススメしたい書籍

『リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか』マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング

【作品のポイント】

個人の自由が世の中で一番大事だと考える「自由至上主義者」たちが、アメリカの山村を半ば乗っ取って、自分達のユートピアをつくろうとしたノンフィクション。

しかし彼らの思想があまりに極端で、税金を憎みまくって一切の税金支払いを拒否し、公共サービスの提供もストップした結果、道路が荒れ果てたり消防署がなくなって火事を消せなくなったりして、街が放置されたシムシティみたいになっていく。タイトルに「社会実験」とあるが、めちゃくちゃすぎてあまり実験になってない気もする。

極めつけは、自由を優先しすぎて野生動物と暮らす自由も認めた結果、熊が激増し、自由主義者のユートピアではなく熊のユートピアとなったこと。

本の半分くらいはずっと誰かが熊に襲われている。最近の日本でも同じような話題があるので、そういう意味では社会実験になってるのかもしれない。熊にドーナツを配って回る謎の老女「ドーナッツレディ」など、個性溢れる人物たちも多数登場。本当にあった信じられない話を読みたい人におすすめ。

 

『パンどろぼう』シリーズ 柴田ケイコ

【作品のポイント】

子ども向けの絵本。何十年も人気の定番本がたくさんあったり、「第250版」とかが普通の絵本の世界で、割と最近に発売(一冊目が2020年)されたのにも拘らず、めちゃくちゃ大人気のすごい本。

うちの子も一瞬で虜になって、シリーズを買い揃えてフィギュアも集め、食事もごはん派からパン派に変わってしまった。

キャラクターやストーリー、台詞回しなどどれをとっても抜群に面白く、エンタメ性に富んでいるため、大人が読んでも楽しい。子どもの絵本の定番を裏切るような予定不調和な展開や、急に挟まれるシュールな絵柄。読もうと思えば読み込めるし、飛ばそうと思えば飛ばせる小さな字での解説など、これが現代の絵本か……と感銘を受けた。

家に飾っても可愛いし、プレゼントとかにもいいと思う。

 

『地図と拳』小川哲

【作品のポイント】

630ページある小説。とにかく分厚いが、それにしては材質のせいか物理的にそこまで重くなく、「でかい本を気軽に持ち運ぶ」という体験ができる。

2023年の年初に買って、ようやく最近読み終わった。毎日ちょっとずつ一年間ずっと読んでいて、読んでよかったし、読み終えられてよかった一冊。

戦時中の満州を舞台に、序章は1899年から始まり、終章は1955年で終わる。ひとつの都市の57年という期間を、多数の登場人物の目線で描くスケールの大きさと深さにずっとびっくりしながら、時に誰が誰だったとかを忘れつつも、「地図と拳」というタイトルの輪郭がじわじわとはっきりしてくる快感が素晴らしい。

同じ著者の『君のクイズ』は登場人物の描写などが極力省かれ、展開だけで一気に読めるような本だったが、この本はある意味その逆をいっている。でもこの適度な「ストレス」と、じわじわ感こそ、本だなあという感じもする。本を読んだな〜って気分を味わいたい人におすすめ。

 

原宿がオススメしたい書籍

『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』森合正範

【作品のポイント】

旅行中になぜかハードカバーで買ってしまい、お土産スペースを圧迫しつつも目頭を熱くしながら一気に読んだ本でした。

ボクシングにはあまり詳しくないのですが、圧倒的な力を持つ勝者の影に、負けを受け入れ、負けからとてつもなく大きな物を得る敗者もいる。勝ち負けの◯✕だけが物事じゃないと感じるために、本当に読んでよかったなと思えた一冊でした。

何となく年の瀬の気分にも合ってる気がする!

 

梨がオススメしたい書籍

『荻窪メリーゴーランド』木下龍也・鈴木晴香

【作品のポイント】

『君を撮るためのカメラがあたたまる太腿のうえ 海まで遠い』 この明朝体の短歌から、物語は始まります。

2種類のフォントで綴られる短歌を読んでいくうち、とある男女の生活とその行方がすこしずつ輪郭を持ち始める、少々トリッキーなフォーマットの歌集です。

「虚構のラブストーリー」という本書の惹句が、この物語のもつ強度や切実さのようなものを、最も端的に表しているような気がします。悲しいと言ってしまってもそれまでにはならない夜が、そこにはいくつもありました。

 

長イキアキヒコがオススメしたい書籍

『聖少女』倉橋由美子

【作品のポイント】

近親相姦がテーマの、衝撃の一冊です。

記憶喪失になった少女の日記を読むところからはじまるんですが、「いま、血を流しているところなのよ、パパ。なぜ、だれのために?パパのために、そしてパパをあいしたためにです。もちろん。」という書きだしからはじまります。

パパを異性として愛してしまった少女の、とてつもなく甘ったるく、妖しく、そして美しい日本語の並びに、思わず息を漏らしてしまいます。

大学の授業でテキストとして扱われたので購入していたんですが、その授業はサボりまくった上に1文も読まずに単位を落としたので、こんなに素晴らしい本ならちゃんと授業受けとけばよかったと、ひどく後悔しました。

 

ヤスミノがオススメしたい書籍

『私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』アニル・アナンサスワーミー

【作品のポイント】

ざっくり一言で言うと、脳と自己(的なるもの)との関わりについて、さまざまな症例を引き合いに論じていく本です。専門的な内容もあるのですが、けして専門書ではないのでわりに読みやすいです。これは「自分の意志で手足を切除する人っているのかな」と疑問に思い、検索し見つけました。その疑問については、第3章「自分の足がいらない男」で紹介されています。

身体の一部があることに違和感を持つことを「身体完全同一性障害」というそうです。その悩みを抱えてる人は「自分の魂がそこまで伸びていない感じがします」と言い、どうにかしてやっと足を切除できた人は「人生で初めて、自分が完全にまとまった存在になれた」とも言います。

強烈な自己のゆらぎと向き合う人々の語る言葉は切実であり、心を動かされるものがあります。僕はどちらかと言えば脳と自己の複雑に絡み合うメカニズムみたいな個所より、そういった人々の過ごしてきた人生自体を知れる部分にぐっときました。身体完全同一性障害を持つ男性を家族が受け入れるシーンは感動的です(こういうものをストーリーとして消費してしまうのも少しためらわれますが)。

 

加味條がオススメしたい書籍

『踏切の幽霊』高野和明

【作品のポイント】

「記憶を消してもう一度読みたい」どころか、「記憶がフルにあった状態でもう1回読んでもめちゃくちゃ面白い」でおなじみの名作『ジェノサイド』の著者・高野和明さんの新作。幽霊譚と聞いては、お化け好きとしては見逃せません。

緻密すぎる取材に基づいて描かれたドキュメンタリー映画のようなプロローグでは、鉄道の運転手が「下北沢三号踏切」で説明のつかない“何か”を目撃する場面がスリリングに語られます。

そして登場するのが、主人公の松田。妻に先立たれ、生きる気力を失くしてしまった彼は、全国紙の社会部記者として華々しく政治家を追いかけていた立場を捨て、月刊女性誌のライターに身をやつしています。

その女性誌すらクビになりそうな崖っぷちの松田は、「下北沢三号踏切」の幽霊目撃談を追うという、いわゆる“心霊ネタ”を取材することに。それでも彼は元全国紙記者の抜群の取材力を活かして、ゴリゴリと真相に近づいていき……?

たびたび目撃される髪の長い女、過去一年に異常なほど集中した電車の「非常停止」、“間が悪く”交通事故で離脱した前任者――。不穏すぎる要素が次々と繋がっていき、衝撃的な真実が立ち現れていきます。

こんなに面白くていいんかい!と何度も唸りながら一気に読みました。文庫版になるまで待とう、などと言わず、ぜひハードカバーで今すぐ読んでほしい一冊です。

 

松岡がオススメしたい書籍

『「感情」の解剖図鑑: 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方』苫米地英人

【作品のポイント】

日常の中で人が抱く「感情」を、ポジティブとネガティブの2種類に分けて説明する解剖図鑑です。タイトルが自己啓発系で怪しげですが、感情の種類を知る辞典みたいな温度感で読めば面白いです。

プライベートを充実させたり心の操り方を知る本というよりは、『そもそも今のこの気持ちは何だろう?』『この気分になる要因って何だろう?』という感情の分類が図解でわかりやすく当てはめることができるので、その時々に感じる精神状況を把握する意味でいいガイド本だと思いました。

この書籍を読んですぐに感情をコントロールするのは難しいけど、まずは自身が日常的に抱く感情を理解して、考え方や視点を整理していけばいいのかなと思える内容なので、来年に向けて気持ちを少し切り替えてみたい方にオススメの一冊です。

 

夢顎んくがオススメしたい書籍

『再読だけが創造的な読書術である』

『積読こそが完全な読書術である』永田希

【作品のポイント】

元々、書店内を散策するのが好きで興味を持った本をちょくちょく購入しては読まずに放置してきたのですが、この二冊に出会ってからは本に対する正しい向き合い方というのを掴めた気がします。

おかげさまでこの本も途中までしか読んでません。それでもいいと本文中で書いてくれているので。

 

長島がオススメしたい書籍

『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』けんすう(古川健介)

【作品のポイント】

著者であるけんすうさんは起業家でありつつ、いくつものサービスを成功させた(ときに成功させなかったりしてきた)人で、その上、毎日記事を書いたりXをやりまくってるブロガーでもあるので、経験も豊富で文章も読みやすくおもしろいです。

そんなけんすうさんが書いたビジネス本になるわけですが、自己啓発本とかによくありそうな『◯◯をやめて✗✗をしろ!』みたいな、『そんなのできたらわけないよ』みたいなことを上から言ってるものではなく、『こういう考え方をしたらうまくいくじゃないか』みたいなことをこれでもかというくらい丁寧に分解して書いているので、考え方の参考書としてとてもよかったです。しかも柔らかい言い回しで書いているのでおだやかな気持ちで読み進められます。

ちなみに、けんすうさんとは前職の社長⇔社員の関係なので、ここで紹介するとめちゃくちゃ肩揉みしてるとかステマだとか思われそうですが決してそうではなく、そもそもぼくがあまり本を読まないこともあって、読んだ本がこれくらいしかなかったという感じなので紹介させていただきました。とてもいい本です!

 

 

まとめ

今回紹介した書籍以外にも、おすすめの作品はたくさんあるはず。

読者のみなさんも「この書籍は今年読んでよかった!」「この作品は面白い!」という情報があれば教えてください!

今日はそんな日です。

 

記事で紹介したオススメ書籍

【恐山】

【岡田悠】



【原宿】

【梨】

【長イキアキヒコ】

【ヤスミノ】

【加味條】

【松岡】

【夢顎んく】

【長島】