この記事では、オモコロライターごとの「一万円あったら何に使う?」をお届けします。

 

この企画の第6回はダ・ヴィンチ・恐山がお送りします。

 


 

1万円をもらった。

なんと自由に使っていいらしい。

 

何に使おうか。せっかくのあぶく銭なら、自腹で絶対お金を払わないようなものにつぎ込みたい。

なんだろう。

絶対お金を払わないもの……払わないもの……

 

 

そうだ。

 

 

占いだ。

 

 

占い師に占ってもらう

私は占いを信じていない。

いかにも占いを信じてなさそうな顔だとたまに言われるが、実際ぜんぜん信じてない。

手相占いも星占いもタロット占いも四柱推命も六星占術も信じてない。

亀卜だけほんのちょっと信じてる。

 

なぜ占いを信じられないのか?

 

 

だって根拠ないじゃん。

 

 

ほら、その顔だ。いまこの記事を読んでるあなたの、その顔だ。

今まで占いの話題から何度も「根拠ないじゃん」と言い、その顔をされてきた。

私だって殊更に占いを楽しんでいる人を邪魔したくはないので、なるべく占いの話題を避けている。

 

ただ、興味がないわけではない。プロの占い師に占われるというのがどんな感じか、体験できるならしてみたい。

 

いい機会だ。どう使ってもいい1万円、占いに使ってみてもいいかもしれない。

 

占いの館へ

とりあえず手頃な占い師を探してみる。

ネットで検索してみると「こんなにあったのか」と驚くほど、街には「占いの館」がある。ミニストップより多いんじゃないか。

 

そうなると逆にどれを選べばいいか悩む。レビューを読んでみても良し悪しがわからない。

というか、占い師の良し悪しってなんだろう? やっぱり当たるかどうかだろうか。

ネットのレビューから見極めるのは困難なので、なるべく大手で明朗会計っぽいところを適当に選んだ。

 

 

その「占いの館」は雑居ビルのワンフロアにあった。洋館みたいな建物を想像していたが、想像よりもずっと狭い。

 

受付の人いわく「今でしたらエリザベス先生(仮名)と鈴蘭先生(仮名)が空いてます」と言って写真を見せてくれた。

実際は違う名前だがこういう感じの二者択一だった。エリザベス先生は非現実的な髪の色をしていた。

なんか怖くて鈴蘭先生を選んだ。

 

金額は30分で5500円。延長を申し出ない限り定額前払いだという。

受付の人が紙とペンを渡してくれる。

一見すると病院の問診票にそっくりだが、生年月日のほかに「生まれた日の時間」を書く欄があるのが独特だ。

それを提出してしばらく待っていると名前を呼ばれた。

 

布で仕切られたエリアを進み、最奥へ案内される。

のれんをくぐると、テーブルの向こうに中年女性がいた。

鈴蘭先生(仮名)だ。

 

占いの内容

着席と同時に先生は30分のタイマースイッチを入れる。

 

「今日はどんなご相談です?」

 

いかにも占い師っぽい怪しい雰囲気を想像していたが、どちらかというと図書館の司書のような親しみやすい印象の人で、安心する。

 

「えーと……最近体の調子が悪くて……」

「あー、そういう健康上のことは答えられないのよ! 病院で聞いて!」

 

あ、そうなんですね。

でも誠実な対応ではある。領分というものがあるのだろう。

そこで私は質問の内容を変えた。

 

「前から漠然と将来が不安になって精神が落ち込むことが多いんですけど、どうしたら良いと思いますか? ……っていう相談はどうでしょう?」

「それなら大丈夫!」

 

先生は手元のタロットカードを切り始めた。

 

「えーとね、あなたはもともとマイペースで我が道を行くタイプなのよ」

 

まだタロットを切っている段階なのに、即座にアドバイスが始まった。

タロットの結果見なくてもわかるのか……と訝しんだが、たぶん事前に渡した生年月日に基づく占いの結果なんだろう。

カードを並べながら、先生のアドバイスが続く。

 

「仕事のカードが出てる。仕事ばっかりしてるでしょう」

「ああ、まあそうですね」

「お仕事はどんな仕事なさってるの?」

「広告を作る仕事ですね」

「キツいでしょ」

「いや、仕事の内容自体は楽しいです」

「あ、そう……」

 

こんな感じで、仕事のこと、家族のこと、悩みのことなどをいろいろ聞かれた。

ときおり先生は「○○でしょ?」と当てにくるのだが、当たっているときと当たっていないときが体感で半々くらい。

とはいえ、私の反応に合わせて柔軟にアドバイスの内容を変えてくれる。

 

「家にいると落ち込んでくるなら、部屋の掃除をしたほうがいいわよ!」

 

うーん……。

 

なんか思ってたのと違うな。

 

これ知らないおばさんに人生相談してるのと何が違うんだろう。

なんとなく事前に想像していた「占いの神秘性」みたいなものが感じられない。

 

ではやっぱり無意味だったのかというと、そうではなかった。

 

15分くらい経過した頃に気がついた。

自分が、普段なら絶対言わないような個人的なことを進んでたくさん話していることに。

 

家族や同僚にも口にしないようなことが、自動筆記のように口から流れ出てくる。

自分でも「自分、こんなこと考えてたのか」と少し驚く。

同時に、ぼんやりと漂っていた不安が言葉となって整理されていくのがわかった。

 

思えば、漠然とした不安や生い立ちについて正面から話す機会など、日常生活の中にはない。

タロット占いの信憑性はいったんおいておくとしても、ただ率直に喋ること自体に意味がある。

神秘的で現実離れした装いは、言葉を引き出すための潤滑油なのかもしれない。

体感的に「占い」の存在意義の一端を掴んだような気がした。

 

 

「あなたはリスクを取ることを恐れてる。年の割に落ち着きすぎよ。もっとリスクを取って、普段やらないことをやったほうがいい」

「なるほど……」

 

残り時間が3分を切ったので、私は改めて聞いてみた。

 

「じゃあ、私はどうしたらいいと思いますか?」

 

先生はしばらく考えて言った。

 

「ガールズバーとか行ってみたら?」

 

なんでだよ。

なんでいろいろ話してその結論になるんだよ。

 

私は占いの館を後にした。

自分なりに占いというものの意義を感じていた直後だったので狐につままれた気分だった。

 

さて、どうしようか。

 

リスクを取ろう

残ったお金は4500円。

せっかくなら、先生のアドバイス通り「リスクを取る」ことに使って、運気を上昇させたいものだ。

 

ガールズバーは本当に全然行きたくなかったので、別の方法でリスクを取ることにする。

 

 

 

 

 

超でっかポークステーキ700グラムを注文した。

 

中目黒にできたポークステーキ専門店「マロリー」の「マッターホルン級」がこれだ。

普段なら250グラムでお腹いっぱいになれるところ、その3倍近い量。

まさに食べるリスク。

 

 

ナイフを入れると、驚くほどやわらかい。

こんなに巨大な塊肉なのに中までしっかり熱が通っている。

かじると「ブリン」と小気味良く肉がちぎれる。たいへんうまい。

 

 

しかし多い。

食べても食べても山頂が見えない。

思えば700グラムだ。ボンレスハムを一気に全部いくようなものだ。

きつい。

しかしリスクを取らなくては。

 

 

根性で完食した。

終盤はかなりキツかったが、ソースやクリームなどで味変をしたので最後まで飽きることはなかった。

 

ちなみに値段は2390円だった。思ったよりは全然安い気がする。豚肉だからだろうか。

ポークステーキって実はかなり優秀な食べものなのかもしれない。

また来たい。リスクを取って良かった。

 

 

 

余ったお金でペンギンとゾウの置物を購入し、私の1万円チャレンジは終了した。

 

 

今回使ったお金の内訳はこうなった。

 

 

占い(30分) 5,500円
ポークステーキ(700g) 2,390円
ペンギン 1,680円
ゾウ 1,680円

合計……11,250円

残金……-1,250円

 

 

 

 

はみ出たぶんは自腹らしいです。

 

リスク取りすぎた。

 


 

次は誰のどんな1万円の使い道が見れるでしょうか? お楽しみに。