映画から学べるエンターテインメントと構図
「最近ツイッターで映画のマンガを描き始めてるんですよ。基本、ここがおもしろかったっていう描き方で。今ネットって批判が主流というか、みんな批判で表現してしまうじゃないですか」
「あぁ、あるね。誰でも自由に言葉を発信できるようになると、批判のほうが目立っちゃうよね」
「ケチをつけることが自己表現になっちゃうのは非常によくないんじゃないかと。誰かが褒めて中和しないとどんどん嫌な世界になっていっちゃうという思いがあって」
「良いことだと思うよ。批判で表現するというのは、俺たちみたいに作品を発信してる側の責任でもあるだろうし」
「そうなんですよね。僕らがもっと“褒める”表現、良い作品を作らなきゃですよね」
「もともとマンガを描き始めた時に、どういう方向性で描くかってすごく考えたのね。で周りを見てみると、暗いマンガが多いんだなぁって思った」
「マンガという文化が評価されて、大人も読むようになって、暗いマンガが多くなったのかもしれないですね」
「だよね。ちょっと小難しい文学的なものとか。でもマンガってもう少し楽しいものじゃない?って言いたかった。それこそ、ずっと好きだったスターウォーズみたいにね。だから俺は、楽しいマンガ描こうって決めたんです」
「とよ田さん、めちゃめちゃ映画好きですもんね」
「最近は画力を上げるために映画スケッチをやり始めたんだよね、ほら。これやり始めてからマンガの構図も変わったよ」
と言って取り出した何冊ものノート
気になったシーンなどがスケッチしてあります。これは確かに構図の勉強になるなぁ。
「ヒエェェ~! うまい!! とよ田さん、もうこれ以上進化しないで……!!」
「あとね、映画だけじゃなくて、娘のスケッチも始めたんですよ」
右ページに娘さんを描いたカラフルなイラストが。これにちょこちょこっと文章つけたら、それだけで本になりそうなクオリティ!
「こんなちゃんとしたイラストで成長を残してくれたら嬉しいだろうなぁ。娘さんが大きくなってこれ見たら、きっと泣いちゃいますね。いつか花嫁道具に持たせましょう」
「そうだね。嫁に行くときはあっちも手紙とかで泣かしてこようとするだろうからね。これで対抗してやろうと思ってる」
「なんで張り合おうと思ってるんですか」
ちなみに、映画が大好きなとよ田さんの趣味は、「爆発したけど振り返らないシーン」を集めることだそう。1時間くらい延々色んな映画の「爆発したけど振り返らないシーン」を見させられました……ありがとうございました。
これからのこと、夢
『私が世界を守ります』(単行本未収録)
とよ田先生の一番最近の短編作品。死ぬほど献身的なヒロインが自分の寿命を削りながら地獄のパワーで地球を守る話。ヒロインの覚悟がすごい(数億年以上の地獄の苦しみに耐えることを引き換えに人を救う=生命以上のものを差し出す覚悟)
「ちなみに、とよ田さんのこれからっていうのは、どう考えてらっしゃるんですか?」
「大人も子どもも楽しめるっていうマンガを描きたいとは思ってます。こないだズートピアを2歳の娘と見てて思ったけど、両方がちゃんと別の部分で楽しめてて、どちらにも合わせてない。それが理想だよね。」
「ぼくもズートピアは見ましたがすごく面白かったですね。笑いどころも抑えつつ毒を吐くところではしっかり毒を吐いて。ただ、あまりに完璧すぎるっていう印象が強かったです」
「確かに。ズートピアは完璧すぎて引っかかりがなかったかもしれないね。作品を好きになるって、対象のデコボコと自分の中のデコボコがカチッとはまる瞬間だから」
「なるほど! デコボコ同士がハマる……すごく納得できました!!」
「マンガ家目指す時も、デコボコを“ならして”平らにするのか、それとも自分のエゴを出して引っかかりを作るのか、ふたつの道がある。商業を目指すのか、自分の作品性を高めるのか、とも言えるけど」
「それはマンガ家として悩みどころですよね」
「みんな悩んでる。商業に振り切るのか、自分のオリジナルを出すのか。自分のオリジナルに振り切って売れる人もたまにいるじゃない。それが一番幸福な形だと思うんだけど。……難しいよね」
「結局バランスとりながらってことになりますよね」
「こないだね、編集さんとお酒を飲みに行ったわけ。その席で編集さんがこう言ったの。『前から聞きたかったんですけど、とよ田さん、ちゃんと売れたいと思ってます?』って」
「なかなか手厳しい問いかけですね……」
「当たり前だろーーー!!! って言いましたよ。だって、売れたいから商業にいるわけでしょ? 売れなくてもいいんだったら同人でもWEBでも、個人でやってればいいんだから。商業にいる時点でやっぱり売ろうと思ってるわけなんだよね」
「う~ん、でもさっきの話じゃないですけど、自分のオリジナルに振り切ってるような作家さんは、売れたいとは思ってないのかもしれません」
「そうだね。世の中には作家性を強く出したようなタイプのマンガ家がいて、編集さんは『とよ田さんはそっちの方向なんですか』って聞きたかったんでしょうね。だけど俺はそうじゃない。エンターテイメントを目指したいと思ってるんです」
「でもその編集さんの気持ちがちょっとわかるなぁ。とよ田さんからは、野心みたいなものがバリバリ伝わってくるんですよね。誰も知らない場所を目指してる人なのかなっていうのは、僕も思ってました」
「ぼく自身はエンターテイメント目指してるつもりなんだけど、なんかニッチなんだよね。意識してない部分で、エンターテイメントに徹しきれてない部分があるのかもね。根っこの部分は魂 売らないぞと思っちゃってるのかもしれない」
「難しいですね。昨日までニッチだったものが、明日はメジャーになるかもしれないわけだし。とよ田さんの作品で、ピンボールというニッチな素材を扱ったマンガ、『FLIP-FLAP』がありますけど、読んでピンボールやりたくなった人は多いんじゃないでしょうか」
「『FLIP-FLAP』はホントに好きで描いたやつだからね。ただ、ニッチなことをわかりづらい言葉で描いちゃうと伝わらない。誰にでもわかる言葉に変換して、エンターテインメントという形にしてこそ、自分が好きなものがマンガとして成立するんだよね」
『FLIP-FLAP』(講談社/アフタヌーンKC)
「マンガ家としての目標って何ですか? ここ行けたらマンガ家としての自分はゴールでしょ、みたいな」
「最初にマンガを描く時に決めたことなんだけど、自分の納得できる一本を描くっていうことかな」
「えぇ~? あんなにすごいマンガを描いているのに、まだ納得してないんですか!? もういいじゃないですか!」
「納得は一生できないんじゃないかなぁ。つまり一生ゴールしないと思う。『ヒカルの碁』の神の一手みたいに、永遠に探し続けるんだろうなぁ。その一手が存在するかどうかもわからないけど」
「もっと具体的な……例えばアニメ化っていう目標設定とかはないんですか? もう少し本が売れたらそろそろアニメ化だなっていうモチベーションができるじゃないですか」
「アニメ化は目標にしてないなぁ。優先順位の一番上がマンガでありたいといつも思ってるから。マンガって奥深いから、どんなに優先しても考えが追いつかない。おもしろいものに徹したほうがいいのか、読者が喜ぶものに徹したほうがいいのか、描きたいものを追求したほうがいいのか、毎回毎回 挑戦してるよ」
「大先輩がまだ実験を続けてるなんて…! よぉ~っし、僕もがんばらなきゃ! 今日はためになる話、ありがとうございました!」
「はい、ありがとうございました」
まとめ
気さくに喋ってくれましたが、僕にとっては大先輩にあたる人。
そんなとよ田さんが、未だに方法論に悩み、新しい表現を模索し、構図の勉強をしている。ほんとに、芯からマンガを描くのが好きなんだなぁと実感しました。
僕も上を目指して頑張るぞと、帰り道で決意をあらたにしました(そのあと大福食べて寝ました)
つづく