人生には、2つの道しかない。
1つは、奇跡などまったく存在しないかのように生きること。
もう1つは、すべてが奇跡であるかのように生きることだ。
衝撃のアルベルト・アインシュタイン
1879-1955

激しい暑さとまばゆい日差しに包まれる夏

男は考えていた
男は最近になって豆腐にかすがいということわざを知った

材木と材木をつなぎ止めるコの字型の釘、かすがい
そんなかすがいを豆腐に打ったところで、何にもならない
やるだけ無意味なさま、そういう意味のことわざである

実を言うと、豆腐にかすがいを打った者は歴史上一人もいない
豆腐にかすがいを打ったらどうなるのか、本当のところは誰にもわからない

しかし、男の目前には今、豆腐とかすがいがあります

「俺がパイオニアだ」
男は嬉しそうにしています

男は豆腐にかすがいを打ち込み、待ちます
しかし、待てども待てども何も起こりません

「なんだ、やっぱり何も起こらないんだ」

男は落ち込み、すべてをほったらかしにして寝てしまいました


翌朝、目が覚めた男はビックリ

なんと、豆腐とかすがいが無くなり、代わりに緑色に輝く宝石があるではありませんか
「これは、エメラルドだ!」

「すごい大発見だ!」
男は喜び、さらに豆腐とかすがいを用意し、つぎつぎと豆腐にかすがいを打ち込んでいきました

一体どんな変化をしてこうなったのだろう
男は豆腐とかすがいを観察することにしました

しかし、待てども待てども豆腐とかすがいに変化はありません
やはり何かの間違いだったのでしょうか

けれどエメラルドは本物です

「何か起こることは間違いないんだ」
男は意気込みました

しかし、85時間が経ったところで睡魔に負けてしまい、眠ってしまったのです


目を覚ました男はまたもやビックリ

なんと、たくさんあった豆腐とかすがいが無くなり、代わりに色とりどりに輝く宝石があるではありませんか
「これは、トパーズ、サファイア、ガーネット!」

男は大喜びしました
宝石が現れる過程を直接みられなかったのは悔しいけれど、これだけ美しい宝石の数々が手に入ったのだからと、この際こまかいことは気にしないことにしたのです
「意味が無いと決めつけずに、やってよかった」
男はこの日、ささやかながらいつもより豪華な食事をとることにしました

それからしばらくして、男の元に、一人の若者が訪ねてきました
「私は、隣国の王に仕える従者です」


男は怪訝そうな顔で若者を睨みましたが、若いのに気品を感じさせる佇まいを認め、若者の言葉を信じることにしました

若者が言うのには、男の持つ宝石が隣国を救う手立てになるかもしれないのだそうです

隣国は、ドラゴンに支配されていたのです
「我に忠誠を誓え、断ればこの国の民を襲うぞ」

民を守るため、国王はドラゴンに忠誠を誓わざるを得ません
そしてその忠誠とは、国王の肉体をドラゴンに差し出すということでした

マナの集合生命体であるドラゴンは、国王の肉体を乗っ取ることにしたのです

薄れゆく意識のなかで、国王は古くから伝わる書物を若者に託しました

「頼んだ、ぞ……」

「……無駄なことを」

「これでこの身体、この国は我のものだ」

「私は国王より託された書物を守り、逃げ延びたのです」
国に災厄訪れし時
数多の宝石を携えし者
光もたらすだろう
書物にはそう記されていました
「数多の宝石を持つあなたこそ、我が国に光を取り戻してくださるお方だ」

男は、人一倍熱い正義感の持ち主だった
「俺が必ずなんとかしてみせましょう」
特に勝算はありませんでしたが、男は、若者とともに隣国のドラゴンの元へ向かうことにしました

「貴様のような人間に何ができるというのだ」
対峙したドラゴンは高笑いしています
今にも顎が外れてしまいそうです

「黙れ! ここにいるのは伝承のお方! この国を救ってくださるのだ!」

男は宝石を掲げてみせました
「そんなただの石ころで一体何をしようというのだ」
ドラゴンは下卑た笑みを浮かべています

たしかに 男はそう思いました
男は宝石を持っているというだけで、他には何の特別な力も持っていません
ドラゴンの言うように、ただの石ころを持っているだけで一体何ができるというのでしょう

しかしその時、突然にドラゴンが苦しみ始めたのです

「なんだ、何が起きているというのだ」

よく見ると、ドラゴンが国王の肉体から分離しそうになっています
マナの集合生命体であるドラゴン、そのマナが男の持ってきた宝石に吸収されているのです
「なぜだ、なぜただの石ころに我がマナが吸われるというのだ」

この宝石は、男が豆腐にかすがいを打ち込んだことによって生まれました
豆腐にかすがいを打ち込んでも何も起こるはずはありません

ですが男は、何かが起きてほしいという強い願いを込めて豆腐にかすがいを打ち込んでいました
その願いは祈りとなり、祈りは魔力となって豆腐とかすがいを触媒に結晶化しました

男の願いによって生まれたのは魔力を帯びた宝石、魔石でした
魔石には、マナを吸い寄せたくわえるという性質があります
マナの集合生命体であるドラゴンも、魔石に吸い寄せられるのです

「ぐ…… 逃れられぬ!」
それも、触媒となったのは かすがい です
本来、材木と材木をつなぎとめる用途で使用するかすがいの性質は、ドラゴンへの忠誠という強力な呪いをも凌駕する結びつきによってドラゴンを国王の肉体から吸いだし、魔石に封じ込めてしまいました
「ぬわーーーーーーーーー!!」

「ありがとう、そなたはこの国の恩人だ」
国王は感謝を告げ、男を称賛しました

男は、自分の正義がだれかの役に立ったことが誇らしかった
「ドラゴンは魔石に封じ込められ、もうそこから出てくることは無いだろう」
「しかし、悪しき者がドラゴンの封印を解いてしまうかもしれませぬ」
「うむ……」

男は、自分に任せてくれと伝え、帰路に着きました

帰ってきた男は、魔石を庭に埋めました
これで大丈夫なはず
そう、ずっと……

あれから、300年の時が経ちました
結論から言えば、ドラゴンはこの先の未来永劫、封印を解かれることはありませんでした
その代わり、かつて男が暮らした町にはそれはそれは大きな大豆の樹が育ちました
大豆の樹を守護するのは、かつて邪悪の限りを尽くしたドラゴンです
魔石に封印されていたドラゴンですが、大豆の樹の成長とともに悪しき心は浄化され、ソイドラゴンとして生まれ変わったのです
今ではこの町の守り神です
ソイドラゴンの樹からはたくさんの大豆が取れるようになり、町の名産品として町内外を問わず大人気になりました
誰もが無意味だと叫んだとしても、挑戦することで奇跡が生まれることもある
男の偉大な功績は、末永く語り継がれたのでした
めでたしめでたし

りきすい






