この鬼沢村には不思議な神社がある。
金棒の祀られた神社だ。なぜ金棒が祀られているのか。
それは・・・
それは40年ほど昔のこと……
「俺」の日記
2011年 2月7日 晴れ 今日は朝早く目が覚めた。 休日だからもっと寝ていてもいいのだけど、なんだかとても寝覚めがよかった。 天気もいいし、せっかくだからたまっている洗濯でもしよう。 あれ?インターホンがなってる。誰だろう?
「アタシ」のにっき
2がつ7か かいせい!
ムニャムニャ 電話のベルで起こされて、ちょっとご機嫌ななめ^^
休日の朝だっていうのに、どっかの誰かさんが無断で洗濯を始めたから「通達」にいかなきゃいけない。
また休日出勤なの?
また神出鬼没しなきゃいけないの?
「俺」の日記つづき
こんな休日の朝早くにインターホンを鳴らすなんて非常識だな。 誰だろう、そう思ってドアを開けようとすると、ひとりでに開いた。
ひとりでに開いたというか、ドアが倒れた。
というか、突き破られた。
玄関口に立っているのは知らないヤツだった。 いや、知人ではないが知っているヤツだ。小さいとき見た絵本にでていたヤツ。真っ赤な顔で、身長は2mを超え、頭にはツノが2本の凶悪な顔。そうこいつは……
鬼だ。
「アタシ」のにっきつづき
キャー! またやっちゃった!どうしよ!現場のお宅のドアに頭ぶつけたら、ドア取れたー!
はずかしー!
キャー! 鬼はずかしー!
ドアの前にいた人間にポカーンって顔されたー!人間のくせにー!!!
でもちょっとオダギリジョーに似てた!
あ、鬼の方のオダギリね。
ほんとはずい!
顔から火が出るかと思った……!
顔から火が出るのかと思った……!
あの大きな口を顔全体に開いたと思うと、地面を揺さぶるような咆哮!心臓が早鐘みたいに鳴ってる。やばいやばいやばい。 とっさに横に飛びのいて、先日の節分の枡があったので豆をひとつかみつかんだ。
「鬼のいない間に洗濯しないでください!」
勝手に洗濯する人間に伝えるのがアタシの仕事。
その人間にそう伝えようと、口をあけたら、そのオニギリ似の人間はよろけて、手にとった豆をあたしに投げつけてきた!
この仕事してると、豆ぶつけられるなんて良くあることだけど、その人間のピッチングフォームはかわいいと思った。ていうか、アタシの完璧なダイナマイトボディには、豆なんかノーダメージ! だいたい、信心無い豆なんて いくら投げても効かないんだよ。
鬼に当たった豆はバラバラと床に落ちただけだった。
なんでだよ。豆=魔滅じゃなかったのかよ……
どうしよう?このままじゃ殺されてしまう。武器も無い。
いやどんな武器があったとしても、 たとえば、マシンガンや日本刀でだってあの完璧な皮膚に傷ひとつつけることはできないんじゃないだろうか……
たぶん ダイナマイトだろうと、あのボディには傷ひとつつけられないに違いない。
俺は恐怖のあまり、我を忘れて家の中を走り抜け、はだしで軒先に降り、ガレージのバイクにキーを差し込んだ。 家のほうを見ると、追いかけてくる鬼が見えた。手には金棒。
ちくしょう! エンジンがかからない!!
あ、あの人間、バイクでどこかに行くつもりみたい!
急ごう!追いかけなきゃ!
あれ? でもどうして追いかけなきゃいけないんだっけ?
あたしの仕事はもう終わってるのに。
怖い怖い怖い怖い!!! あいつ追ってくる!走ってくる! バイクのスピードメータは 時速60kmをさしているのに全然振り切れないなんて!その上、目の前には信号! ダメだ! 赤だ……! でも止まるわけにはいかない!
うあああああああああああ……!!!!!
……はあはあはあ! 鬼っていってもやっぱり走ったら、ツライ!
あ、でも赤信号だからスピードをゆるめ……
てない!
交差点に入ってくるトラックが見えてないんだ!
えええええ!!!? がんばれあたし! 鬼ダッシュ!
鬼加速!なんかあたしさっきからあの人間のことしか考えてない!
鬼のあたしが人間を助けようとしてる……!
うあああああああああああ……!!!!!
♪~ せわしい 街の感じが やだよ
♪~ 君は いない から
~♪ あ うんッッ!
「俺」の日記つづき
少しのズレも許さない あ、うんの呼吸。完全なバッティングのタイミングだった。 猛スピードで、バイクの俺を追い抜いて、トラックをジャストミート。気がついたときには、トラックが横転していて鬼はいなかった。 金棒だけ残して。
「アタシ」のにっきつづき
人間を助けてしまった以上、今の仕事を続けることはできない。
アタシは鬼だから 「人間を助けてはいけない」
オキテなの。 ましてや、
LOVEPHANTOM/B’z
(作詞:稲葉浩志 作曲:松本孝弘)
まで口ずさんでしまった……。
そうだ、アタシはこの街を出て行こうと思う。 別れにすがって生きる女にはなれない。
マジ鬼の目にも涙。
あれから40回の節分が過ぎた。
以来一度もあの鬼をみたことはなかった。
ただ、そうして、あの時の金棒は奉納されることになったのだ
そして、この金棒を見るたびに思うのだ。
もしかしてあの鬼は、俺を助けた心優しい鬼だったんじゃないのかって。 俺は逃げたりして悪かったと思うようになっている。
その罪滅ぼしというわけではないのだが、ここにこの金棒を祀っている。
いつアイツが取りに来てもいいようにと……。
鬼に金棒 アイツにとってこれは大切なものなんだろうな。
それに、 アイツが女だったらなおさら大切なものだろう。
なぜ、アイツが女だと思うのかって?
なぜって、女ってこういうの好きじゃあないか……
ブランド物がさ。