
01「中学の入学式」

間違いの一覧
・入学式ボードの横、散っている桜(桜の量が多い 当日は雨だったからもっと少なかった)
・瞳が笑っている(もっと緊張した堅い笑顔だった)
02「中学のクラス制作」

間違いの一覧
・制作中の看板に描かれている学年(3年→2年)
・靴がきちんと揃えられている(もっと雑な奴だった)
03「中学の合唱コンクール」

間違いの一覧
・音符の数が少ない(もっと大きな声だったと思う)
・自分が着ている学ランのボタンの数が違う(覚えてないけど、たぶんちゃんと全部留めていた)
04「高校の体育祭」

間違いの一覧
・走ってる人の順番(この時までは俺の方が速かった)
・地面の色(明け方まで雨が降ってて、もっとびちゃびちゃだった この直後に俺が脚を捻ってすっ転ぶぐらい)
05「高校の文化祭」

間違いの一覧
・バンド演奏には行けなかった(まだ松葉杖だったから)
・そもそも屋外じゃなくて第二体育館での開催だった(音がうるさいからって)
06「高校の卒業式」

間違いの一覧
・自分の第二ボタンがある(撮影の直前、グラウンドの隅で後輩に声を掛けられた)
・俺はこんなに馴れ馴れしくあいつの肩を組めなかった
07

間違いの一覧
▶ Hint「答え合わせ」

同窓会。
酒の入った旧い友人たちの喧騒から離れ、
ホテル一階のロビーにあるふかふかとしたソファーの上で、
私はスマホを弄りながら酔いを醒ましていた。
「あれ」
懐かしい声が聞こえ、ふと顔を上げる。
目の前では、スーツを着た男性が
驚いた顔で右腕と口角を上げていて。
「──颯也」
私は、少し語尾の上がった、
疑問形のような声音とともに立ち上がった。
顔や声に面影はあるが、なにせ約十年振りだ。
「やっぱり。伊織も帰ってきてたのか」
「二日だけね。職場が去年からこっち側になったから、割と来やすくなった」
言葉がするすると出てくることに、自分でも少し驚いた。
彼と最後に会った日──。
卒業式の私は、あれほど何も言えなかったのに。
「いま来たの? ご飯取りに行けば」
「や、もう充分だよ。昼に会食があってそのままこっち来たから」
「大変そうだねーそっちも」
すると、扉に挟まれた宴会場から、
けたたましい音楽が聞こえてきた。
どうやら、幹事主催の出し物だかレクレーションだかが始まるらしい。
「ちょっと話す? 外とかで」
彼の提案に、私も頷いた。
「この辺もだいぶ変わったなあ」
ホテル沿いの道路を眺めながら、彼はそう言って笑った。
人のこと言えないけどね君も、と私は言い返す。
「そうかな」
「うん。何というか、大人になってるよ」
「そりゃそうだろ」
そんなことないよ。
少なくとも私は驚いた。
中高一貫だったから、六年間。
幼馴染としての腐れ縁を合わせれば十三、四年間。
それだけ一緒にいた私が、
一瞬言葉に詰まるくらい。
「中高のアルバムとか、見た? 前のテーブルにあったでしょ」
「ちらっと。あんまりしっかりとは見れてないけど」
「そうなんだ。私は結構ちゃんと見返してたからさ、色々思い出したよ。颯也の写真も見たけど、ちんちくりんで可愛かった」
「なんだそれ」
「だってさあ」
《賃走》のタクシーや車が行き交う夜の道路沿いで、
二人はあてもなく笑い合う。
「中学の合唱コンの写真さ、笑っちゃったよ私。颯也、緊張しすぎてボタン一個掛け違えてるんだもん」
「は? 知らないよそんな写真。酔って見間違えたんじゃねえの」
「なわけないじゃん。どんだけベロベロなんだよ私」
何となく、夜更けに二人で最終のスクールバスを待っていた時のことを思い出した。
「それを言うなら、お前だって。昨日、同窓会だからーって卒アルじゃなくて実家の写真を引っ張り出したんだけど、中学の入学式の時、お前ガチガチだったからな。口だけ笑ってて、目が全然笑ってねえの。俺の母さんも吹き出してたぞ昨日」
「そ──そんなことないよ。そんな緊張とかするわけないし。天気が良かったから桜もいっぱい咲いてて、ああ綺麗だなあって思いながら」
「はい嘘。あの日は雨だったから桜なんてほとんど落ちてたぞ」
「え、ほんとに?」
まるで間違い探しでもするように、
私たちは思い出話を交わし合った。
「じゃ、じゃあ、高校の体育祭は? 颯也が出てた代表リレーでさ、私は備品の準備があったから途中からしか見れてなかったけど、緊張しすぎて抜かされてたじゃん。普段めっちゃ速かったのに」
「あれは、途中までは俺の方が断然速かったよ。緊張してたのはそうだけど、途中で思いっきり足捻って転んだから」
「あ、そうだったの? 確かに泥だらけではあったけど」
「だからその後の文化祭も、バンド演奏キャンセルしたんじゃんか。松葉杖で介助されながらギター弾いて歌うのもカッコ悪いし申し訳ないからって」
「あー、そういうあれだったんだ」
「あの時もちゃんと説明したはずなんだけどな──色々雑なんだよお前は昔から。靴も碌に揃えないし」
ひとしきり笑って、すこしだけ会話が途絶えた。
車のエンジン音が、遠くに響いている。
「──あのさ。ずっと言えてなかったんだけど」
最初に口を開いたのは、彼のほうだった。
「結婚、おめでとう」
「……ありがとう」
私は左手をぎゅっと掴む。
「ごめんね。式に呼べなくて」
「良いよ別に。親族同士でひっそりって感じだったんだろ? 昨日母さんづてに聞いた」
「そっか」
「うん」
私の声は──
「君は?」
その時、少し震えていたのかもしれない。
「何が」
「いや、良い人は見つかったのかなって思って」
「──四年ぐらい、付き合ってる子がいて。たぶん、その人と結婚することになると思う」
「そう。良かったじゃん。大事にしなよ」
「どの立場だよ」
あはは、と笑い合う。
声のトーンは、お互いさっきよりも落ちていた。
「…………」
「…………」
極力明るいトーンを意識して、
「あのね」
出した声は少し上擦った。
「好きだった、って言いたかったの。卒業式の時」
「…………」
「今の旦那さんはね、すっごくいい人で。優しくて趣味も合って、あのひとを選んだのを嫌に思ったことは一度もない。だけど、だから、聞くかどうか本当に本当に迷ったんだけど、確認として、聞くことにする。だから」
これは告白じゃなくて、ただの答え合わせ。
私はそう言って、浅く息を吸った。
「あの日、もし私が告白してたらさ。君は、おっけーしてたと思う?」
「…………うん」
彼は、小さく頷いた。
緊張したときに声が小さくなる癖は変わっていないんだなと、
私は意外と冷静な頭でそう思った。
「だって──俺も、そう思ってたけど、言えなかったから。卒業式の時。いや、言われてからこう返すのは卑怯だけど」
「…………ふ」
彼が付け足したその言葉が、
彼らしいのだけど何だかおかしくて、
私は少しだけ笑った。
「そっか。分かった、ありがとう」
「いや、こちらこそ」
そして私たちは、どちらともなく歩みを始め、
ホテルへの道を帰った。
「意外と楽しかったりしたのかなー、私たちだったら」
「どうだろう、本当に分からないかも」
「だよねえ」
夜風に当たりながら、私は考える。
あの日の選択は、間違いだったのだろうか。
いや、違う。
間違いとか、そういうことではないのだ、きっと。
正直、後悔はしている。
もしかしたら一生引きずるレベルの後悔かもしれない。
でも、それを間違いだとは言いたくない。
それも、当時の立派な選択だったはずだから。
ひとりでうじうじ考えて、
結局何も言えなかった私たちの。
あの日、何も言えずに膝を抱えていた若い私のことを、
大人になった自分が抱き締めてあげられるなら。
きっと、それが一番だと思うから。
「飲むかー、まだ時間あるし」
「え、酔い覚ましでロビーにいたんじゃないのか」
「大丈夫大丈夫、たぶん」
慣れないヒールをかつかつと鳴らしながら、
私は大きく伸びをした。
今が、ふたりにとっての一番。
だから。

梨
JET

戸部マミヤ









