コンビニの片隅に置かれたちっぽけなオカルト雑誌の、数ページの紙面を埋める。私がこの男と会った目的は、それだけだった。
男の奇妙な風体も、胡散臭い語り口も、全ての情報は私にとって文字数のタネでしかない。
その筈だった。
本日はお時間を頂きありがとうございます。洒落怖おみやげハンターの、TEZEMAさん

こちらこそ、お金をいただき光栄です。しがないライターさん
早速ですがTEZEMAさん。 そもそも、あなたが蒐集している『洒落怖おみやげ』とは、いったいなんなのでしょうか?
実物をお見せするのが早いでしょう。その前に、あなたは『巨頭オ』という話をご存知ですか?
え、ええ……確かドライブで訪れた村に『巨頭オ』という看板があって、頭が異常に大きい化け物に襲われるっていう匿名掲示板のコピペですよね
私はその場所を特定し、『巨頭オ』の集落に行きました
ボイスレコーダーが正常に動作していることを、反射的に確かめる。
あれは、創作ですよ
いいえ、いいえ。ライターさん。
……それでは、お見せしましょうか
彼を包む雰囲気が一変した。生唾を飲み込む音がやけに響く。私の頭の中では、急速に文章が組み上げられつつあった。
異形のムラの実在、ネットロアの真相、呪物、おみやげ、TEZEMA。
彼はこれから、私に何を見せてくるというのだ。
御照覧あれ……! 怪異の証左、ネットロアの残穢、私の洒落怖おみやげをーーーッ!!!!!!!

コトッ
これは何ですか?
巨頭オ・コミュニティセンターで売ってる、巨頭オけん玉
頭ゆれるの
死ね死んでくれーーーい、と呟きながら荷物をまとめて玄関へ向かった。
これ無駄無駄無駄無駄。無駄足も無駄足。裏起毛のタンクトップくらい無駄。
待ってください。話は終わっていませんよ
いいえ今しがた終わりました。
これを見ても、まだそんなことが言えますかね
ちゃぷ
巨頭オのビジホで売ってる、バカでかい馬油のシャンプーです
シャンプーいっぱい使いそうですもんね
そーゆうコト
帰ります。謝礼のこんぺいとう4こは後ほど送ります
2万円のはずですよ
本日はくっせえお部屋にお招きいただきありがとうございました荷物をまとめ足早に玄関を出る。
そのとき、TEZEMAがけたたましい大声をあげた。


素数
ある少年が、
なぜ平然と話せるんですか
ある少年が、禁域とされる森へ踏み入り、無数の紙垂と鈴が張り巡らされた柵を越え、六角形にかたどられた空間の中央に置かれた錆だらけの箱を見つける
おい
少年が箱の中の『6本の楊枝のようなもの』の配置をずらしてしまうと、森の奥から世にも悍ましい怪物が姿を現す……
クソが。下半身がなく、右腕と左腕が3本ずつある異形の巫女。『姦姦蛇螺』でしたっけ。洒落怖の
私が仕方なく言葉を続けると、TEZEMAはにやりと笑った。
そういえば名前TEZEMAってなんだよ。ハチャメチャに冷遇されてるEXILEのメンバーか。
物語の終盤、彼が動かしてしまった『6本の楊枝』は下半身が大蛇と成り果てた巫女の姿を表していたことが明かされます
いやぁライターさん。これを持って帰るのは骨が折れましたよ
は?
見晒せッ! 
ぱさっ
姦姦蛇螺オンリーイベントの同人誌
TEZEMAさん
意外にもオメガバースです
夜行バスで7時間かけて来たんです
お願いします。記事になるやつ見せてください。
そう呟きさめざめと泣く私を、TEZEMAはどこか困惑しているような表情で見下ろしていた。
えーと。あの、ひとまずこれで涙を拭いてください
差し出されたのはトリケラトプスのミニカーだった。
これでどうしろってんだ。
何故ご納得いただけないのか、私にはわからない。
…………脳ミソが終わってもうてはいるが、私をペテンにかけようだとか、煙に巻こうだとかという思惑は、彼の言葉からは一切読み取れなかった。自らのコレクションを意気揚々と紹介するTEZEMAの姿が、はじめからずっと眩しくて仕方がないのは、過去の私に似ていたからなのかもしれない。読者のドーパミンをしごき出すことに特化した浅ましい物書きに成り下がる前の、私に。
トリケラトプスを頬に走らせながら、私は覚悟を固めた。
TEZEMAさん。残りのコレクションも見せていただけますか
……構いませんが、どういう風の吹き回しで?
あなたのことを、どうしても記事にしたくなった。それだけですそれから私は、TEZEMAのおみやげを一つ一つ吟味していった。

サイケ蟹光線


JET
彩雲
梨

ありふれた平凡なドラマティック







