試合当日
そして金曜日の夜。
JR水道橋駅を降りて、格闘技の聖地・後楽園ホールへと到着した。

入場の行列ができていた
会場に入ると、すでに別の試合が始まっていた。リングを囲むように配置された客席を見渡すと、ほぼ満席のようだ。
客席の一角に、「長野弘樹(※ロッキーの本名)」という横断幕を掲げたエリアが見えた。そして横断幕を手にしているのは、どれも見知った顔だった。前職の同僚たちだ。ざっと見渡しただけで、かなりの人数がいる。
そういえば同僚にたくさんチケットが売れたお陰で、ロッキーの試合はトリに近い順になったという。ボクサーとしては「チケットをいくらさばけるか?」も重要なKPIらしいから、デビュー戦として、少なくとも興行的には白星を計上したようだ。

応援の横断幕
応援団の中でも、僕の座席は最前列に近く、座るとリングが目の前だった。広告を出したということで、良い席を手配してくれたらしい。これはもしかして、「スポンサー席」というやつではないか。スポンサー席。甘美な響き。憧れがまた一つ叶ってしまった。
ロッキーの出番まで、別の試合を観戦する。

「ドス」と鈍い音が会場に響く。赤のグローブの選手のパンチが顎にヒットし、もう一方が背中から倒れた。ゴングが鳴り、客席から大歓声が上がった。
すごい熱気だ。仕事帰りなのかスーツ姿で来て、ビール片手に一人で観戦しているような人も多い。花金の都心に、こんな夜の楽しみ方があったとは。
選手が現れ、殴り合って倒れ、また次の選手が現れる。
繰り返すうちに、いよいよロッキーの名前が読み上げられる。
「青コーナー……ながの〜ひろき〜!」
その瞬間、音楽が流れ始めた。
♪チャーンチャーン チャーンチャーン
ここまでの試合では、入場曲はなかった。なぜだ。手違いだろうか。というかこの曲は、どこかで聞いたことがある…….
♪チャ〜ンチャ〜ン……ヘイ!!!
「ヘイ!」と同時にロッキーが入場してきて、

拳を突き上げた。このタイミングを狙っていたみたいだ。そしてやはりこの曲は….
♪ガッカリシテ メソメソシテ♪
忍たま乱太郎だ。忍たま乱太郎の『勇気100%』だ。なんで忍たま乱太郎の勇気100%?
リングに上がったロッキーは、音楽に合わせて踊るように、激しいシャドーボクシングを始めた。

ちょっと激しすぎる。なんだか様子がおかしい。試合前に、こんなに動いて大丈夫なのだろうか?笑顔なのに、目はバチバチにキマっている。怖い。普段は落ち着いた奴なのに。
応援団たちの間にも、「疲れるだろ」「なんで忍たま乱太郎?」など困惑の声が広がっていた。
続いて相手の名前が読み上げられ、金髪の選手が入場してきた。ロッキーに比べると、随分と冷静な様子である。手強そうな相手だ。

ロッキーはまだ様子がおかしい。「落ち着け!」と応援団が心配する。
ざわめきに包まれる会場で、ついにゴングが鳴り響いた。

試合が始まった。

入場の勢いのまま、ロッキーがすぐに仕掛けた。繰り出したジャブを、相手選手がガードする。
初めてボクシングを観戦して、印象的だったのが「音」だった。拳が脇腹にヒットし、バチ、と低い音が鳴った。汗の飛沫が飛び散った。シュッ、シュッ、と短く鋭い息が、双方の口からリズミカルに吐かれた。
バチ、シュッ、シュッ。バチ、シュッ、シュッ。
音を響かせてリングが揺れる。客席が揺れる。青と赤の影が揺れる。間近で観る試合は、こんなにも迫力があるとは。

あっという間に3分間のラウンドが終わり、2ラウンド目に入った。打って変わって、今度は共に相手の出方を探っている。これがロッキーの言っていた「駆け引き」だろうか。いま左足を出したのは、フェイントだろうか?
知識が足りずわからない。唯一わかるのは、

僕の出した「超旅ラジオ」のパンツ広告が見えているということだ。
尻に出した広告は、ロープの間からちらちらと顔を出したり引っ込めたり、点滅するように姿を表す。
拳と拳が火花を散らす戦いで、誰が尻に注目するのか?と思わなくもないが、少なくとも僕は注目している。
ロッキーがロープ際まで追い詰められると、

「負けるな!」という応援団としての気持ちと、「広告がよく見える!」というスポンサーとしての気持ちが同居する。
2ラウンド目が終わり、またインターバルに入って、疲れ果てたロッキーが座り込むと、

「頑張れ!」という気持ちと、「広告チャンス!」という期待が混じる。出稿することで、試合を倍楽しめる。
試合は3ラウンドでも決着がつかず、最終ラウンドに入った。二人ともまた立ち上がって、全力で殴り合う。ロッキーの足がもつれ、転びそうになるが、寸前でなんとか踏ん張る。
こうして観戦していると、ボクシングってなんてハードなスポーツだろうか。12分間、全力で身体を動かし、拳を打ち続けるのって、一体どれだけ疲れるのか。しかも頭を使って、考えながら打つ必要がある。あまりにタフなマルチタスク。

「ナーガノ!ナーガノ!」
残り1分を切り、応援団から自然と「長野」コールが飛び出した。僕も声を張り上げて長野と叫ぶ。
実際のところ、普段は誰も彼のことを長野とは呼ばない。ただプロのボクサーたちが集う後楽園ホールで、大声で「ロッキー」と叫ぶのは、なんだか憚られたのだ。だから横断幕もロッキーではなく長野だったのだと思う。
「ナーガノ!ナーガノ!」
配慮のコールがこだまする中、
カンカーン!
ゴングが鳴り、試合が終わった。両者は倒れることなく、ついに判定までもつれ込んだ。あっぱれである。

肩を寄せ、健闘を讃え合う二人。美しい光景だ。きっと拳を交えた者同士にしか、わからない言葉が交わされているのだろう。
判定の結果は……残念ながら、ロッキーの敗北となった。しかし会場は暖かな拍手に包まれた。僕も手が痛くなるまで拍手をした。彼は倒れることなく、4ラウンドを闘いきったのだ。本当にすごいことだし、広告の露出が最大化されて嬉しい。

うなだれながらリングを去っていくロッキーの尻には、地面につくことのなかった「超旅ラジオ」のロゴが、誇らしげに踊っていた。
試合後インタビュー
試合の一週間後。再びロッキーの話を聞くことにした。労いたかったし、尋ねたい疑問もあった。

試合後のロッキー
試合、お疲れ様でした!
不甲斐ない結果で、申し訳ないです……
そんなことないよ!感動しました
やっぱり練習と試合じゃ、全然違いました。普段通りの動きができなかった。無意識に緊張していたんだと思います
試合前からテンションおかしかったよね
リングに上がったら興奮状態になって、訳わかんなくなっちゃって…...

訳わかんなくなってるロッキー
後で言われて、こんなことしてたんだって知りました。全く記憶がないです
とりあえずこれでデビュー戦が終わったわけだけど、今後はどうするの?
実はあのあと、試合のオファーがたくさん来てまして
え、良かったですね!でもなんで?

チケットがたくさん売れたからです。あの日の試合で、僕のチケット売上がダントツだったとか…..
確かに知り合い、めちゃくちゃ来てたもんね
110人来てくれました
デカめの結婚式じゃん
チケットが売れたから特別に、入場曲もかけてもらえることになったんです
あのときの勇気100%は、チケットをたくさん売ったからなんだ……!
はい。曲もリクエストしました。絶対にあの曲をかけたくて。それでテンションが上がりすぎちゃったのかも

テンションが上がりすぎたロッキー
リング上からも、めちゃくちゃ皆さんの声援が聞こえて心強かったです!セコンドの声が聞こえないくらいでした
それは普段の仕事で、人望を積み上げたからだよね。「若さ」では勝てない代わりに、仕事で積み上げた人望で集客する。それが若いボクサーに対する、30歳新人の戦略なのかも……
試合は負けちゃいましたが……興行主からは「集客できそう」、一方で相手からは「なんか勝てそう」と思われて、オファーがたくさんきたのかも
カモネギ状態だ
次は見返せるように頑張ります!広告出稿してもらったパンツも、履き続けますよ
あのパンツで、いつか大晦日のリングに立ってほしい
「可愛いパンツだったね」って評判でした
そういえば最後に訊きたいことがあって…..試合後に相手選手と健闘を讃えあって、耳元でヒソヒソ喋ってましたよね

試合後に讃えあう2人
あれって、「拳を交えた者だからこそ、分かり合える言葉」みたいな感じで、めちゃくちゃカッコいいなと思ってたんだけど、実際なんて言ってたの?
あれはですね…
「バスケ好きなんですね!」って話しかけてました
?
対戦相手のプロフィールに、「趣味:バスケ」って書いてあったんです。僕もバスケ好きだから、いいなと思って
もっと感動的なやり取りがあるもんじゃないの?
ボクシングの試合って、相手選手と初めて喋るのが、試合後のリングなんです。だからなにを話せばいいかわからなくて…..「まずはアイスブレイクが必要だ」と思って、趣味の話題から入りました
最後まで発想が会社員だ
ロッキーはこれからも、会社員とボクサーの兼業生活を続けるそうです。
それにしても、間近で見るボクシングは、本当に迫力がすごい!
さらにスポンサーになることで、倍楽しめます。
みなさんも好きな選手を見つけて、パンツに出稿してみてはいかがでしょうか。
ちなみに広告を出したことで、

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