あとがき

こんにちは。

この記事を執筆いたしました、りきすいと申します。

2月28日夜、私がいつものように自宅でアニメを観ながらTwitter(現・X)を閲覧していると、タイムラインに”それ”は流れてきました。

 

 

 

何かの見間違いかと思いました。そんな、そんなわけがないと、震える指でURLをタップし内容を確認、どうやら本当にまぐろたたき丼が終売してしまったのだと頭で理解できる頃には日付が変わっていました。

私の職場には徒歩5分以内の場所にすき家があり、毎日とは言いませんが昼食でお世話になる事もしばしばあり、その際にはほぼ決まってまぐろたたき丼を注文しておりました。好きだからです。まぐろたたき丼のことが。

ですが私は昨年結婚し、妻が昼食にお弁当を持たせてくれることになったので、まぐろたたき丼との逢瀬は激減し、代わりに雑穀米の詰まったお弁当の”厳しさの中に垣間見える愛情”を受け、それはそれで心地よかったのですが、しかしなんだか物足りない、そんな日々を過ごし、たまにまぐろたたき丼に会えるかと思うと、「よし、今日はかつぶしオクラをトッピングしてみよう」「期間限定のめかぶオクラをトッピングだ!」と会えない時間を埋め合うかのように挑戦的な試みで激しく刺激を求め合いました。

あの優しいまぐろたたき丼の旨味に包まれる至福の時間が楽しみでした。雑穀米の詰まったお弁当に心を許し始めている自分にとっては、まぐろたたき丼のことは忘れなければならない相手なのだと、自分に言い聞かせながらも、それでも時々で良いからと彼女の優しさに甘え、強さを持つことをしなかった私への罰なのでしょう。彼女は突然にいなくなってしまった。

スーパーで販売しているまぐろのたたきに彼女の面影を重ねてもただただ虚しいだけ。あの暖かな旨味に包まれたいとどれだけ願っても、それはもう叶わないことなのだと思うと涙が止めどなく溢れ、妻が眠る横で私は声を押し殺して泣きました。

茫然自失のまますき家へ行くと、彼女のいなくなった席に海鮮ちらし丼がいました。「おい、そこは彼女の席だぞ!」そう声を荒げたくなる想いをグッとこらえ、メニューパネルを操作し、注文しました。運ばれてきた海鮮ちらし丼は何も知らない顔をして「はじめまして! よろしくお願いします!」なんて言いながら、バイト感覚のような甘えを感じさせる盛り付けで登場した。そういえば、彼女もプロフェッショナルとは言えない、まるでフリスビーのような盛り付けで登場していたっけ…… だめだ、彼女はもういないんだ。忘れなければ……

 

食べやすくカットされたまぐろといか、そして錦糸卵が華やかな彩りを放っている。

違う!!

いただきます―― 箸からこぼれ落ちる三色をなんとかまとめ、口に運び、咀嚼する。

違う!!

もっちりとしたまぐろの旨味、いかの歯ごたえ、それらを包む錦糸卵のほのかな甘み、これら別々の味が三位一体となって織りなすマリアージュ。

違う!!

まぐろたたき丼にも使用されていた特製タレのかかったごはんと、具が合わさることで…… ごはんと、具が……

 

やっぱり、まぐろたたき丼がいなくちゃ、ダメだよ俺……

 

記事の中の彼は無事にまぐろたたき丼のいる世界に帰ることができましたが、現実の私だけがすき家のまぐろたたき丼のいない世界に取り残されています……

 

助けてください……

 

 

 

 

 

追記

3月27日、あれからすっかり腑抜けきった日々を送っていた私は、やはりいつものように自宅でアニメを観ながらTwitter(現・X)を閲覧していた。

精神的に参っている状態でSNSを閲覧することは一種の自傷行為だと捉えている。私が腑抜けている間も世界は回っているのだと嫌でも思い知らされるような気がして、結構えげつないダメージが入ってくるのだが、これがなかなかやめられないのだ。

そんな中、タイムラインに”それ”は流れてきました。

 

 

 

何かの見間違いかと思いました。そんな、そんなわけがない。彼女はもういなくなったんだと、そう言い聞かせてきたんじゃないか。

思えば、この記事を書くことを決めて、構成を考えていざ記事を執筆・撮影となった段階でまぐろたたき丼が終売するという惨事に見舞われ、失意の中なんとか書き上げて公開を待つだけだった矢先の販売再開。この間わずか1ヵ月。

ピエロ――

そう、私はピエロなんですよ。フリスビーの上で踊らされるピエロ。そんなことあっていいわけがない。あまりにも滑稽ではないか。なんだか無性に腹が立ってきた。いつの間にかいなくなったかと思えば、またいつの間にか帰ってきてる。いつもそうだ。私がこれだけ想っていても彼女には届かない。まるで儚い煙のようにするりと手のひらからこぼれ落ちていくように、ふらっといなくなってしまう。もうたくさんだ。振り回されるのは懲り懲りだ。そう、これは夢、夢なんだよ。彼女に見えるけど彼女ではない、私の心に落ちた暗い影がまぐろたたき丼という実体を伴って私の心をかき乱そうとしているのだ。強くあろうと決めたじゃないか。私はピエロにはならない。

 

でも……

 

 

これは間違いなく彼女だ……

 

 

 

居ても立ってもいられなくなった私は、近くのすき家に来ていた。彼女に会えるのならば私はピエロで良い。

「……ただいま」 そう言う彼女は照れくさそうに微笑んでいて、なんだかいつもより多いようにも見えた。小言の一つでも言ってやろうかと思っていた私は一瞬で毒気を抜かれてしまった。嬉しいような呆れたような、とにかくこれほど心地良い気分でまた彼女と向かい合えたことに、ホッとした。

気付けば私は、箸で彼女を優しく抱きしめていた。その瞳には涙が滲んでいた。

「おかえり」

 

TRUE END