ワーワー

 

 ついに我々の前にその姿を表した営 三七郎!
スタッフ一同にも緊張が走ります!これは目が離せない展開になってきました!
彼はいったいこれからどんなことをしでかしてくれるのか!
もしかして……歌うのか!?

歌 っ て く れ る の か!?!?!?!?

先行きの見えない不透明な現代社会の中で、その辺の動きにも注目しながらご覧ください!!
それでは歌っていただきましょう!営 三七郎で、曲は――

 

 

 

 

 

 

 

俺は営 三七郎。

ただいま人気爆発中の新人演歌歌手だ。

CDが売れないと言われる昨今、俺の出すCDは売れに売れ、老若男女に聴きに聴かれている。

 

先日発売した俺のブロマイドステッカーも速攻で売り切れ、今は全国津々浦々のゲームボーイアドバンスSPのボタン周りをあでやかに彩っているのだとか。

 

今でこそドラッグストアのレジ袋よりも銀色に輝くジャケットを身に纏い聴衆の前で歌っている俺だが、実は産まれた頃から演歌歌手だったわけではない。

 

 

 

俺はかつて、一人のボクサーだった。

 

 

これは、しがないボクサーだった俺が演歌歌手として成功するまでを描いた真実の物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なに見てんだよ。見せもんじゃねーぞコラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——2001年、日本。

 

☆☆ 2001年の主なニュース ☆☆☆

・SONIM、YUKI、KENのトリオによるEE JUMPが結成
・KENがEE JUMPから脱退
・EE JUMPの3rdシングル「おっととっと夏だぜ」が異例の大ヒット
・ユウキがEE JUMPから脱走
・EE JUMPのソニンがソロデビュー

 

 

 

 

 

 

その頃俺はボクサーとして、過酷な試合に励んでいた。

 

 

 

 

ボクシングを始めたきっかけは大したもんじゃない。

 

 

 

 

漫画「クレヨンしんちゃん」でまつざか先生が女子ボクシングに打ち込む姿を見て強い憧れを抱いたという、あの当時のボクシング少年としては至ってありきたりで単純な動機だ。

 

 

 

 

それ以来、俺はボクシングとかいうスポーツの虜となった。

 

 

 

 

 

飛び散る汗、飛び散る血、飛び散るタオル……。

 

その全てに心奪われた俺はいてもたってもいられず、近所の定年後の国語教師が自宅の一室を使ってやってるボクシング教室の門を叩いた。

 

練習は過酷だったが、鍛えるほど確実に高みに登っている感覚がまた心地よかった。

 

 

「頑張ってボクスしろヨ」という手紙が添えられた父からのプレゼントのパーカーを羽織り、昼夜を問わずトレーニングに励み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

だけど、勝てなかった。

 

 

 

出る試合出る試合、負けばかり……。

 

スパーリングだと勝てるのに本番になると緊張のためか、いつもの調子が振るわない。

いっそ対戦相手のことをただのジャガイモだと思い込むようにした。

 

まさかジャガイモが殴ってくるとはつゆ知らず、気がついたらマットに倒れていた。

 

そんな連敗続きの情けない姿を見てファンの愛想も尽きたらしい。

いつしか俺は「まるごとソーセージ青チェリオ」と影でコンビニ店員たちから呼ばれるようになった。

 

 

 

いったい俺がなにをしたってんだ。試合に負けただけだろうが……。

 

 

勝つことがそんなに偉いのか?そんなこと誰が決めた?いつまでも旧来の価値観に囚われたままでいやがって、このビチションどもが……。

 

 

ゆるさねえ……いつかお前の家のカーテンの裏でウンコしてやるからな……!

 

 

 

 

 

 

 

てなことを考えながらニトリで良さげなカーテンレールを物色しているうちに、次の春がやってきた。

 

プロボクサー免許更新の季節である。

 

▲足立区立プロボクサー免許更新センター
(土日は激混みするので有給取って平日に行くのがオススメ)

 

本来であればプロボクサー免許更新センターに行って免許を更新してもらい、帰りに併設の食堂で素うどんを啜るのが常であるが、俺はしなかった。

 

プロボクサー免許を返納したからだ。

 

いくら手を伸ばしても届かない目標に見切りをつけた俺は、子供の頃からの夢をついに叶えることにした、そう

 

 

 

 

 

 

おでんの屋台を引くという夢を。

 

 

第2章 元ボクサー、おでんを売る。

 

子供の頃好きだったアニメがある。

 

 

それは「おでんくん」

 

 

伝説の高視聴率トークバラエティ「ココリコミラクルタイプ」への出演で一世を風靡したイラストレーター、リリー・フランキーが長年のノウハウをすべて注ぎ込み満を持して世に送り出した最高傑作だ。

 

意思を持ち人語を解するおでんの具が鍋の中で繰り広げる悲喜こもごもの人間模様、その斬新な設定は全国の男子中学生たちにもやもやと屈折した感情を呼び起こしたことは記憶に新しい。

 

 

 

 

かくいう筆者も当時は両親が寝静まった午後6時に居間のテレビにイヤホンを繋ぎ、ひとりでこっそり楽しんだクチである。ムフ……

 

このアニメこそ、俺がおでんに興味を抱くきっかけだった。

 

普通の視聴者ならば、鍋という大舞台の上で注目と出汁を浴びるおでんの具に一度は憧れを抱くのだろう。

 

しかし俺は違った。

 

むしろ誰から讃えられることもなく影に潜み、具たちにスポットライトを当て続ける裏方としての生き方を選んだ「おでん屋台の店主」にこそプロフェッショナルとしての矜持を見たのだった。

 

彼の夢はいつしか、俺の夢にもなっていた。

 

ボクサーをやめて時間が余りまくっていた俺は、もののついでにおでんの屋台をやってみることにした。

 

店名は子供の頃から既に決めてある。

 

 

生苦半渡。

 

“生きる苦しみを半分渡す”と書いて「生苦半渡(シェイクハンド)」だ。

一本一本ていねいに握られたおでんを食べた客に、俺がこれまで受けた苦しみの半分でも味わってもらいたい。そんな祈りにも似た願いが込められている。

 

 

おでんの具は玉子や大根をはじめとした、オーソドックスなものを揃えた。

 

それだけだと少し寂しいので、残りの具は読者から募集した最強オリジナルおでんの具を採用させてもらった。

 

 

(現在は募集を締め切っております)

 

それらを集めて完成したお品書きがこれだ。ご覧いただこう。

 

・玉子
・大根
・こんにゃく
・昆布
・厚揚げ
・しらたき
・餅巾着
・牛すじ
・ノーパン (P.N.悪い政治家さんの投稿)
・味染み男根 (P.N.バンドマンさんの投稿)
・おじさんの金玉袋 (P.N.餅田金着さんの投稿)
・エレファントカシマシ (P.N.サバミソさんの投稿)
・ちんぽぶ (P.N.マラさんさんの投稿)
・七夕の笹 (P.N.こう+さんの投稿)
・星野源の炊いた米 (P.N.とーにさんの投稿)
・パンの髑髏慣らし (P.N.モグモグモグさんの投稿)
・虚(きょ) (P.N.斜塔さんの投稿)
・羞恥心が首に巻いていた紐(黄) (P.N.とーにさんの投稿)
・ガンプラ (P.N.シャーさんの投稿)
・俺んちにある渡しそびれて賞味期限が切れたUSJのクッキー (P.N.田辺さんの投稿)
・ティガレックスの前脚 (P.N.ザンバット・ザンバスターさんの投稿)
・カメックスの砲身 (P.N.おくにさんの投稿)
・石原さとみの唇 (P.N.プリンけつさんの投稿)
・ダンジョン飯 8巻 (P.N.古参さんの投稿)
・島耕作 (P.N.ヒデユキさんの投稿)
・マッハトルネイド (P.N.メタナイトさんの投稿)
・たくさんの空気 (P.N.ナイトミュージアムで懐中電灯をアクロバティックに扱うシーンさんの投稿)
・おしりはんぺんの刑 (P.N.プリケツを公然と陳列した者に科せられます。さんの投稿)
・真っ赤な犬 (P.N.心技体の三連単さんの投稿)
・HDMI分配器(3口) (P.N.タカティンさんの投稿)
・Ζガンダム (P.N.むきプリン小町さんの投稿)
・シルバニアファミリーの枕 (P.N.てんてふさんの投稿)
・コイキング (P.N.金さんの投稿)
・土井善晴 (P.N.土井善晴さんの投稿)
・レゴ (P.N.森濁さんの投稿)
・ロキソニン入り巾着 (おでんを食べると頭が痛くなるので) (P.N.敵さんの投稿)
・ホッケー大会 (P.N.亀亀さんの投稿)
・じいさん (P.N.出汁さんの投稿)
・ちんぽこ (P.N.こまるさんの投稿)
・万札2トン (P.N.金満 大豪遊座さんの投稿)
・小せえけどボス猿 (P.N.北山さんの投稿)
・デカめのプランクトン (P.N.ラッキーチンポさんの投稿)

※紹介できなかった具についてはごめんなさい!
みんな、たくさんのご応募どうもありがとう!

 

現時点で最高のラインナップと言えないだろうか?

 

こうして開始された俺の新しい商売であるが、引きたてホヤホヤの屋台に当然客など来るはずもなく。

 

段ボールいっぱいに売れ残ったおでんを毎日持って帰っては、ソフトクリームぶっかけてシロノワールにして処理していた。

正直、何度も挫けそうになった。だがその度に、デヴィ夫人だって80歳超えてデヴィ夫人でやってることを思い出しては奮起し、屋台を引き続けた。

 

 

 

果たして甲斐があり、最初は遠巻きに眺めるだけだった通行人(つうこうに)たちも、警戒心が薄れてきたのか次第と距離を狭めてきて、最近では顎を撫でさせてくれたり膝の上に乗ってくるようになった。

 

 

そして今日。

 

ついに、初めてのお客さんが俺のおでんを食べてくれることになったのだ!

 

 ウ〜イ、ヒッッッッッッッ!!

 

 

 すっかり酔っちまった……。あれ?お前チェック柄のシャツなんて着てたか?このオシャレ番長め……(涙)

 

 それはカービィボウルの床ですよ、課長

 

 まったく、調子に乗ってパンテーンのお湯割りなんか飲みまくるからですよ

 

 だってCM見てるとすっごくおいしそうなんだもん

 

 

 

 あれ?あんなところにおでん屋があるじゃねえか

 

 おでん!?あたし本当はおでんOKなんです!食べていきましょうよ

 

 いいねえ〜、寄ってくか

 

 

 

 

 

カランコロンカランコロンカランコロン……

 

 

 

 大将!予約無いけど入れるかい?

 

 

 へえ!予約なしでもすぐ座れるのが自慢でさあ

 

 フーン、若いのに本質を理解してるねぇ

 

 やめてくだせえ旦那ァ、褒めても知ってる道にしか出ませんぜ

 

 そいで、どの具をチョイスいたしやすか?

 

 具、か……

 選ばざるを得ませんね……

 

 

♪モワワンプルルン、モワワンプルルン、モワワンプルルン……(ライアーゲームのBGM)

 

 

 

 

 そうだな、じゃ俺は、玉子と厚揚げとカメックスの砲身(P.N.おくにさんの投稿)をもらおうかな

 

 あたしは玉子とこんにゃくとちんぽこ(P.N.こまるさんの投稿)お願いします!

 

 へい、しかるべく!

 

 少しお待ち下さい。ウチは注文を受けてから煮込み始める本格派でね

 

 おでんでやられても嬉しくないよ

 

 

 

 

 

 

ついに……。ついに初めて俺は、作ったおでんを客に提供する……。

 

へへっ、俺としたことが、こんなに動揺するなんてな……。落ち着け、大丈夫だ、不安なことなんて何もない、

 

ボクシングもおでん屋も本質的には同じようなもんだ。

お客が代金という名のボディブローを放ってきたら、こちらもお釣りという名のボディブローをお見舞いする。

だろ?

 

分かってる……、やれるさ、俺だもの。

 

 

 

 オラッお待ち!まずは大根ね!

 

 

 

 

 

ベチャ

 

 う、美味そすぎる……ゴクリ(ゴクリ)

 

 繊維のいっこいっこが輝いて見えるわ……これがプロの求める品質なのね……!

 

 さぁさ、平べったいうちに召し上がってくんな!

 

 いったっだきまーす!!

 

 

 

 

シャキッ

 

どうだ……!?

 

 

 ウ……

 

 

 しっこ臭ぇ〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

!?

 

 

 しっこのやつやってんじゃないの〜〜?

 

!?

 

 

 

 

 

 し、しっこのやつなんかやってないですよ!何言ってんですか春の日差しの中で!

 

 じゃあアンタも食べてみろよ!やがて気づくだろうさ!自分が作ったのはおでんじゃなくてしっこだったって!

 

 なにィ!?じゃあ食ってやるよ、後悔しはなんはなやんやなんや!

 

 

 

 

 

シャクッ

 

 

 

 

 

こ、これは……

 

 

 

 

 

 

シャクシャクッ

 

 

 

そんな……

 

 

 

 

しっこだ……!!

 

 

 

 

 

シャクシャクシャクシャクシャクシャクッ、ゴクンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱしっこだ!

 

 

 

 

 

しかも……

 

 

 

高速道路の

 古いサービスエリアの

  トイレの床を

しとどに濡らす

 タイプのしっこだ……!

 

 

 

 

 

 よくも俺様におでんもろともしっこを食わせやがって!!

 生きて罪を償え!!

 

 ああ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜだ!?

 

なぜ俺のおでんから強烈なしっこ臭が!?

 

材料は今朝築地で抜いてきた新鮮なものを使用しているし、調理だって美味しんぼDSの命ずるままに従ったはずだ……!

 

 

ほら、具だって、この四角い什器の中で今も燦然と輝いて……!

 

ん?

 

四角い、什器……!?

 

その瞬間、俺は気づいてしまった。

 

そして、かつてボクサーであったことをこの上なく後悔した。

 

 

 

なぜおでんがしっこ臭くなったのか?

それにボクシングがどう関係するのか!?

真相は次のページで!!