―――オモコロ編集部
キショ松「うわーん! 原宿さん、聞いてくださいよー!! ヒドい目にあったんですー!!」
原宿「どうしたのよ…」
キショ松「僕、この間アルバイト始めたんですよ。そしたら、一週間ちょっとでクビになっちゃったんです!!」
原宿「あらら。どんな悪さしたら、そんなことになんの?」
キショ松「違うんです!僕は何にも悪いことしてないんですよ! それなのに、それなのにですよ!!
バイトしてた会社の社長が霊感あるらしくて、「お前の守護霊が気に食わない」って突然、解雇されたんです!!」
原宿「えー!? マジでそんなことあんの?」
キショ松「信じられないでしょ!? ヒドいでしょ!?
そのうえ、解雇届のデータをメールで送られて会社に来なくていいから郵送で送ってくれ、って言われてるんです!
…その解雇届っていうのが名前とハンコだけで出せるようになってて、退職理由が勝手に「一身上の都合」って書かれてるんです…!
アイツら、僕を守護霊なんて理由で解雇したくせに、全然悪いことしてないつもりなんですよ!」
原宿「ヒドい話だな…! よし!労働基準局に行って、その会社のことをチクってやろう!!」
キショ松「人の話は最後まで聞けよ! バカ! 重要なのはそこじゃありません!
僕が許せないのは、守護霊を理由に解雇したくせにどんな守護霊なのか教えてくれなかったことなんです!
アイツらは、邪悪な守護霊を放置して僕の人生をズタボロにしようとしてるに違いないんです!
こんな目にあっては人に頼ろうなんて思えません。何としても自力で守護霊の正体を突き止めてやりますよ…!
あとコレ、記事としてオモコロに掲載するんで、費用はオモコロ編集部持ちでお願いします。」
原宿「はぁぁー!?」
1. 電話で守護霊を見てもらう
…そうやって原宿さんから金をふんだくったトコまでは良かったんだけど、守護霊を見るためにはどうしたらいいもんか全くわからなかった。僕には霊感なんてないし、知り合いにもあてがない。
困ったときのインターネット頼み。ひとまず「守護霊 霊能者」などパッと思いついた単語で検索してみると…
お、それっぽい広告バンバン出てくんじゃん!イマドキの霊能者って営業活動にも力を入れてんのかあー。
調べればすぐに分かることだが、霊能力業界は電話相談とメール相談が多い。
サービス内容も充実。電話やネット回線で霊視できるばかりか、波動まで送れるッテんだから、テクノロジーの進歩は目覚ましい。
色々なサイトがあったけど、新規ご利用の方に! 鑑定料金 1000円引きキャンペーン!をしているトコで霊視してもらうことにした。
このキャンペーン!で割引しても20分4000円と高値だが、守護霊は一生モノ。うまくすれば邪悪な守護霊をぶっ殺してもらえるかも…と考えれば、かなり安い。
名前や住所などを告げ会員登録を済ませ、早速霊能者に電話を繋いでもらった。
「もしもしー」
「先日、社長が僕の守護霊を気に食わないという理由でアルバイトをクビになりまして…」
普通の反応。
僕はてっきり、霊能者ってのは
A「あいつマジ、キモくねー? 霊的に受け付けないっていうかぁー」
B「キャハハ!分かる分かるー! 学校の友達に祟られてた系だよねー!」
みたいなノリなのかとと思ってました。
「これがホントなんですよ。そんで、僕に憑いてるクソ守護霊の正体を教えてもらいたいんですが…」
そう言うと電話口が無音になった。守護霊にアクセスするには2分くらいかかるものらしい。
へー。 今だったら、コミケで出展するような人だったのかな。 でも、これだけじゃクビになったことと全然つながらないし、更なる情報を手に入れないと…
「他にもいろいろ教えてほしいんですけど、守護霊の生前の仕事は?」
「生前の名前は?」
「顔は?」
粘ってはみたものの、SNSのプロフィールみたいな内容が限界らしい。ハズレ霊能者だったのか、守護霊の個人情報取り扱いに厳格だったのかは未だに謎だ。
その後、霊視に代えて「霊の声を聴く」という提案が。更なる守護霊情報を手に入れるチャンスかも。
残り5分しかないが、やってもらうか…!
「お願いします」と言うと、また電話口から何も聞こえなくなった。二分間の降霊待ちだ。
いよいよ、生まれて初めて守護霊の話を聞けるのか…
守護霊がお喋りだってのを知らなかった僕も悪いけど、ラスト5分でコレぶっ込むとか延長料金取りたいだけだろ。 あ、長いんで要約すると「守護霊的に考えれば、解雇は人生のスパイス」ってことです。
規定の20分も過ぎたし、降霊中の人に対して言っていいもんかわかんないけど…
「すいません、もう20分経ったんで…」と言うと
突然、締めのトークに入り、守護霊降ろしたまま相談終了。
原宿「………どうだった?」
キショ松「守護霊は八、九代前の父方のひいひいひい………ひいじいさんで、目立ちたがり屋のアーティスティックな人だったそうです。
今回、僕がアルバイトをクビになったのは、前世が大人しい人だったから反対に僕の人生を波乱万丈にしようと思ったから。
それ以外は何も分かりませんでした…」
原宿「全然、具体的なこと言ってないじゃん。ハッタリ使われてただけなんじゃない?
そもそも電話で守護霊見れるってのも意味わかんないし、もうやめなよ。」
キショ松「今度は電話じゃなくて、対面で相談してくれるトコ行きます!
原宿さん! お金ください!!」
原宿「………」
2. 対面で守護霊を見てもらう
いくら21世紀つっても、電話でちゃんとした霊視なんてできるワケないんだよ!でも、対面だったら守護霊のリアルな情報が得られるハズ!
霊能力業界は電話相談、メール相談が多いけど当然、対面で見てもらえるところもある。タロットや四柱推命もやってる多角経営の人とか、占い師専門の人も多いからチョットだけ探しにくいけど。
今度は渋谷駅近くの占い屋。色んなタイプの占い師や霊能者がシフトで回してるから、目当ての人を見つけやすい。
「守護霊のせいでバイトをクビになった」って話は霊能者的にも理解できないコトだと分かったので、内緒にすることにした。
「僕の守護霊を見てほしいんですけど…」と言うと、チラチラと僕の頭の上を見る霊能者。
「守護霊的に考えて、僕ってどうなんですか?」
キショ松「守護霊から僕へのメッセージとかありますか?」
だから 長ぇって。
原宿「……今度はどうだった?」
キショ松「…男運の悪いひいおばあちゃんが守護霊だって言われました…」
原宿「電話のときと食い違ってるじゃん! うわー、だからさぁ~、霊能者なんているワケ無いんだからお金もかかるし、もうやめに…」
キショ松「金儲けでやってるからダメだったんです!次はTwitterで素人の霊能者を探しましょう!
もう金いらないんで、原宿さんは不要です!!」
原宿「………勝手にしろよ…」
3. Twitterで守護霊を見てもらう
霊能力なんてウソつき放題ですもんね!金儲けでやってるヤツなんてペテン師ばっかりに決まってるんですよ! Twitterで素人霊能者に見てもらえば、安い!早い!正しいハズ!
キショ松「お! 探してみれば、霊能者って意外といるもんですねー。 しかも、タダ! 条件バッチリだ!」
原宿「うわ、うさんくせぇー! 出会い目的なんじゃねえの? 女の子って占いとか好きだしさァー」
キショ松「原宿さん…人を信じる心ってのを失ってしまったんですか…これだから大人ってのは信用ならないね…
今までの成り行きがバレないように新しいアカウント作って霊視してもらいます!」
ーーー数分後、霊視の結果が出た。
原宿「ええ~!? 今までの霊視の結果と一致してんじゃん!!
一人めの霊能者は男って言って、二人目の霊能者は女って言って、三人目は男女が一人ずつ憑いてるって…
これってもしかして、3人が全員、本物の霊能者だったってこと…?」
キショ松「そういうことになるかもしれません。」
原宿「…もしもの話だけどさ。今までの霊視が全部本当だとしたら、社長が守護霊を理由にクビにしたのも理解できるね。
ひいひいひい…ひいじいさんの守護霊が霊感のある社長に目をつけて「キショ松の人生を面白くしてやろう」って思って社長と一芝居打ったのかもしれない。そんで、ひいばあさんの守護霊は悪い女には騙されてるわけじゃないし、とりあえず黙ってみてた、と。
最初は社長が理不尽な人なんだか、守護霊が邪悪なんだか…ってヒドい話だったけど、実は悪者は誰一人いなかったのか…」
キショ松「そうですね。邪悪な守護霊とか、理不尽な会社とか言って申し訳ないことしたのかも。
でも、原宿さん。霊視の結果が全部あってたとしても、ひとつだけ分からないことがあるんです。解雇理由が「一身上の都合」って僕のせいにされてるのっておかしくないですかね?
全部本当なんだったら社長だって霊能者なんだし、素直に「守護霊の都合」って書いたっていいわけじゃないですか。」
原宿「いや…」
………こうして、事件の全貌は明らかになったのだった。