AirPods Proが壊れてしまいました。2週間ほど前のことです。右イヤホンがケースに認識されず、充電されなくなってしまったのです。

もうそこそこ長いこと使っていたし、寿命が近いことは覚悟していたのでそこまでショックではありませんでした。でも、愛着を持って毎日のように使い続けてきたAirPods Proをすぐ処分してしまうのも寂しい。それに片方からはまだ音も聞こえます。そこで、このAirPods Proとお別れをする前に「最後の1曲」を聴きたいと思ったのです。

 

というわけで自然が多くて景色の開けた場所にやって来ました。せっかくならこういう場所で最後の1曲を聴きたいですからね。

なお、聴く曲はもう決まっています。

 

R.E.M.の「We All Go Back To Where We Belong」です。全くボケとかではない選曲で恐縮ですが、めちゃくちゃ良い曲で最近よく聴いているのでこの曲にしました。今はふざけるべき時ではない。

 

このAirPods Proを買ったのは、私がオモコロに入ったばかりの頃のことでした。ライターとしての一歩を踏み出した自分へのプレゼントに、大枚をはたいて買ったのです。それまでは高くて数千円のイヤホンしか買ったことのなかった私にとって、4万円くらいするAirPods Proは相当思い切った買い物でした。

しかし勇気を出して購入したAirPods Proは、期待を裏切らない素晴らしい品でした。特にノイズキャンセリング。周囲の騒音がサァァ……と消えていくのを初めて体験した時の感動は今も覚えています。私はAppleの最新技術に衝撃を受けると同時に、「オモコロライターになるとはこういうことか」と、自分の人生が動き始めている実感に胸を高鳴らせたものです(今思うとそれとこれとは全く別の話ですが)。

 

私のオモコロライターとしての歩みはAirPods Proとともにありました。私が記事を書いている時、そばにはいつもAirPods Proがあったのです。このAirPods Proは、オモコロライターとしての私の片割れであると言ってもいいかもしれません。そう考えると単にイヤホンが壊れたという以上の喪失を感じてしまいます。ですが、ここで私まで足を止めるわけにはいきません。だから私はこうして記事を書いているのです。

 

およそ2週間ぶりにAirPods Proを両耳に装着します。一瞬だけ違和感にも似た懐かしさを覚えましたが、すぐに耳になじんでいきました。何百時間も私の耳の中にあった、AirPods Proの感触。これが最後になるなんて信じられません。

今から再生するのは、いわばこのAirPods Proの鎮魂歌。片耳からしか聞こえないとはいえ、その音色はきっと私の心に刻み込まれるでしょう。あまりしんみりしたくはないですが、どうしたって感傷的な気分になってしまいます。名残惜しさを振り払うように、私はつとめて機械的にスマホ画面上の再生ボタンをタップしました。

 

…………

 

 

 

 

……………………あれ?

 

え? 充電されてるってこと? 今使ってるAndroidのスマホだとAirPods Proのバッテリーが確認できないんだけど、音がするってことは充電されてるってこと? なんで? そんなことがあっていいのか???

 

※後にiPadで確認したところ、ちゃんと両耳フルで充電されていました。本当にどういうこと?

 

2週間前の時点では確かに右イヤホンがケースに認識されず、バッテリー残量も0%になっていたはずです。以前から片耳だけ充電されないことは度々あったのですが、たいていは一時的なものですぐに直りました。でも今回はいくら待っても充電が始まらないので、ついに完全に壊れたのだと思ったのです。

しかし今、私の右耳にあるAirPods Proからは朗々と音楽が流れています。はなから壊れてなどいなかったのか、放置している間に勝手に直ったのか、何らかの偶然で一時的に再生できているだけなのか、理屈は全くわかりません。ただとにかく、今この瞬間にAirPods Proが使えているという事実は動かしようがないようです。

はっきり言って、戸惑っています。「壊れてなくてよかった」と安堵する気分にもならないです。AirPods Proが壊れているという前提でいろいろな物事を進めてしまっているからです。

 

だってもう、10月に発売されるBoseのイヤホンを予約しちゃったんですよ!?

 

なんなら、Boseのイヤホンが発売されるまでの「つなぎ」のイヤホンまで買っちゃったんですけど!?!?

 

……人生とはままならないものですね。ちょっと良い話風の記事を書こうとしたらこれですよ。しかしこのAirPods Proが、オモコロライターとしての私の片割れだと考えるなら、こうなるのも納得がいくかもしれません。「安い感動に逃げず、“おもしろ”をやれ」というメッセージなのでしょう。

いやでも「AirPods Proが壊れてると思ったら壊れてなかった」って、オチとしても別におもしろくはなくない!? それならまだしんみりしたまま終わっていたほうが格好がつきました。前半は完全にそっちモードのテンションだったし。「だから私はこうして記事を書いているのです。」とか言ってるんですよ。

 

結局私がやったことといえば、壊れてないAirPods Proを壊れてると思い込み、のこのこ高台までやって来て、お門違いな感傷に浸っていただけではありませんか。とんだお笑い草です。おまぬけピエロです。おまぬけピエロのおっぱいエクレアです。それを買いに来たHなおじいさんが乗っている自転車です。ちいちゃいピンクの自転車です。AirPods Proよ、これで満足か? お前が求めていた「おもしろ」とはこれなのか? いや、「お前」とは私自身にほかなりません。私は何を求めているのでしょうか。あと1週間もすれば、予約していたBoseのイヤホンが届くはずです。私はその時どうすればいいのでしょうか。私は。

 

We all go back to where we belong

Is this really what you want?

(私たちは皆、自分のいた場所に戻る

本当にこれを望んでいるのか?)

 

──R.E.M.「We All Go Back To Where We Belong」