ブロス編集部です。
8月の日曜日は色んなジャンルの「オススメ小説」をご紹介する記事をお送りしたいと思います。
今週は……「オススメのミステリー小説」!色んな謎をお楽しみください。
ダ・ヴィンチ・恐山のオススメホラー小説
宇宙探偵ノーグレイ(田中啓文)
【オススメ人:ダ・ヴィンチ・恐山】
現実には起こり得ない状況を前提にしたミステリ作品を「特殊設定もの」などと呼ぶことがあります。たとえば「魔法がある世界」とか「タイムループのある世界」などで、もはや一つのジャンルとして成立しつつあります。
特殊設定とはいえ「なんでもアリ」ではないのが重要。魔法があるからといって「誰も知らないワープ魔法を犯人だけが使えたのです」では興ざめもいいところです。現実離れしているからこそ、意外な結末には論理的な納得感が必要なのでしょう。
『宇宙探偵ノーグレイ』は、5作からなる連作短編集。宇宙を股にかける敏腕探偵「ノーグレイ」が、奇妙な惑星で起こった事件を解決するため奔走します。ただしこの惑星がどれも非常に特殊。
ゴジラのような巨大怪獣ばかりが生息する「怪獣惑星キンゴジ」
住民がウソをつくことのできない「天国惑星パライゾ」
住民の数が必ず一定で、死んだものは生まれ変わる「輪廻惑星テンショウ」
誰もが台本通りの芝居を行って一日を過ごす「芝居惑星エンゲッキ」……などなど、癖のある惑星ばかり。
たとえばミステリにおいて「首なし死体」はありふれた謎ですが、その死体が無敵の巨大怪獣だったら?遊び心に満ちた惑星で起きるさらに不可思議な事件。その解決もまた、惑星の特殊な性質に由来するものとなっています。読みながら結末を予想することは非常に困難だと思いますが、なんでもアリに見えて最後にカッチリとピースがはまりルールの全容が見える気持ちよさは、まさにミステリの醍醐味。おもちゃ箱を覗くような楽しみのある一冊です。
かまどのオススメミステリー小説
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件(白石智之)
【オススメ人:かまど】
プロットからかっこよすぎるミステリー作品です。最高!!!!!
ミステリー作品の中に「多重解決ミステリ」というジャンルがあります。「真実はいつも一つ」と真っ向勝負する概念で、「推理した結果、複数の真実が存在する」というものです。そんな中、この白井智之先生が描く多重解決ものは天下一品。すごい。ミステリー好きなら絶対読んでほしい。けど、ミステリー好きならもうとっくに読んでいるでしょうね。それぐらいの作品です。
多重解決ものってめっちゃ集中して読まないと、次から次への推理が塗り替わっていくので、途中で「ええ……? じゃあさっきの推理はなんだったの?」「ごめん、疲れた……。結論だけ教えてくれ……」ってなりがちなんですが、この「名探偵のいけにえ」では提示される複数の推理がどちらも特大の質量をもって突きつけられます。その圧巻の解説パートを読んだとき、思わず「この人、カッケぇ……!」と口走ってしまったほど。うっとりするような職人技。マジすげえ。
「多重解決」の構造的な弱点を消し去りつつ、同時に、「多重解決」というジャンル自体に新しいキラメキを与えるようなプロットの見事さをぜひ体感してほしいです。他の作品もどれも読み応えがあり、追いかけがいのある作者なので、この「名探偵のいけにえ」を入口にどっぷりハマってみてください。
次作の「エレファントヘッド」はマジで最悪です。いや、決して悪い意味じゃなくて。めっちゃ面白いんですけど、本当に最悪なんです。人間がこんなもの書いていいのか? いろんな意味で頭ン中どうなってんだ……? と思いました。怖いです。
梨のオススメミステリー小説
世界でいちばん透きとおった物語(杉井光)
【オススメ人:梨】
「読んでいる最中に自然と手が震える」
なんて経験をしたのは、
後にも先にもこの本だけだと思います。もはや一種の爽快さすら感じるほどに、
気持ちよく叩きのめされてしまいました。素晴らしい読書体験を保証しますので、
未読の方はぜひ書店さんへ買いに行ってください。
もしくはAmazonのカートに入れてください。「電子ないのか」などと落胆している暇はありません。
今。
すぐに。
まきののオススメミステリー小説
六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成)
【オススメ人:まきの】
就活のために量産されたような六人の優秀な大学生たちが、喉から手が出るほど内定が欲しい大企業の最終面接に残ったのだが、全員で内定できると思いきや直前で一人だけ内定すると変更され、しかも最終ディスカッション中に優等生たちの「裏の顔」を暴露する告発状まで出てきてしまい、一人ずつ化けの皮が剥がれていってしまう…というミステリー。
本のおもしろランキングを席巻し、漫画化、映画化、ラジオドラマ化も果たしただけあって、めちゃめちゃおもしろい!就活のために切り取られた良い面と告発するために切り取られた悪い面が交錯し、人の印象など全く当てにならないスリリングな構成に読む手が止まらなくなりました(しかもなんか異常に読みやすい!)。
二転三転する大学生たちの疑惑に最後まで予想がつかない巧みなミスリード、最後に残された告発文のすごすぎる着地点、そしてみんな大好き鮮やか伏線回収…何も言うことはない小説の完全体でした。11月に映画も公開されるらしいです。見なきゃ!
加味條のオススメミステリー小説
黒牢城(米澤穂信)
【オススメ人:加味條】
直木賞取ってる話題書を今さら挙げてもな……と思いつつ、あまりに面白かったので紹介させてください。
舞台は戦国時代で、主人公は実在の戦国武将・荒木村重です。
……ちょっと待ってください、この時点で「歴史ものかぁ、興味ないなー」と思った方、少しでいいので話を聞いてください。
この小説、登場人物と舞台こそ歴史ものなんですが、中身は完っ全なミステリーなんです。
まず主人公の村重は、あるきっかけで上司・織田信長を裏切り、城に立てこもります。そこへ黒田官兵衛というめちゃくちゃ頭の良い男がやってきて「裏切るのやめようよ、今なら許してもらえるよ?」と説くのですが、村重は官兵衛を投獄してしまいます。
するとその後、城の中では次々に不可解な事件が起き始めます。敵に囲まれた城、というクローズドサークルで起こる謎めいた出来事……。村重は必死に推理するも、納得のいく答えにたどり着けません。
そこで彼は地下牢につないだ官兵衛を頼ります。官兵衛は「安楽椅子探偵」さながら、牢に居ながら華麗に事件を解決していき――。
「黒田官兵衛が籠城中の有岡城に幽閉されていた」という歴史的事実だけをもとに、とてつもなく上質なミステリーが練り上げられた、ミステリーファンも歴史ファンも120%楽しめる傑作です。
岡田悠のオススメミステリー小説
木挽町のあだ討ち(永井紗耶子)
【オススメ人:岡田】
江戸時代を舞台とした時代小説ミステリー。時代小説って聞き慣れない言葉が連発されたりして、正直あまり得意ではありません。この本も最初は「難しいかも…?」と思ったのですが、気づけば夢中で読み進めていました。
主人公は、2年前に起こった仇討ち事件について調べている侍。侍は事件の目撃者たちに聞き込み調査を続けるのですが、この目撃者たちが誰も彼も個性的な語りっぷりで、事件について訊かれているのに、なぜか自らの人生について滔々と語り始めます。
なぜ聞き込み調査で人生を語るのか?そもそも主人公はなぜ聞き込み調査をしているのか?というかこの主人公は誰なのか?
何もわからないまま、ただ彼らの個性的な人生語りに魅了されていると、次第にすべての証言が、ひとつの物語に収斂されていくことに気づきます。そして明かされる仇討ち事件の真相と、『木挽町のあだ討ち』というタイトルの真の意味。
この「発散してからの収斂っぷり」が見事すぎて、すげえ!!と唸りました。
ヤスミノのオススメミステリー小説
頬に哀しみを刻め(S・A・コスビー)
【オススメ人:ヤスミノ】
黒人と白人のおじいさん2人組が息子の復讐のために頑張る小説です!!!!!!!(紹介これで充分な気がするぐらいです)
ヘイトクライムなど様々な現代的かつシリアスなテーマを扱っているものの、ストーリーの骨子はわりに古風とさえいえるバイオレンス・アクション、そしてハードボイルド。
主人公はどうしようもない差別主義者でトレーラーハウスに住んでいる白人のバディ・リーと、元ギャングで前科持ちだが今では庭園管理会社の経営している黒人のアイク。この爺2人のバディもの!!これだけでもうウヒョーーーいう感じです。
『このミステリーがすごい!2024年版』の海外編1位に選ばれていますが、個人的にはミステリー部分はそんな大がかりなものでもない気がしました。ただ本格ミステリ的ばかりでも肩が凝ってしまうので、このくらいさらっとしてるのも全然悪くないですね。
おまめのオススメホラー小説
インシテミル(米澤穂信)
【オススメ人:おまめ】
今までミステリー小説をたくさん読んできたという訳ではないのですが、『インシテミル』は10回以上読むくらいお気に入りの小説です。中学校の朝読書で読む本を探していたとき、映画化の帯にいた藤原竜也に一目惚れして買いました。
時給十一万二千円のバイトに応募した十二人の男女が〈暗鬼館〉という施設に閉じ込められ、より多くの報酬を得るために殺し合い、犯人を当てるゲームに参加させられるという物語です。
報酬金額やネイティブアメリカンの人形の数、部屋番号、消灯時間、凶器の数…とさまざまな数字が出てくる場面が多く、数字が好きなので、それによりどんどん物語に入り込めるところが好きです。開催者側によって定められたルールの隙を突きながら、参加者同士で疑い合いつつ協力して推理していかなければならないという状況下で出てくる人間っぽさがかなり良いです。映画では参加者の人数が減っていたり、アクション要素が多い気がしました。小説では推理が主となっているので、映画しか知らないという方にもぜひ読んでほしいです。
かんちのオススメミステリー小説
君のクイズ(小川哲)
【オススメ人:かんち】
普段は投資本や教養本ばかり読んでいるのであまり小説は読まないのですが、この作品は一気読みしてしまいました。
きっかけは今年の春に公開された「クイズが大嫌いな男がクイズ大会で優勝を狙ってみた」という、みくのしんが嫌いなクイズに挑戦するオモコロの記事。
この記事が公開されてから、SNSのコメントでやたらこの作品のタイトルが挙げられていたので興味を持ちました。
早押しクイズの大会の最終問題で、対戦相手が問題文を聞く前に正解してしまうという衝撃的な始まりで、読み進めると真実に少しずつ近付きなら、同時にクイズが単なる知識を競う競技ではないことも教えてくれます。
普段はテレビでクイズ番組を流し見する程度でしたが、この本でクイズの奥深さやプレイヤーたちの凄さを知ることができました。オモコロの記事も面白いので、絶対読んでね!
来週も!
今週は以上!
来週は「おすすめどんでん返し・叙述トリック系小説」をお送りします。
お楽しみに!