ポルトガルのお菓子、と聞いてもパッと思いつく人は少ないかもしれない。私もそう。
一説によると、カステラや金平糖の原型となるものを16世紀ごろ日本に伝えたという話がある。私自身ポルトガルに対しての知識はほとんどないものの、この情報だけで舌に対しての親近感が湧いてくる。
東京・神田にあるドースイスピーガというポルトガル菓子専門店の名店があると聞き、早速個人的に買って食べてみた。
そりゃそうだろという感想なんだけど本当に甘〜くておいしい! 卵たっぷりでまったりと甘くて、それでいて強烈に甘すぎるわけでもなく、クセが強いわけでもなく素朴。
確かに和菓子にも通ずる魂を感じる。こんな逸材を今まで知らなかったなんて。
密度の断面を見せています
例えばこのカバッカミニョッタ(Cavaca Minhota)はカステラのような生地にレモンシロップをたっぷり浸し、上にはミルクシロップが掛かった焼き菓子。
お店で「冷やしカステラ」と教えてもらったように、冷ましてから食べるとしっとりじゅんわりとした甘さが口に広がる。
これはむっちりとしたたまごプリン。コントラストが強い!!「黄」すぎ。
初めて食べた時、このどっしりとした見た目を裏切らない味の濃厚さに心を動かされ、私はポルトガルのことを何も知らないまま勝手に好きになった。
それにしてもお菓子の名前が独特で想像がつかないものが多い。「天国のベーコン」に「ごあいさつボール」、「リス川のそよ風」…?一人では調査が追いつかない。これは緊急事態ですよ。
-後日-
編集部のオフィスに赴き、ポルトガル菓子を仕掛けた。この日はちょうど複数人のライターが編集部に集まる会があったので色々な人に食べてもらいたくて。
名前の由来や詳細はカードの裏面に伏せたまま、まずは食べてみて感想を聞くことにした。“海外菓子知らず食べ”に協力してくれる人はいるのか……。
\ガチャ/
早速第一のライターが甘い香りに誘われてやってきた。
え?これ食べていいんですか⁉️ じゃあこの名前が不思議な「リス川のそよ風」を…
リス川のそよ風(Brisas do lis)
ほぼ卵黄と砂糖とアーモンドパウダーだけで作られた素朴なお菓子。卵黄そのまま食べてるみたいな濃厚でじゅわホロとほどける食感。
ちなみに名前はリス(liz)という名前の川の近くの修道院で生まれたことに由来するらしい。そよ風だなんて、素敵なこと……
濃厚!ケーキとも違う不思議な食感!甘いのにすっと喉に消えていく掴めない感じがあって、
フィルムをループしているような味わい……
初手から食レポがエモーショナルすぎる。確かにケーキでもムースでもない不思議な食感!
予想外の感想を噛み締めているうちに続々と人が集まってきた。
この「天国のベーコン」気になります。天国にベーコンがあるとしたら、そのベーコンになった豚は天国にいないってこと?
天国のベーコン(Toucinho do Céu)
卵黄とアーモンドと小麦粉で作られたお菓子。
「リス川のそよ風」と似ているが、粉が入っているため焼き菓子らしいふんわり感がある。シナモンらしきスパイスの香りがアクセント。
あら!オシャレな味!代官山の金持ちが食ってる味がします!天国って代官山のことなのかも
僕はこの味、池袋のデパ地下な気がします
ポルトガルのお菓子をむりやり東京に代入してる
名前の由来
見た目がブロックベーコンの塊に似ているからその名がついたとも言われているが、本当にベーコンの油やラードを使うレシピもあるのだとか。
確かにベーコンが入っていたとしても不思議と合いそう!
この小さくてかわいい「ごあいさつボール」気になります
このサイズ感、あーんするのにぴったりじゃない?ねえシュゴウさん……
いや別に……
ちょうどよかった!ごあいさつボールの原文を直訳すると「ココナッツ・キス(beijinho de coco)」という名前らしいです!
ちょうどいい?
.+゜*。:゜𝒄𝒐𝒄𝒐𝒏𝒖𝒕 𝑲𝑰𝑺𝑺゜:。*゜+
クリーム系かと思ったら予想外のもちもち食感で面白い!あーんで食べる必要はない
ごあいさつボール(beijinho de coco)
練乳とココナッツを練ったソフトキャンディのようなお菓子。子供の誕生日パーティーなどで出すらしい。
日本語名はドースイスピーガのオーナーさんが名付けたのだとか。
横にある「トマールの星」ももちもちしてておいしい!卵味が濃厚だけど見た目で予感するほど甘すぎなくて食べやすいです
このパイナップルのケイジャーダ、香りがフルーティーでおいしい!これ優勝かも
マジ?!僕も食べたい!
すごいな。パイナップルの匂いが強いせいで舌に触れる前でもう美味い。
美味さが約束された匂いがしますよね。パイナップルのケイジャーダは今回のお菓子の中では珍しい果実の香りが特徴的ですね
パイナップルのケイジャーダ(queijadas de ananás)
パイナップルのチーズタルト。日本でポピュラーなチーズタルトよりチーズの味が穏やかで、全体的にふわっと柔らかい。
断面から見えるパインの繊維を見て!すごい量の果実が入ってる。かぐわしい……。
フルーティーで言えば、非加熱の生オレンジがたっぷり入った本物のオレンジケーキ(Bolo Real de Laranja)もおすすめ。見た目をいい意味で裏切るフレッシュ感
半熟カステラみたいなパォンデロー(Pão-de-ló)、卵の味が濃厚!
しっとりしてるのに喉が乾くくらい濃い!牛乳が欲しくなる〜
このキンディン(Quindim)ってお菓子、なめらかなクリームの中でココナッツの食感が際立っておいしいです
全体的にふわっとしたお菓子が多い中でココナッツのシャクシャク間が心地よい……
黄色い画面が続くので混同してしまうが、製造方法や材料が少しずつ違っており食べ比べると個性がわかって面白い。
共通して卵を使ったお菓子が多い理由として、当時ポルトガルの修道院では洗濯糊などに卵白を使用しており、余ってしまった卵黄を活用していたらしい。カスタード好きにはおすすめ!
快く紹介の許可もいただきました
このお菓子を販売しているドースイスピーガでは店員さんが丁寧にお菓子の説明をしてくれるので無知のままお邪魔しても問題なし! 朝7時から営業しているので空いている時間を狙うとゆっくり見られて吉ですよ。
小さなイートインスペースもありお菓子と共にポルトガルワインなども楽しむこともできる。白でも赤でもない緑ワインやさくらんぼ酒、気になる……。
季節ごとに旬のお菓子の入れ替わりもあり、どの季節に行っても新鮮に楽しめる。冬の焼きリンゴもおすすめです。
知らない食べ物を知らないまま食べるとより味や食感の研ぎ澄まされた感想を聞くことができる。
お菓子を食べることで遠い国のことを知るきっかけになる上に友達とも盛り上がれる“海外菓子知らず食べ”。いかがでしょうか。
解説出典:
・ポルトガル菓子図鑑お菓子の由来と作り方:ルーツは修道院。知っておきたいポルトガル菓子101選/ドゥアルテ智子 誠文堂新光社
(おしまい)