けっこう長いから、メチャ暇なときにジュースでも飲みながら読んでね!

 

〜この記事に出てくる人〜

【みくのしん】ブロス編集部員。本が苦手。もとより文字を読むのが苦手。なのに編集部員。不思議である。

【JUNERAY】この記事を書いているライター。学生時代、友達が『恋空』しか読まないギャルばかりだったので、「あいつは本を読む奴だ」とやや異端視されていた。

 

 

 

この間、岡田悠さんの記事で本屋ダンジョンしてらしたじゃないですか。

やったやった! ジュンク堂渋谷店さんでね! 楽しかったな〜あれ。

その企画の延長で、ジュンク堂池袋店さんにオモコロライターの選書棚を作っていただけることになって。
わたしも参加して、推しの本を選ばせていただいたんですよ。

 

 

見たよそれ!! 知ってる人が薦めてると、面白そうに見えてすげえなって思ってた!

わ〜かる! わたしも参加できてメチャ嬉しいです。でも一つだけ心残りがあって……

心残り?

おすすめした5冊のうち1冊はマイケル・ポーランの『欲望の植物誌』って本なんですけど、本当は同じ作者の別の本を推す予定だったんです。

!? どゆこと?

もちろん『欲望の植物誌』も意味わからんくらいに面白いんですけど、他の著作にめちゃくちゃ面白くて大好きな作品があって。
でも、「本の版元在庫がない」という理由で、売り場に出せなくなってしまい……

「版元在庫がない」って、メーカーで欠品してますみたいな意味?

そうですね。もう追加で書店さんに送れる在庫がない、みたいな。この本なんですけど

 

マイケル・ポーラン『人間は料理をする』上・下

2冊だ!!!?

上下巻に分かれてるタイプのやつです。私が買った時もすでに上巻が入手困難で、どのオンラインストアでも高騰してたので仕方なく下巻から読みました

下巻から!? 俺本って人生で2冊しか読んだことないんだけど、そんな読み方していいの?

この本はどこの章から読んでも一応大丈夫な構成になってるので、特に問題なく読めましたよ。
小説じゃないのでストーリー仕立てではなく、エッセイに近い感じです。

ていうか!!! 待って!!!!

え?

 

ここ!!!!!

 

すっげえ付箋貼ってるじゃん!!!!

 

かっこいいな〜それ!!!! 憧れる!!

いい文章があるとTwitterの「いいね」みたいに付箋貼っちゃうんですけど、この本は面白さがヤバすぎてこうなってます。

バズってんじゃん!! 本なのに!!

バズってたら版元在庫あるっしょ。
電子書籍化もされてなくて、上下読みたい人は古本で探すのが手っ取り早い状態になっちゃってるので、どんな内容かだけでもお伝えしたくて……

タイトルが『人間は料理をする』だし、料理の本なんだよね? 俺料理好きだし、実際読めるかわかんないけど教えてほしいよ。

文章読むのが苦手でも大丈夫です! いったんこのまま聞いてください!!

?? よくわかんないけど、わかった!

 

 

上巻:火と水

 

この本、上巻は「火と水」下巻は「空気と土」の全4章からできてるんです。

かっこいいね、キャラクターの属性みたいで。

まさにそんな感じで、「料理って、世界の基礎的なマテリアルと結びついてるんじゃね?」って気付きがベースなんですよね。

じゃあかっけえ話だ。

 

作者はマイケル・ポーランさんっていうアメリカのジャーナリストなんですけど、アメリカ人の料理にまつわる研究結果を見て、「どゆこと???」ってなったらしくて。

 

というのも、この本が発売された頃の調査によると、アメリカの人が料理にかける時間って平均で1日27分くらいしかないそうなんです。

27分じゃなんにもできなくない!? お味噌汁作るだけでも、ちゃんとやろうとすると30分くらいかかるよ。

そうそう。27分っていうのは、人気の料理番組の放映時間よりも短い。
つまり、アメリカ人の多くは自分で料理を作るよりも、人が料理を作っているのを観てる時間の方が長いってことになっちゃった。

テレビの料理は食えないのに……

 

それって変じゃない? と思って、各地の料理人に連絡して、料理ってそもそもなんなのかを教えてもらいに行くんですよ。
火の章では、南部のBBQマスターに肉の焼き方を教わります。

最初からめちゃくちゃ本気じゃん。

作者はジャーナリストなので、ただ肉を焼くだけじゃなくて、どうして人類は火で肉を焼くのか? って歴史も調査し始めるんです。
そうすると神話の時代まで遡って、神様への生贄として動物を焼いたのはなぜ? みたいな話が始まる。

神話まで遡るのか〜! ちょっとすでに面白そう。

 

タイトルは『人間は料理をする』なんですけど、序盤で「料理をしたから人間になったんだ」って進化論の仮説が紹介されるんです。

???

たとえば猿って、起きている時間の半分は食べ物を噛んで過ごしてるらしいんですよ。

そんなに!? ずっと噛んでんの!?

 

生の食べ物って消化するのが大変で、すっっっごい頑張って咀嚼しないと、生きていくのに十分な栄養が取れないらしいんですね。
でも、「いったん火で焼くと、ずっと噛んでなくてもイケる」って気づいた天才猿グループがいて、そいつらが人間に進化してきたんじゃないかって。

火炎使いのサルが俺たちになったってこと!?

あくまで仮説の一つなんですが、「最初に火を使い始めたのは誰なのか?」っていう考察パートがあって、それがすごく面白いんですよ。

気になるわほんと。最初の火。

有名な心理学者のフロイトの説だと、「男は火を見ると立ちションして消してたけど、あるとき立ちションを我慢できた奴がいて、そこから火を利用できるようになった」みたいなのもあるらしい。

 

……そんなわけなくない?

そんなわけない。

本読んでないけど俺にもわかる。

他にも「家が火事になったとき、焼けた家畜の肉を食べたらうまかったから、家を焼くのが流行った」みたいな民話も紹介されてます。

 

そんなわけねえだろ!!

そんなわけないと思う。でも、こんな荒唐無稽な話と、ガチの進化論の仮説と、現実の目の前のBBQの話を交互にしてくるせいで、だんだん「全部つながってる、一つの話なのか?」って気がしてくるんですよね。

それはちょっとすげえ。

神話では、神様への捧げ物として肉を焼くのは男性の仕事だったらしいんですけど、現代でもBBQは「お父さんが肉を焼く係」みたいな謎のイメージあるじゃないですか。

あるある! バーベキューの絵描いてって言ったら、お父さん描くもんな。

それって一体なんでだろね? 神話とBBQのつながりって何? って話を辿ってると、「今やってる料理って、もしかして神話の続きなんじゃないか?」みたいな気分になってきて。

おもろ……

豪勢に肉を焼くのはお父さんの仕事で、鍋でコトコト煮込んだ料理はお母さんの味、みたいな。そのイメージって遡ると古代からの話になっちゃうんだっていう。

でも、今は料理するのに男女とか無いって方向に進んでるじゃん。

そうそう、だから、私たちって料理の新世代かも。

ちょっと鳥肌立ってきたわ……新世代の代表、俺に務まるかな??

現代人の代表を務める気でいる?

 

壮大な話は火の章で終わりで、水の章は、「料理をするとき、最初に玉ねぎみじん切りにしがちなのどうして!?」って話から始まります。

え!!?

 

俺も。

??

 

それ、俺も!!!!
めっっちゃ気になってた、なんで料理って玉ねぎのみじん切りからスタートしがちなの!!???

 

その答えが書いてある!!?

書いてます! この本によると、世界各地の料理、特に煮込み料理では玉ねぎのみじん切りスタートが強い「あるある」らしくて、その理由もちゃんと考察されてました。

うわ〜めっちゃ気になる!! 玉ねぎのみじん切り、けっこう大変だから毎回やるのちょっとダルいと思ってたんだよな……

私が一言で説明するには複雑すぎるんですけど、ニンニクとかセロリとか、他の香味野菜を炒めるのもちゃんと理由があるらしいです。

神話の話は「なんかすげえ」ことしか分かんなかったけど、自分がしてる料理に関係ある話だと、急に興味湧いちゃうわ。

 

「がぜん」になってきた

「水」の章は煮込み料理の話なんですけど、伝統的なやり方の通りに3時間とか、4時間とか煮込む料理を作ってるんですよ。

煮込みって、結構時間かかるよね〜!

むしろ、現代のレシピは忙しい人たちのために「20分煮込みます」とかに短縮されてるけど、それじゃ美味しくなるはずがないって言うんですよね。

そうなんだよ!!わかる!!!
スペアリブ煮込む時とか、白いとこまで柔らかくしたいと思うと結局1時間以上かかる!! 圧力鍋も水分飛ばないから微妙なことあるし……

そうそう、長く煮込んで美味しくなるのにはちゃんと理由がある。

めちゃくちゃ分かる……俺がマイケル・ポーランだったのかな……?

 


うれしそう

レシピの短時間化もそうなんですけど、現代って別に作らなくてもご飯が食べられるじゃないですか。

買ってきたり、Uberで頼めばいいもんね。

昔は料理しない=死 だったから、食べ物を外注できるようになったのはわりと最近なんですよね。

待って。JUNERAYさんは本を読んでるから、その「最近」って数十年とか、数百年の話だよね?

あはは、そう言われればそうだ。ここ数十年のこと最近て言いました。

「最近飲みに行ったよね」の「最近」じゃないよね!? 本読む人の時間感覚やべえよ!

 

               /ガハハ\

訂正します。「ここ数十年」で自分で料理しなくてもよくなって、逆に「趣味」や「レジャー」としての料理が成立するようになったじゃないですか。

偉くなったな〜人間。でも確かに俺も、趣味:料理かも。

だから、その意味でも私たちって新世代なんですよ。数万年続いてる料理の歴史の中で、初めて「趣味:料理」が成立してる世代。

そうじゃん!! 昔は趣味っていうか、やらなきゃいけない仕事みたいな感じだったんだもんね。
俺もしかして、めちゃくちゃ最先端いってない??

そう、だからこの本の話をみくのしんさんに聞いてほしくて。

なんか嬉しくなってきたかも……料理しててよかった……。

 

 

下巻:空気と土

 

疑問に思ってたんだけど、料理でいう「空気と土」ってなんなの? 火が焼く料理、水が煮込み料理っていうのはなんとなくわかるけど……

この本で言うと、空気も土も、微生物の話ですね。空気はパン、土はビールやチーズの話をしてます。

 

ちょっと変なこと言うようなんですけど、みくのしんさんって「1人」だと思ってるじゃないですか。孤独とかそういう意味じゃなくて、1つの生物として。

そうじゃない? 俺は1人しかいないと思う。

ちょっとこの文を読んでほしくて。

 

 

体の中にいる細菌の細胞の数は、自分の体の細胞の数より多いということを、あなた方はご存じだろうか。それも、10倍も! つまり、わたしたちが持ち歩いているDNAの大半は、人間のものではなく、微生物のものなのだ。

『人間は料理をする 下 空気と土』2018年1月19日第三刷 マイケル・ポーラン著、野中香方子訳、NTT出版 p.118より

 

どゆこと……?  俺、蟻塚ってこと?

 

みくのしん(蟻塚)

ややそう。人間って、自分が1人の人間だと思ってるけど、実際は人1人+微生物100兆以上のチームらしいんですよ。

兆!!? 俺ってチームだったんだ!!

そうそう! みくのしんさんも、私も本当はいろんな生き物が共存してる超個体で、微生物を運ぶための入れ物にすぎないのかもしれないって話です。

うすうす気付いてはいたけど、やっぱそうなんだ。でもまさか、「箱」だったとはね……。

 

「一回締め直さないとな〜このチーム!今まで、ちゃんと気付いてやれてなかったから。」

いま気合い入れるために手をギュッとしたのだって、チームの何人か殺しちゃってる可能性あるってことだよね? 不安になってきた。俺ってなに? そもそも、俺はチームのみんなを養えてるのかな? 衣食住は大丈夫?

微生物の衣食住を気にかけてあげる人、優しっ。みくのしんさん自身が健康体なら大丈夫だと思いますよ。

 

よかった……!!

料理の本で、微生物が出てくるってことは、発酵食品の話なの?

そうですそうです! たとえばパンも発酵食品なんですけど、一番最初に発明されたシンプルなパンって、「小麦粉、水、塩」の3つだけでできてるんですよ。

小麦粉と……それってうどんじゃない?

 

鋭い! うどんとパンの違いは何かって話、ほぼ本題かも。パンってふわふわじゃないですか。

ふわふわだね。

あのふわふわどこから来るかっていうと、「空気」なんですよね。

ほんとじゃん!!! パンとうどんの違いって空気だ!!!

パンを膨らませる酵母菌って、空気中にいっぱいいるから、食べかけの麦粥を放っておいたら勝手に泡立ってたはずなんです。それを焼いたらパンになった。
食べ物が膨らむと増えたように見えるから、昔の人は「神様が不思議な力で食べ物を増やしてくれた」と思ったはず。

神様に対する信仰心すごいな!「ちょっと皺寄せ神様に行きすぎじゃないかな」って疑問に思わないのかな。

 

酵母菌って、お酒を作ってくれる菌でもあるんですよ。だからブドウを絞って放っておくとワインになっちゃう。

放っておくだけでワインになるの!? 腐っちゃわない? ていうか腐るのと発酵するのの違いってなに……?

微生物が食べ物の成分を変換して、人間が食べられなくなったものを腐敗、美味しくなったら発酵って呼ぶのが一般的ですね。

そっか。人間が勝手に呼んでるだけだ。

ワインについては、そのへんで獲れる果物を放っておいたら、「飲むと精神の状態が変わる」飲み物ができちゃったわけじゃないですか。

あー!! アルコールでね!

これも昔の人たちは菌のこととか、アルコールのこととか知らないから、「神様がくれた飲み物」って思う。

これは確かに神様感強いな〜!! 否めないかも!!

アルコールは身体に悪いものだけど、昔の人にとっては神聖な飲み物でもあったわけですよね。
メチャかっこよくて大好きな一文があるんですけど、ちょっとここ読んでみてください。

 

 

その一方で、アルコールは、飲みすぎると攻撃的になったり、反社会的行動に走ったりしがちなので、多くの文化圏で厳しく規制されている。とは言え、矛盾しているように思えるかもしれないが、アルコールはそのようなルールを必要とするからこそ、人間の社会化に貢献したのだ。

この矛盾は、アルコールの影響をひとくくりにすることの難しさを示している。アルコールについてあなたの言うことはたいてい正しいが、それと逆のことを言っても間違いではないのだ。

『人間は料理をする 下 空気と土』2018年1月19日第三刷 マイケル・ポーラン著、野中香方子訳、NTT出版 p.228より

 

ええ! いいねぇ〜! これは響くかも!

言ってることもそうだけど、言い回しがかっこよすぎる。

 

なるほどね、アルコールにはどっちもあるってことか。良いことと悪いことの裏表が。

ふだん酒の記事を書いてると、「酒は身体に悪いから飲まない方がいい」って言われることがあるんですよ。そういうとき、この一文を思い出します。私も正しいし、酒を遠ざける人も間違ってない。

これはすごい。ちょっと感動するし、なんかジョジョっぽいかっこよさがある。

わかる、この本かなりジョジョだと思う。

 

 

めっちゃ気になるし面白そうなんだけど、やっぱ2冊読むのはキツイかも……!

そう思って。みくのしんさんにいいお知らせがあります。

えっ! 何!

この本、書籍自体はかなり品薄なんですけど、映像化されてます!

 

えっっ。

 

マジ!!!????

マジ!!

 

やった〜〜〜!!!!!!!! 映像なら俺、観られる!!!

しかもNetflixオリジナルで!!

 

じゃあめっちゃ金かかってんじゃん!!

『COOKED 人間は料理をする』ってタイトルで、原作と同じ4部構成です! 映像メチャきれいですよ!!

 

じゃあ完璧じゃん!!!

 

ちょっと座り直してもい!?

 

ッシャ!!!!!

そんな喜んでもらえるなんて。

本だとさあ、どんな風景のところなのかとか、景色を想像しながら読まなきゃいけないから疲れちゃうんだけど、映像は俺大好きよ!! 映画も好き!!

作者のマイケル・ポーラン自身が出演してるし、ドキュメンタリー映画みたいな演出なので気軽に観やすいと思います。
ちょいちょい挟まる海外の食卓の映像とか、畑の景色とかもすっごい良いから是非観てほしい!

 


 

 

書籍『人間は料理をする』は、残念ながら(特に上巻が)入手しづらく、中古でも高値がついてしまっているのですが、下巻から読んでも問題なく面白いので気になる方はぜひ!

内容もさることながら、文章がいちいちかっこよくて「一生のうちにこんな文章を書きたいぜ……」と唸らされるくらい良いので、もし本屋さんで見かけたら手に取ってみてください。

筆者は電子版も待望しています。

 


5月9日追記:

NTT出版さんにご連絡いただきました。
なんと『人間は料理をする』は重版される(在庫が復活する)そうです!!!!やったー!!!!!!!!!!!下巻はいまも在庫あるって!!!!!!!やったやったやったーーー!!!!!!
買えるようになったらみんな読んでみてね!!!!!図書館で借りるのもアリ!!!!!!!!

 

 

うれしっっ