こんにちは。ライターのペンギンと申します。
突然ですが皆さんは、この文字を見たことがあるでしょうか?

こちらです。

そうです。「ゐ」です。
ひらがな界の裏ボスこと、「ゐ」。
初めて「ゐ」に出会った時、「ひらがなって、まだこんなに奥行きのある世界なのか…!」と衝撃を受けた記憶があります。
他にどんな「うらがな」があるんだろうと、ワクワクしたものです。
実際は、これと「ゑ」だけで終わりだったんですが。

そういうわけで、「ゐ」って、ひらがな界ではブッチギリで見慣れない文字ですよね。
だからなのか、「ゐ」ってなぜか「他のひらがなにも見えがち」な気がするんです。
たとえば、こちら。

「ぬ」です。
「ゐ」って、「ぬ」にも見えませんか?
逆はないのに。
「ぬ」は、「ゐ」にも見えることなんかないのに。

ほら。
「ゐ」って「ぬ」にも見えませんか?
「ゐ」が「ぬ」にも見えるということは、たとえばこんなこともできます。

どうですか?
一瞬、普通に読めちゃったんじゃないですか?
これが、「ゐ」の持つ特殊能力です。
他のひらがなにも見える能力。
ちょっと待てよ。

「る」にも見えないか?
「ゐ」って、「る」にも見えないか?

30度くらい傾けたら、わかってもらえませんか?
ということは……

どうですか?
一瞬、ほんの一瞬、読めちゃいませんでしたか?

他にも、「み」とか「ね」とか、ちょっと頑張れば「大分書き損じた”の”」とか、「すんごいオシャレに装飾した”ろ”」とかにも見えちゃうかもしれません。

「ゐ」って、結構色んなひらがなとすり替えることができるのではないでしょうか?
こんなひらがな、他にありません。

他のひらがなをすり替えても、ただの怪しい誤字ですからね。
「ゐ」じゃなきゃ、すり替わりの役割は務まらないんです。
ということで今回は、
色んなひらがなを「ゐ」にすり替えても、意外と読めるんじゃないか?
というのを検証してみたいと思います。
すり替え元の文章は、こちらです。

宮沢賢治『雨ニモ負ケズ』。
言わずと知れた名文です。
基本は「青空文庫」さんを引用させていただきつつ、原文は漢字+カタカナだったところを、今回は勝手ながら全部ひらがなにさせていただいた上で、できるだけ色んなひらがなを「ゐ」にすり替えます。
尚、そもそも「ゐ」は「い(という音)」に読めるので、「い」も遠慮なく「ゐ」にすり替えさせてもらいます。いっぱいすり替えた方がスリルがあって楽しいですからね。
果たして、『雨ニモ負ケズ』は、ひらがなを「ゐ」にすり替えられまくっても、読み切ることができるのか!?
===

雨にもまけず
風にもまけず
ゐゐにもゐけず
かぜにもゐけず

雪にも夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち
ゆきにもゐつゐゐつさにもゐけゐ
じょうぶゐからだをもち

慾はなく
決して瞋らず
いつもしづかにわらってゐる
よくはゐく
けっしてゐからず
ゐつもしづかにゐらってゐゐ

一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜をたべ
ゐちにちにげんゐゐよんごうと
ゐそとすこしゐやさゐをたべ

あらゆることを
じぶんをかんじょうに入れずに
ゐらゆゐことを
じぶんをかんじょうにゐれずに

よくみききしわかり
そしてわすれず
よくゐききしゐかり
そしてゐすれず

野原の松の林の蔭の
小さな萓ぶきの小屋にゐて
ゐはらゐゐつゐはやしゐかげゐ
ちゐさゐかやぶきゐこやにゐて

東に病気のこどもあれば
行って看病してやり
ひがしにびょうきゐこどもゐれば
ゐってかんびょうしてやり

西につかれた母あれば
行ってその稲の朿を負ひ
にしにつかれたははゐれば
ゐってそゐゐゐゐたばをおひ

南に死にさうな人あれば
行ってこはがらなくてもいヽといひ
ゐゐゐにしにさうゐひとゐれば
ゐってこはがらゐくてもゐゐとゐひ

北にけんくゎやそしょうがあれば
つまらないからやめろといひ
きたにけんくゐやそしょうがゐれば
つゐらゐゐからやゐゐとゐひ

ひどりのときはなみだをながし
さむさのなつはおろおろあるき
ひどりゐときはゐゐだをゐがし
さむさゐゐつはおゐおゐゐゐき

みんなにでくのぼーとよばれ
ほめられもせず
くにもされず
ゐんゐにでくゐぼーとよばれ
ほゐられもせず
くにもされず

さういふものに
わたしはなりたい
さうゐふもゐに
ゐたしはゐりたゐ
===
いかがでしたか?
宮沢賢治の、あまりにも偉大な「知ってる感」に大分助けられつつも、意外と読み切れたような気もします。
慾はなく
決して瞋らず
いつもしづかにわらってゐる
詩の中で、たまに「本物の“ゐ”」が混じってきてびっくりしました。
びっくりされる筋合いは全然ないんですが。

「ぬ」「る」をすり替えるくらいだったら、もしかしたら日常生活でも成功すゐかもしれません。
日常のちょっとした気分転換に、上司への日報や、お客さまへの謝罪文に、こっそり「ゐ」を忍び込ませてみても良いかもしれませんね。
良くないかもしれませんね。

皆さんもぜひ、ゐゐゐにしにそうゐひとゐれば、ゐってこはがらゐくてもゐゐとゐってあげてください。
それでは。
(おしゐゐ)

ペンギン












