


「今日はまっすぐ帰るのか?」

「なんだ、先生かよ」

「あんた野球部の顧問だろ。今年赴任してきたばかりなのに、自分の部活見てなくていいのかよ」
「みんなのことなら大丈夫だ。甲子園優勝を目指して今日も一致団結して練習に励んでいる」

「それよりもお前はどうなんだ」
「どうって、いったいなんの話だよ」

「知ってるぞ。お前、学校が終わったあとも野球部が練習してるとこよく眺めてるだろ。校庭から見えてたぞ」
「・・・・・」

「部活には入ってないんだろ。よかったらやってみないか」

「”ほくろマインスイーパ”を・・・」

「ほ、”ほくろマインスイーパ”を・・・?」

「待ってくれよ先生、なんだよほくろマインスイーパって。野球部の顧問なんだから勧誘するならふつう野球部だろ」

「わかったわかった。じゃあいちから説明しよう」
「まずマインスイーパは知ってるな?ソニックバトルでナックルズのシナリオをクリアするとミニゲームで遊べるようになるあれだ」
「なんでわざわざマイナーな入口から言うんだよ」

「ルールは簡単だ。通常のマインスイーパは1人でプレイするがこのほくろマインスイーパは2人で行う対戦競技となっている」

「最初にプレイヤーは〈フォーカード〉と呼ばれる4人の立会人のもとで先攻後攻を決めるんだ。ちなみに立会人にはそれぞれ“アレキサンダー”、“ダビデ”、“カール”、“ユリウス”という個別の名前があって、これはトランプのキングのモデルになったとされる4人の王たちに由来しているぞ」
「なんだか仰々しいな」
「フォーカードの見てる前でジャンケンして勝ったほうが先攻だ」
「じゃあフォーカード別にいなくていいだろ」

「続いて、先攻になったプレイヤーは〈刀匠〉と呼ばれる油性ペンを渡す役の人から油性ペンをもらうんだ」
「なんだ油性ペンを渡す役の人って。わざわざ人からもらわなくても最初から用意しておくんじゃダメなのか?」
「ダメだ」

「たまにペンのインクが出ないことがあるが、そのときは控えとして〈刀匠の弟子〉がいるからその弟子から替えのペンをもらうといいぞ」
「刀匠がペンを2本持っとくんじゃダメなのか?」
「ダメだ」

「先攻側はペンを受け取ったら相手に見えないように自分の体のどこか一か所に“マイン”、偽のほくろを描く。これで先攻側がやることは終わりだ」

「今度は後攻側のプレイヤーが先攻側の体をくまなく観察して、偽のほくろを見つけるんだ。そしてどれが偽のほくろかアタリをつけたら〈ジャッジ〉を呼ぶ。するとジャッジが3人来てそのほくろにアルコールスプレーをかける」
「世界観があるっぽいけどいまいちその世界観がつかめないんだよな」

「ほくろが消えたら後攻側のポイント、消えなかったら先攻側のポイントだ」
「とまあ簡単に説明したが、これがほくろマインスイーパというスポーツだ」

「どうだ、ルールを聞いてみた感想は」
「体にほくろを描いたり消したりしてポイントが発生するっていうそもそもの構造が気色悪いよ」
「あと、やってることはすごくくだらないのにちょっとした神事くらいの人数が関わってるのも嫌だな」
「いや、人数にもちゃんと意味はあるんだ」
「たとえばアルコールスプレーの噴射は3人のジャッジが同時に行うんだが本物のアルコールスプレーを持ってるのはその中の1人だけで、どのジャッジが偽ほくろを消したのかはわからないようになっているんだ」
「なんで死刑執行と同じシステムなんだよ」

「まあわかんないことがあったらなんでも聞くといい。こう見えて先生、前回の世界大会優勝してるから」
「やらないからいいよ。ていうか世界大会あるのかよ。おれなんか誘わずに二連覇目指せばいいじゃん」
「いやこれがそう簡単な話じゃないんだ」

「競技の特性上、試合回数が増えるほど本来のほくろの位置を他のプレイヤーに覚えられて偽ほくろが見破られやすくなるから、勝てば勝つほど不利になるんだ」
「逆にデータのない新人ほど有利になるんだが、そしたらちょうどいいところに暇そうにしてるやつがいるだろう。それで来月の世界大会に向けて日本勢期待の新星としてお前に声をかけたわけだ」
「部活に入らないことがまさかこんなかたちで仇になるとは・・・」

「とにかく、おれはそんなの絶対やらねえからな」
「そうか、まあ無理には誘うまい。毎日時間を持て余すよりはいいんじゃないかと思ったんだがな」

「ところで、お前中学のときは野球部だったそうじゃないか。いまのうちのエースとバッテリーを組んでたって聞いたぞ。どうしてやめたんだ」
「先生には関係ないだろ」

「エースが気にしてたぞ。お前が練習を眺めてたのもあいつが最初に見つけたんだ」
「よかったらやめた理由を聞かせてくれないか」

「・・・中学のとき、大会の決勝でさ、相手のピッチャーは見るからに疲弊してて、もはや打ちごろの球しか投げられないような状態だったんだ。だけど最終回、逆転のチャンスだったのにおれはプレッシャーに負けて三振、そのままチームは負けてしまったんだ」
「その日以来、打席に立っても思うようなスイングができなくなってしまったんだ。まあ俗に言う

「イップスだ?」
「そう、イップスだ。あんま遮って言うなよそんなこと」

「ともかくおれはバットが振れないんだ!そんなやつがチームにいても迷惑なだけだよ!」
「この・・馬鹿野郎!」

ボゴォ
「ぐうっ!」

「野球に未練たらたらのくせして、いつまでも煮え切らない態度とりやがって」
「ここで決めるんだ。野球をやるのか、ほくろマインスイーパをやるのか」
「バットで殴られたこともだけどほくろマインスイーパの択がまだ生きてるのも戦慄するな」
「だけど沁みたよ、先生のフルスイング」

「先生!おれやっぱり野球がやりてえよ!野球が好きだ!」
「まったく、ようやく本心を話したな」

「手荒な真似をして悪かったな。実は、お前の本当の気持ちが聞きたいからってあいつに頼まれてたんだよ」
「あいつ・・・?」

「フォーミュラ大納言だ」
「全然知らない人だ」
「それじゃさっそく明日の練習から参加するように」


「あー、今日の練習も疲れたな」

「ブランクあってきついけど、だけどなんだか前よりも日々が充実してる気がするな」
「これもあの先生のおかげかな・・。変な先生だけど」

「おっ、練習はもう終わったのか?」
「あっ、先生。なんで今日部活こなかったんだよ。大会も近いのに顧問がそんな体たらくでいいのかよ」

「すまんすまん、ちょっと外せない用事があってな」
「連覇してんじゃん」


ありふれた平凡なドラマティック

りきすい


酉ガラ







