誰がどう見ても轟雷神の胸の装甲だが実はこれは意思を持った人間である。

これより綴られるのは彼がこうなるまでの回顧録だ。

 

 

 

 

 

 

皆さん、こんにちは。ありふれた平凡なドラマティックです。

 

フルーツ片手に登場したもんだから海外セレブだと思ったでしょう。

 

その思い込み、危険(デンジャー)だぜ。

 

皆さん他人を信用しやすいピュアな人ばかり。
しかしその無垢さは皆さんの長所である反面、弱点にもなり得ます。

 

世の中には他人を騙して食い物にしようという悪い人間がいますからね。今日はこの場を通じて皆さんに生きるための知恵を授けたいと思います。

 

というわけで、今日はこの100円のりんごを1000円で売る方法を皆さんに伝授しようと思いますので、興味のある方は下記リンクを

 

(ピンポーン)

 

なんだぁ?これからってときに。

 

すいません、ちょっとだけ席を外しますね。

 

 

荷物が届いてました。でも最近何か注文したっけ?

 

 

 

なんだこれ。

 

 

どうやら懸賞で当たった景品みたいですね。
マニュアルが入ってたので読んでみましょう。

 

なるほど、マニュアルによるとどうやらこれは「5倍トンネル」というものらしいです。その名の通り、中に入れたものが5倍の価値になって出てくるようですね。これはすごい!

 

抽選の結果僕が当選したようですが何の懸賞か記載がありませんね。最後に応募したのってパンのシール集めるやつなんですけどこんな景品ありましたっけ?ふつう食器とかじゃない?

 

とはいえせっかくこんな素敵なものが届いたのですから、使わない手はないですね。さっそく試してみましょう!

 

 

 

 

それでは手始めにこのりんごを入れてみましょう。

 

このりんごはだいたい100円で購入したものですから、その5倍というと500円くらいのりんごになるはずです。りんごでそれくらいの値段となるとこれはまあまあのランクアップが期待できますね。

 

いざ投入!

は!?

 

 

 

モエヤンのサイン入りのハルバードが出てきました。なんで?

 

美味しくなったりんごが出てくるはずでは・・

 

そうか!

 

このトンネルはあくまで5倍の価値のものが出てくるのであって、入れたものが5倍の価値になるわけじゃないんですね。

 

ということは、最初に入れたりんごのちょうど5倍の価値にあたるのがこのモエヤンのサイン入りハルバード、略してモエバードだったのでしょう。

 

芸能人のサインとして見てもハルバードとして見ても500円はちょっと安すぎる気もしますが、ひょっとしたらりんごの方が100円以上の価値があったのかもしれません。

 

ひとまず、このトンネルがただのトンネルではないことは確認できたのでどんどん使っていきましょう。

次に入れるのはさっき出てきたモエバードにします。こんなんあってもしょうがないから。

 

仮にモエバードが500円くらいの価値だとすると今度は2500円くらいのものが出てくることになります。なかなかいい金額ですね。

 

では、さらばモエバード!

ちょっと。

 

たしかに5倍になってるけどそういうことじゃないだろ。

どんどん処分に困ってますが、いま増えた分をまたトンネルに入れてしまうと今度は25本に増えそうなのでここは一度踏みとどまった方が良さそうですね。

もしかしたらりんごを5倍にした時点で変なループに入っちゃってたのかもしれません。

 

ここは流れを変えるためシンプルに一万円を投入・・・

 

くそっ手詰まりだ!

 

さっきまで僕の手元にはりんごと一万円があったのに、

気づけばトンチキなハルバードが6本もあるじゃないか。

 

しかし、どうにもおかしいですね。

 

何度か使ってみましたが、これはどう考えても5倍トンネルなんかではなくモエヤンのサイン入りハルバード製造機です。

 

それを5倍トンネルと偽り、懸賞の景品と銘打って他人の家に送りつけるというのはどういった目的があるのでしょうか。

 

さっきの箱に送り主の住所が載ってたので直接問いただしに行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたですね。5倍トンネル、いや、モエバード製造機をばらまいているのは」

 

「いかにも。その様子だとあなたもすでにモエバードを造られたようですね」

 

「いったい何が目的でこんなことをしているんですか?」

 

「簡単なことですよ。私はね、モエヤンを再び頂点に輝かせたいんですよ」

 

「何を隠そう私はモエヤンのファンでしてね。かつてモエヤンがエンタメ業界の頂点に君臨していたことはあなたもよくご存じでしょう。
しかし、ある事情から伝家の宝刀ともいえるギャグ『ヌーブラヤッホー』が使えなくなり、やがてモエヤンはテレビの表舞台から姿を消し、ついにはコンビを解散してしまいました」

 

「私はそれがとんでもなく惜しかった。モエヤンにはもっと輝いてほしかった」

 

「そこで私は思いついたんです」

 

「ヌーブラヤッホーに代わる新ギャグがあればモエヤンはまた翔べるのではないか、と」

 

「そして私はモエヤンのサイン入りハルバード製造機をつくりました。これを日本中にばらまき、人々がモエヤンのサイン入りハルバードを製造することで必然、モエヤン、そしてハルバードの認知度が上がっていきます」

 

「そして日本中の人にモエヤン=ハルバードという認識が浸透したとき、モエヤンはテレビに出てネタを披露するのです」

 

『ヤッホーヤッホッホー、ハルバードヤッホー』と・・・」

 

「そのとき世間にはモエヤンのサイン入りハルバードが溢れかえっています。多くの人がサインを持っているということは人気芸人である証左。つまり逆説的にモエヤンは超人気芸人となるという寸法です。これが私の目的、そして悲願です」

 

 

「あなたは間違っている!あなたがしているのはモエヤンに自分の理想を押しつけているだけだ!」

 

「なんだと?私はモエヤンのためを思って」

 

「では聞きますが、ヌーブラを貼り付けた全身タイツに身を包んで『ヤッホーヤッホッホー、ヌーブラヤッホー』と軽快に歌うというギャグを思いつき、しかもそれを持ちネタにするような人達が他人の敷いたレールの上を素直に走ると思いますか!?」

 

「はっ!・・・たしかに、あんな今でも当時でもギリギリのギャグ、常人には思いつかないし実行もできない。それをやってのける飢えた狼を彷彿とさせる野生と感性。それがモエヤンだ」

 

「あのアナーキーさこそあなたが見た光です。それを覆い隠してしまっては、真にモエヤンのことを思っているとは言えないんじゃないでしょうか」

 

「くっ、うう!私は間違っていた・・・!」

 

「おとなしく自首することを勧めますよ。腕のいい弁護士を雇えば執行猶予くらいはつくんじゃないですか」

 

 

「おっと、そいつの身柄をこちらに引き渡してもらおうか。彼は優秀な部下なんだ」

 

 

「ボ、ボス!」

 

 

「こいつのボスだって!?じゃあ貴様ら組織でこんなことしてるのか!」

 

 

「その通り。我々は倒幕以降、モエヤンを輝かすために常にこの国の歴史の陰で暗躍し続けてきたのだ。その根は深く張られ、君らが想像する以上に君らの日常生活は我が組織の手中にある」

 

 

「例えば君は電車に乗るときに交通系ICカードを使うことがあるだろう。そのカードは何の素材でできているか知っているか?実はこの国で使われている全ての交通系ICカードはモエバードが原料となってつくられているのだよ」

 

 

「と、ということは、改札を通るときに頭の中で『ヤッホーヤッホッホー、交通系ICカードヤッホー』と唱えれば普段よりも勢いよく改札が開くということか!!?」

 

 

「その通り」

 

 

「なんてことだ、こうしちゃいられない。早く家に帰って陰謀論スレに書き込まないと」

 

 

「それは難しいな。私がなぜいまこうして君に組織の秘密を明かしているか考えてみてくれ。これから君は歴史から抹消されるのだよ」

 

 

「くっまずい、逃げなければ!!」

 

 

「逃がすな追ええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

「了解しましたボス!!」

 

 

「まさかこんなことになるなんて~~~!」

 

 

彼は逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。

そしてあるとき逃げるだけではいけないと思い、追手の目を欺くために轟雷神の装甲に擬態することにした。

 

 

彼には二つの選択肢がある。

擬態を解いてまた逃げ続けるか。

轟雷神の装甲として悠久の時を生きながらえるか。

幸い、まだ悩む時間は多分にある。

この記事を読まれている読者の諸兄も彼がどうすればいいか一緒に考えてみてはどうだろうか。