その謎を、ずっと抱えたまま子供の頃から今日まで生きてきたのだけど、ついに僕は、謎を解いた。分かってしまえば当たり前のことで、それはあっけない程簡単な答えだった。でも世界には、それに気づかないまま生きている人もたくさんいる。世界はそれを知ってるサイドと、知らないサイドに二分されていて、その間には明確な線引きがされている。
謎というのは、背中の数字のことだ。
僕は無類の野球好きで、野球の試合をよく見るから知ってるのだけど、野球選手の背中には、だいたい数字が書かれている。「 3 」 とか 「 5 」 とか 「 55 」 とか、書いてある。
普通は、選手の背中なんか見ないだろうから、そのこと自体知らない人も多いかもしれない。僕だって、最初は知らなかった。
むかしは僕も、他の普通レベルの野球ファンの人達と同じように、試合中はだいたい全く別のことを考えながら、うわの空で野球を見ていた。だいたいサッカーのことを考えながら見ていたが、巨大化した自分が自衛隊の戦闘機に射撃されるシーンを夢想しながら見ることも多かった。
そんな風にうわの空で野球を見てたから、選手の背中の数字に気がつかなかったのだろう。でもある時(確か小四の時だった)、気づいた。試合に出ている選手全員の背中に数字が書いてあるのだ。「 3 」 とか 「 5 」 とか 「 55 」 とか。
その数字が一体何を意味するのか、それから今日に至るまでの長い間、僕はずっと考え続けてきた。その長い間には、色んなことがあった。家の前を流れるどぶ川は、市民団体の活動の成果で水環境が改善され、今では時折カワセミの姿を見かけるようになった。国道沿いには大きなショッピングモールが建ち、シャッターを降ろす店が商店街に増えた。当時まだ3歳で、保育園に通っていた妹は、今では立派なネットアイドルになっている。そうした世の移ろいを横目で見やりつつ、僕はずっと考え続けた。いったいあの数字は何を意味しているのか。
そして今日、その謎が解けた。答えは突如天啓のように降りてきた。
選手の背中に書かれた数字。それは、その選手が着ているユニフォームの 「 生地の薄さ 」 を示しているのだ。だから、「 3 」 の人は、かなり薄いのを着ているし、「 5 」の人はやや薄手のやつを着てるし、「 55 」の人は相当ぶ厚いのを着てるということになる。「 55 」の人はきっと、寒がりなんだろう。冬は家に閉じこもってインターネットばかりやってる奴なのかもしれない。
ともかく謎は解けた。僕は世界を二分する境界線をまたいで、この数字の謎の答えを知らないサイドから、知ってるサイドに、今日やった来た。しかし、知ってるサイドの世界の中には、さらに別の線引きがされていて、昨日の夜、何を食べたか覚えてるサイドと、覚えてないサイドに分かれていた。残念なことに、今僕が立ってるこの場所は、昨日の夜何を食べたか覚えてないサイドである。
餅ではなかった、ということだけは、確かなのだが。