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ある朝、わたしは、まだ誰も登ったことがないという、その村でいちばん高い木に、登る決意をした。

 

村のみんなにそのことを話すと、誰もが、そんなことは無理に決まっている、登れるわけない、やめておけ、と言った。でもわたしは決意を変えなかった。わたしは子供の頃から運動も勉強もたいして得意じゃなかったけど、木登りだけは他の誰よりも得意だったので(魚をさばくのもかなり得意だったが)、自分になら絶対に登れるという自信があったのだ。

 

家族にも話してみたが、やはり、そんな大それたことがお前にできるわけがない、やめておけ、と言われた。それでも、わたしの決意は揺るがなかった。わたしは、みんなの反対をおしきって家を飛び出し、村でいちばん高い木がある場所へ走っていった。

 

そしてわたしは、村のみんなに見守られながら、木に登っていった。登りながらわたしは思った。確かにわたしには、例えば歌が上手いとか、踊りが上手とか、そういった他の人と比べて特に秀でた才は何もない。でも木登りだけは、それだけは、他の誰よりも得意なんだ(魚をさばくのも相当得意なのだが)。そのことを、今、証明してみせる、と。

 

そうしてわたしは、するすると慣れた身のこなしで、真ん中あたりの高さまで、調子よく、登っていった。しかし、真ん中を過ぎたあたりから先に進むにつれ、徐々に疲れを感じはじめ、お腹もすいてきて、家にすごく帰りたくなってきてしまった。家に帰って通販番組を観るともなく観つつ適当にインターネットをしたりしたいと思ってしまった。

 

でも、途中で諦めて木から降りたら、それこそ村の笑いものになると思い、がんばって、歯を食いしばって登りつづけて、とうとうてっぺんに辿り着いた。

 

てっぺんからは村全体が一望して見渡せた。その向こうに山々の稜線が見えた。空気は澄んでいて、手を延ばせば雲が掴めそうだった。真下を見ると、村のみんなが、手を振ってるのが見えた。みんなとてもちっぽけに見えた。まるで小エビのようだった。

 

そんな小エビみたいなみんなを見ていたら、なんだか急に色んなことが馬鹿らしくなってきたので、わたしは木から降りて家に帰って、勉強して、勉強して、勉強して、そしてMBAの資格をとった。