昔、同棲していた彼はやきもち焼きだった。一方、私は彼のやきもちスイッチの入るタイミングがずっと分からずにいた。
私が外出中に彼からの電話に出ないでいると「どこで何をしてるんだ!」 と怒られた。これは申し訳なかったと思う。すみません。
私が仕事に出かける際、気分転換にいつもと別のルートを歩いていくと、家の窓から覗いていた彼に「仕事に行くふりしてどこに行くんだ!」と怒れた。気まぐれで道を変えるもんじゃないな。すみません。
私がうっかり家に携帯を忘れたまま出勤した日は大変だった。
「家に携帯を置いていくなんて、俺に携帯を見せて身の潔白を証明しようとしてるのか? 逆にやましいことがあるんじゃないか?!」
と怒られた。逆に?! と思ったが謝った。すみません。
とにかく彼は常に怪しんでいる様子だった。
当時はまだ携帯にロックをかけるのは一般的ではなかったが、怪しむ彼を警戒した私は、携帯にロックをかけた。ただ、自分がパスワードを忘れてしまいそうだったので、生年月日をパスワードに設定していた。それがいけなかった。
私が寝てる間にロックは解除され、メールを見られた。
でも大丈夫。そんなこともあろうかと、バイト仲間(異性)からの業務連絡みたいなメールなんかも消しておいた。
ところが携帯を見た彼がひと言。
「メールの最大保存数300件なのに、なんで280件しかないの?」
冷や汗が止まらなかった。私は消してしまったのだ。潔白である証拠を自らの手で!
疑いは募る一方だ。やましいことは一切していないのに、追い詰められてしまった。
これ以上、携帯を見られるわけにはいかない。私はバレなさそうな数列をパスワードに設定し直して、夜はパジャマのポケットに携帯を入れて眠った。鉄壁のガードだ。
朝起きると、携帯のロックは解除され閲覧も終わっていた。執念がすごい。
ついに私は言った。勝手に携帯を見るのをやめてほしい、と。
すると彼は申し訳なさそうな顔をしながら、心配がいきすぎてしまったこと、携帯のロックを解除するのに私のパジャマからそっと携帯を抜き取り、0000から順番に数字を入力して夜を明かしたことを告白した。執念が本当にすごいな!
そのやりとりを3日連続でやった。どんなにパスワードを変えても、携帯を抱きかかえて寝ても、抜かれた。もうなんか怪盗の域だと思った。
最後のほうは「このパスワードは何の数字なんだ、バイト先の〇〇君の誕生日か? 電話番号か?」と、とうとうパスワードの成り立ちにまで疑いをかけてきた。
私はぐっと口をつぐんだ。言えなかった。それを見て憤った彼が畳を殴った。
こわい! 恐怖で涙が浮かぶ。でも言うわけにいかない。
私は自分のバイト先の金庫の番号をパスワードにしていた。
それを教えたら彼は金庫を破ったことになってしまう。本物の怪盗になってしまう。
その後すぐに別れた。金庫は守られた。