16歳の頃、生まれて初めてバンドを組んだ。担当はベースだ。

 

 バンド活動の中でも特に楽しかったのはなんといってもライブだ。しかしライブを開催するには会場との打ち合わせや対バン集めなど面倒臭い工程がたくさんある。何より十代の財布にはかなり厳しいお金がかかる。よってライブは頻繁にはできなかった。「ライブしてえな~」と思いながら練習スタジオを兼ねた楽器屋に入り浸る日々を過ごしていた。

 

 そんな日々の中、俺は同じ楽器屋によく顔を出すおっさんと知り合った。おっさんはギターが上手くてデブだった。きっかけは忘れたが、俺はこのおっさんと仲良くなった。

 ある日、練習のために楽器屋に行くとおっさんから声をかけられた。

 

「地域の夏祭りでライブをやるバンドを探している。お前らもやらないか」

 

 という話だった。金はないけどライブがしたい学生バンドにとってこんなに良い話はない。二つ返事でOKした。持つべきものはギターが上手くてデブのおっさんの知り合いだ。そういうわけでめちゃめちゃ練習した。

 

 本番前日、リハーサル。田舎の夏祭りにしてはステージは広く、音響機材も思ったより整っていた。体験したことがないほどの大きな音を出すことができた。明日は祭りの客が沢山いる前でこの音を出せるんだと思うと胸が高鳴った。

 

 

 

 良い感じでしょ、ここまで。良い思い出っぽいんでございますけどもね。なんか当日言われた時間に行ったら全然始まってないんですよね。祭り自体が。

 

 何回確認しても出番の時間は間違ってないし、運営の人も「じゃあよろしく」みたいな感じで我々をステージに促すのよね。変だなと思いながらもステージに上がるじゃないの。会場を見渡すと屋台のおっちゃんたちはまだ普通に仕込みしてるし、客もいない。

 

 なぜか、それは祭りがまだ始まってないから。

 

「じゃあよろしく」じゃねえよバカ。

 

 始まってない祭りのステージでライブやれってなんだ、わからんぞ。とんちを試されているのか? 一休さんなら華麗にとんちで切り抜けただろうが当時の俺は残念ながら一休さんではなかった(当然今も違う)。いや、実際は一応客はいた。二人。片方は俺の妹だった。

 ステージ中のことはあまり覚えていない。一応何かを演奏したような記憶はある。

 

 

 

 それから一時間ほど後だろうか、気がついたら祭りは始まっていた。

 

 沢山の人が集まった後のステージでは、地元のベリーダンス愛好会によるベリーダンスが披露されていた。

 

 俺に声をかけてくれたデブのおっさんは「腹踊りなんて誰も見ねえんだからお前らと時間入れ替えりゃいいのによ!」とベリーダンス愛好会に大変失礼な励ましを言ってくれながらもめちゃめちゃベリーダンスを見ていた。

 

 めっちゃめちゃ見ていた。

 

 俺はおっさんに生返事しかできなかった。俺もめちゃめちゃ見ていたから。

 

 エロかったなあチクショウ。

 

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