子供のころ地元の商店街にキノシタという古本屋があった。

ごく普通の地元の古本屋であったが、店内の一角にエロ本コーナーがありそこで誰かがシゴき倒したと思われる中古のエロ本を100円~200円で販売していた。

キノシタの素晴らしい所は客を選ばないところ。相手が中学生であろうと平気でエロ本、エロビデオを販売してくれる良心的なお店で、性欲を持て余す男子中学生のリビドーをガッチリ受け止め、支えてくれた命の恩人であった。

今思うと誰が使ったかわからないエロ本なんてよく買っていたものだが、家庭科の授業で作ったナップサックだけを持って山や川へ行きそこで拾うのが主なエロ本の調達方法であった狩猟民族的な時代から比べると、街に下りてきて貨幣経済に参加するようになっただけ大きな前進なのである。

そんなキノシタで一度買ったエロ本のことが今も忘れられない。タイトルこそ流石に忘れたが「ワールド・エロティック○○」とかいう大層な名前がついていて、簡単に言うと世界20カ国の女性のヌードが一冊に収められたグローバルなエロ本である。

アメリカ、ロシア、中国、ブラジル、フィリピン、ヨーロッパ各国。世界中の女性の裸が一冊で楽しめる超お徳版がお値段はなんと200円。一カ国あたり10円の計算である。これで実質世界制覇なら完全に買い。世界まる見え!とは言ったものである。

そんな「ワールド・エロティックなんとか」をいつものように外から見えない茶色の紙袋に入れてもらい、自転車を立ちこぎで急いで家に帰り、自分の部屋でマッハで開封、ロシア、中国、ヨーロッパと浪漫飛行に繰り出していた最中であった。

それはまさかの惨劇。その本の中盤から後半にかけて、なんと世界中の女性のおっぱいの部分が全てハサミで切り取られており、見るも無残な状態であった。確かアノ惨劇は雪の中で微笑む巨乳のポーランド代表から始まったと思うが、事前にメインディシュとしてロック・オンしていたアメリカ代表も被害者の一人。最低だ。

こんな本を古本屋に売ったヤツもヤバいが、買い取ったキノシタは一体何を考えているのか。フシアナかよ、チェックしとけよテメエ、キノシタァ!

「…まてよ」

ふと思いついた。そこは同じエロを志すもの同士である。いや、お前がしたかったのはこういうことなのか?と先人が試したのかもしれないアイディアが急に思い浮かび、試しにその胸のところにポッカリと空いた穴から、自分の親指の腹をオッパイっぽく出してみて、それを別の手でモミモミと触る行為をしてみたところ、なんと!自分の部屋でひとり自分の指と自分の指をくっつけているだけであり、とてもむなしくなった。

切り取られたオッパイ側がキノシタに100円で別売りにしてあったら、俺は買っていたと思う。

 

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