10ヶ月ぐらい‪ジムに通っている。

通い始めた理由は軽く運動をしたかったからであるが、長い間実直に、ただ健康のためだけに、太らないようにとジョギングコーナーだけを利用していた俺の中にある時から「筋肉が欲しい」というスケベ心が芽生え、6ヶ月前から本格的に筋トレコーナーへようやく進出するに至った。地道ではあるがやれば結果の出る筋トレ、次第にやめられないものとなって来て今ではすっかり筋トレに魅せられしマッスルの申し子。腹回りは手付かずのまま残したい世界遺産としてシカトしているものの、それ以外のボディには毎月確実に新しい筋肉が転入してくる筋肉ニュータウンとして(この後はもう上手いことが思いつかなかったので割愛します)

そんなジムにある筋トレマシーンであるが、通っているジムが巨大な為そのマシンのラインナップも半端なく、体の各部位に合わせた多数のマシンが用意されている。

みんなが知ってるメジャーなマシン(つまりメジャーな筋肉を鍛えるもの)にもなると競争率も高くなる。皆がマシンの空くのを何となく周囲で待っているケースも多く自ずと注目度が高くなるわけであるから、俺のような根が小心者のただでさえ筋肉面でも劣る日本人がその視線に積極的に挑んでいけようはずもなく、どうしても毎回着座するのは視聴率も低い深夜枠のようなマニアックな筋肉ばかりを鍛える端っこのほうにあるマイナー筋トレマシンである。

従って俺がここ6ヶ月間鍛え上げているのは肘裏とか内腿といったあまり世間では評価されないマイナー筋肉ばかりなのであるが、そんな中にあって、上記の消極的な理由ではなく自分なりに考え、実益を兼ねて殊更鍛え続けているのが「梨状(りじょう)筋」と呼ばれるケツの両サイドにある筋肉である。

この梨状筋を鍛え始めた理由こそが、長年の持病である腰痛対策。医者に見せたことはないが、得意のインターネットによると俺の腰痛はこの梨状筋の弱体化が原因のはずである。確かに梨状筋を鍛え始めてからというものそれ以降一切腰痛にはなっておらず日を追うごとに腰への自身は深まり、その効果を確信する日々。

こうして俺は腹筋、背筋、二の腕にわき目も振らず、只管に、実直にジムの隅っこにある地味なマシンで毎週ケツを鍛え続けた。全ては腰痛を克服するために。

しかし先日の事である。朝起きて直ぐに腰に感じた激痛により俺は腰痛の再発を知ってしまった。ショックだった。

「梨状筋ッ…!梨状筋はおらぬかッ!!!」

呼んでも来なかった。

「騙された、悪い筋肉に騙された」

後悔しても後の祭り、涙でぼやけた天井を見つめながら会社は半休を取りました。

ケツを鍛えることで腰痛を克服したと思っていたが寒くなってきて普通に腰痛になってしまった俺の元に、ただ無駄に鍛えられ何の役にも立たないケツが、妙に引き締まったケツだけが残ったのであった。

 

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