小学校の卒業アルバムにクラスページというのがあった。
私のクラスは「何でもベスト3」という企画で、足が速い人ベスト3、おしゃれな人ベスト3など、クラス全員が何かしらのランキングに入るよう調整した平和的なページ。
私は「リコーダーがうまい人」の3位に入った。
調整されているとはいえ、名前が載ると嬉しい。
そうなのか、私はリコーダーが上手かったのか。フルートやトランペットも、実際に吹いてみたら上手いのかもしれない。
それから私は吹く楽器に対して何となく自信を持つようになった。
友達8人で熱海城へ遊びに行った。
熱海城は歴史上存在していない。観光用に建てられたというとてもクールなお城だ。
内部も観光に特化している。
日本一と書かれた巨大な金のシャチホコ。米粒に100文字書く達人のお店。
マッチ棒で出来たお城の模型。120万円で売られている貝のおみこし。
ジェット足湯。スポーツ吹き矢。無料ゲームセンター。オセロ。
混沌とした城内で私たちは震えた。まるで熱海のジョイポリス。楽しい!
中でも私が一番印象に残っているのは、ほら貝の体験コーナーだ。
戦の合図でおなじみの、あの誰もが憧れる「ぶぉ~お~」の音を実際に出せる。
しかも上手く鳴らせたら、賞品として熱海城ストラップが貰える激アツ企画。
ちょうど体の大きいアゴヒゲ君がほら貝吹きに挑戦するところだったので、私は様子を見ることにした。
「……スー……スー………」
赤ちゃんの寝息みたいな音がほら貝から出ている。
アゴヒゲ君の顔は、力んで真っ赤だった。
「……フス……スフォ?……スー……」
赤ちゃんの寝言?
アゴヒゲ君の顔色が今にも爆発しそうなボムと同じ色になっている。
そんなに難しいのか。でも私にはリコーダーがうまい人第3位に輝いた実績がある。
私は顔ぐらいの大きさのほら貝を両手に持って、ゆっくりと息を吹き込んだ。
「……スー……フーフー……」
赤ちゃんだった。おかしい。ほら貝の中に赤ちゃんはいないはず。
すると見かねた店員のおじさんがコツを教えてくれた。唇を震わせると良いらしい。
次はアドバイス通り、唇を意識して吹いてみた。
「……ぶ、ぶ、ぶ……ぶ! ぶば! ぶぼぼぼぼ!」
やった! 音が出た! 一番乗りで! しかも誰よりも大きい音で!
ほら貝の音を耳にした店員のおじさんは明るく声をかけてくれた。
「君の音、汚いな~!」
それからのことは記憶があやふやだ。
リコーダーが上手い人第3位とは何だったのか。ショックだった。
友達全員が賞品の熱海城ストラップを手にする中、私だけ何も貰えなかったのもまぁまぁショックだった。
こうして私は、ほら貝の音が汚い人第1位という実績を新たに手に入れた。