コンビニのバイトが好きで15年ほど続けていた。

色々なお客さんと出会い、数え切れないほどの思い出がある。

今回は、特に印象深かかったお客さんの話をしたい。

 

 

 

確か休日の昼下がりだったと思う。

自動ドアの開く音がした。お客さんが入ってきたらしい。

 

「いらっしゃいませ!」

 

挨拶をしながら入口のほうへ顔を向けると、スキンヘッドで恰幅の良い男性の後ろ姿が一瞬目に入った。

ストライプの派手なスーツに、小脇に抱えているのはセカンドバッグだろうか。

 

直感した。ヤのつく人だと。

 

でも案外、そういう人って優しいものだとパートさんから聞いたことがある。

確かに変に身構えても失礼だろう。平常心、平常心。

 

3分後、さっきの男性がレジに向かって歩いてきた。

あ、やっぱり怖い。

ゲーム「龍が如く」に出てくる嶋野の親父と瓜二つだった。

拷問大好きな嶋野の親父は、まさに冷酷非道といった強面フェイスをしている。

それが今、目の前にいらっしゃる。

しかし、震えているわけにもいかないので、私は懇親の笑顔をお届けした。

 

「いらっしゃいませ!」

 

その瞬間、私の目に飛び込んできたのはポメラニアンだった。

嶋野の親父はセカンドバッグの感じでポメラニアンを小脇に抱えていた。

大人しくて小さなポメラニアン。目をウルウルさせて舌をぺろっと出してる。可愛い。可愛いけど訳が分からなかった。混乱が止まらない。

「店内ペット連れ込み禁止」というワードが頭に浮かんだが、もうお買い物も後半なのでスルーすることにした。

 

嶋野の親父から受け取ったカゴは、とろりんシューがみっちり詰まっていた。

17個。異様な量に私はハッとする。

 

もしかして子分たちに分け与える為に、とろりんシューを……?

 

盃の代わりにとろりんシューを交わす一家。素晴らしくピースフルな世界。

怖さと可愛さとピースが混ざり合い、私の混乱は加速するばかりだ。

 

 

そんな中、大量のとろりんシューの下から500mlのお茶が1本出てきた。

まとめて袋詰めした方が良いだろうか。

いや、お茶が繊細なとろりんシューを潰してしまうかもしれない。

嶋野の親父もお茶をじっと見ている。圧がすごい。

 

「お、お茶は……袋は……お分けしてもよろしいでしょうか……?」

 

自分でも驚くほど蚊の鳴くような声だった。情けねぇ判断力のねぇ店員だ。

これが龍が如くの世界だったら、きっとペットボトルのお茶で脳天をカチ割られている。

 

「ん、とろりんシュー潰れちゃうよな。 袋分けてください。」

 

嶋野の親父の声は、かすれてドスが効いていた。

でも、子分(のとろりんシュー)への気遣いは確かなものだった。

パートさんの言う通り、見た目は怖いけど優しい人に違いない。

 

 

もちろんお会計は何事もなく済んだ。

私は嶋野の親父の大きな背中をお見送りしながら、元気よく挨拶をした。

「ありがとうございました!」

 

 

それから、とろりんシューが地上げされ更地と化したデザート棚を眺めながら、しばらくぼーっと考えた。

あの時、私は混乱していたのだろうか。

いや、あれはギャップ萌えの極みだったのかもしれない。

私は、ギャップ萌えの道を極めし者に出会い、萌えたんだ。たぶん。

 

 

 

他の「文字そば」を読む