ドラゴンゾンビは、自分が何者なのか夜通し考えてしまうんだろうな。
そんなことを思う。

彼は名前の通り、骨だけになったドラゴンだ。
ドラゴンクエストの終盤に現れて、強力な吹雪でプレイヤーを襲う。

ドラゴンの攻撃力と、ゾンビのタフさ。
その両方を併せ持つドラゴンゾンビは、まさにエリートと言える。

だからこそ、彼は自分のアイデンティティに悩むと思う。
自分は果たしてドラゴンなのか。
ゾンビなのか。
それとも全く別の、何かなのか。
私がドラゴンゾンビだったら、眠れない20代を過ごすに違いない。

 

ドラゴスライムとかも同じだろ。
そういう意見もあるかもしれない。

いやいや。考えてみて欲しい。
ドラゴスライムは、かなりスライム寄りじゃないか。

仮にスライム族同士の誰かが結婚式をするとして、ドラゴスライムにはまあ、招待状を出すだろう。
だが、ドラゴン族の結婚式に、ドラゴスライムは呼ばれるだろうか?

 

つまり、ドラゴスライムは自分の所属がはっきりしているのだ。

 

その点、ドラゴンゾンビはどうだ。
2つの種族の、ちょうど中間に位置している。

ドラゴンからもゾンビからも、結婚式の招待状が届いてしまう。
ドラゴン族の披露宴でスピーチをした後、急いでタクシーに乗って、ゾンビ族の二次会会場である墓へ向かう。
忙しい。

 

さらに、ドラゴンとゾンビの両方が、名門という点も苦悩に拍車をかける。
ドラゴンクエストシリーズで、種族に特効のある武器は二つしかない。

ドラゴンキラーと、ゾンビキラーだ。

対種族の専用武器が作られるほど、人間達から脅威に思われている。
裏を返せば、その種族が強い力を持つことを示す。

二種族のパワーバランスに差があれば、自分に都合のいい方に所属すればよかったのに。
ドラゴンゾンビにはそれすら叶わない。
自分の思考で、落としどころを見つけていくしかないのだ。

 

ある日、勉強をしていたドラゴンゾンビは、ジャポニカ学習帳の最後のページに目をやる。
そこには、コウモリの小話が載っていた。

鳥にへつらい、獣にも調子のいい態度を取っていたコウモリ。
最終的に、どちらの種族からも追い出されてしまう。

ドラゴンゾンビには、他人事に思えなかった。
「ああ、私は、中途半端ではいられない。いられないんだ」

 

思わず、自分の色違いであるスカルゴンにLINEを送る。
確か彼は、「ドラクエモンスターズ テリーのワンダーランド」で、ゾンビ系に属していたはずだ。
その裏に、きっと決断がある。

 

「スカルゴンくん、ちょっといい?」
「はい、何すか」
「テリーのワンダーランドで、ゾンビ系にいたよね」
「いましたね」
「別にドラゴンでもよかった訳じゃん。なんでゾンビに所属したのかなって」
「ええ。本当にどっちでもよかったんです。なので、3DSでリメイクされたときはドラゴンで出てますよ」
「えっ!」

 

ドラゴンゾンビは驚き、ゾーマが目をひん剥いているスタンプを送った。

 

 

 

 

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