『原付試験に落ちるやつはバカ!あんなん勉強しなくても受かる』

 

そんな言説を昔から聞いていた。

 

事務手続きの際に毎回パスポートを持って行くのがめんどくさくなり「そのバカ免許でも取ったるか!」という感じで23歳の頃に原付の試験を受けた。バカでも受かるなら一夜漬けの勉強でいいだろう(知らない人の為に説明しておくと俺は英検4級を持っているし、日高屋のモリモリサービス券も持っている)しかし心配症なのでなんだかんだで1週間前から勉強はしていた。

 

免許試験に行った人なら分かると思うのだが、あそこの雰囲気は独特だ。違反者講習にいる人は当たり前だが「交通ルールを無視した人」が集い、原付の試験会場のほとんどは「最速で少しでも速い乗り物に乗りたい16歳」で、全体的なヤンチャ成分は多めである。

 

会場の教室はヤンチャな10代と真面目クンの二派に分かれているように見えた。僕の前に座ったヤツは

 

『髪を虹の様に七色に染め、耳にはつららの様なピアス、ダルダルな服装、シャカパン』

 

という明らかなヤンチャ丸であった。

 

おい、足を崩せ、教室で通話をするな、「ダリぃ〜」と叫ぶな、黙れ。

 

試験が始まった。

 

50問中45問正解で合格なのだが「ン?これは…どっちかな?」というのが2問あった。それでも48問は正解で俺の合格は確実。ミネラル麦茶のCMが2回連続でやるくらい確実。

 

採点待ちの間もその”虹”は足を組み『俺、今ダルいで〜す!』感を出してイキっている。俺は生まれてからずっと黒髪だ、お前の7倍は真面目なのだ。頼む、お前は落ちてくれ。

 

採点が終わり番号が呼ばれる。虹は16番、俺は17番。俺は会場の真面目クンを応援していた。真面目クン全員で合格してヤンチャを見返そうぜ!とすら思っていた。

 

「では番号を呼んでいきます。4番、5番…13番」

 

急に番号が飛んだ!飛んだ番号の席を見るとやはりそこはヤンチャ・グループの席だ!ヨッシャ、頑張れチーム真面目!

 

 

 

「14番、16番、17番……」

 

いや、虹も優秀なんかい!優虹(ゆうこう)よ、ナメてたけどよくやった、戦友だ君は。

 

 

 

「ハイ、では以上の者は今回”不合格”となります。教室を出て窓口で試験結果を受け取って下さい。残った方はこのまま講習に移ります」

 

 

 

 

ホワッツ??

 

 

落ちたの?俺が?7分の1の髪色の俺が?勉強した俺が?

 

愚虹(ぐこう)は「チッ!」と舌打ちを残し、机を蹴って教室を出た。俺はというと落ち込んですぐには立ち上がれなかった。

 

 

試験結果を窓口で受け取る。

 

 

「44/50(合格点45点)」

 

 

 

 

その後の俺っち、すき家でずっと下を見てた、軽くえづいた。空腹のはずなのに飯が喉を通らない。店内のすき家ラジオも全く耳に残らないし。それは元からだ。

 

豚丼のミニを頼んだのにそれすらも残してしまった。この豚丼ミニには敗者の味がトッピングされていた。

 

俺はすき家を見る度に「敗者」の2文字が頭に浮かぶ。

 

虹色のフォントで。

 

 

他の「文字そば」を読む