洋服をクリーニングに出す際、ここ数年はサンレモンを使っている。
スピーディだし、安定した仕上がりを提供してもらっている。
ただ、一つだけ問題がある。
店頭のおばちゃんが人懐っこすぎるのだ。
おばちゃんは、外見では60代中盤~後半くらいに見える。
あの年代特有の、ボリュームを増やすパーマをかけている。
年を取って少しは落ち着いたが、昔はさぞお喋りだったんだろうなあという雰囲気を残している。
私はお店の人との雑談は求めていないので、基本的に話しかけないで下さいねというオーラを発しているつもりだ。
しかし、おばちゃんはそんなことお構いなしに話しかけてくる。
最近は、暑いねえ。
全然寝られないよねえ。
このまま暑いままだったら、どうする?
ぐぐぐ。
どうするったって、ねえ。
距離感が苦しい。
とはいえ無視するのも気が引けるので、曖昧な返事でお茶を濁し続ける。
受け取り用の紙をもらう頃には、濁りすぎたお茶が重油のように真っ黒になる。
他の店員には当たったことがない。
おそらく夫婦でフランチャイズに加入しているからか、接客はおばちゃんのワンオペである。
看板を見る限り、米屋のフランチャイズにも入っている。
米とサンレモンのお店。
節操がない。
そんなおばちゃんが、ギャグらしきものを織り交ぜてきたことがあった。
ある日、880円の会計に対して1080円を支払った。
すると
「はい、お釣り200万円ね」
と言ったように聞こえた。
ん?と私は思った。
私の脳内には、ほとんど面識のない人間に冗談を言う回路が存在しない。
完全に思考の外だった。
だから、単に200円を言い間違えたと認識した。
ああ、レジに入っていた一万円札を見ながら言葉を発したから、それに釣られたんだな。
よくあるよくある。
そう思って「ああ、はい」と普通に200円を受け取った。
ところがおばちゃんは、やや俯きながら
「200万円…あればいいねえ…」
と呟くではないか。
え、何?
200万円って言ったのは、冗談だったの?
そして今、それを補足しているの?
私は、鈍さゆえにおばちゃんの冗談に気付かず、悲しそうに説明までさせてしまった愚か者なの?
どうすればよかったの?
いたたまれなくなった私は、弾かれたように店を飛び出した。
シャツの入ったビニールをシャカシャカ言わせながら、足早に帰路に着いた。
輪切りレモンの形をしたマスコットキャラクターの笑顔が、やけに空しい。