本来であれば済ませておくべき人生経験が乏しいがゆえに何かと思い込みや勘違いが多い俺なのですが、20台も半ばになるまでずっと商業施設である「ラフォーレ」とクラブ、ディスコである「ヴェルファーレ」を同じものだと勘違いしていた。ヴェルファーレがなくなった後もしばらくずっとである。

東京の方ならご存知の通り、ラフォーレは原宿にあって主にアパレル関係のお店が入る商業施設で、ヴェルファーレは六本木のディスコだ。

同じ東京とはいえ、ラフォーレとヴェルファーレは全く別の場所。なのに俺は、進学をきっかけに上京させて頂いた田舎モノの俺は…、「東京のイケてる場所にある」という中途半端な知識によってか、なぜかその二つをずっと同じものだと思っていたのである。

 

そんな勘違いをしていたものだから、大学生時代のある日、教室で授業の開始を待っていると近くに居た特に遊んでいそうとも思えない極めて普通のルックスの女学生の集団の中から聞こえてきた「この前ラフォーレいってきてェ…」という言葉にビックリ!

彼女たちの話を盗み聞きしていた俺だが、その時頭の中に浮かんでいたのは夜の街で一際乱れ狂うヴェルファーレの夜。俺が九州の片田舎にある実家のリビングで眺めていたあのギラついたディスコである。

 

「あのスケども、文学部のくせにミダれた遊びに興じやがって…」

 

地方と異なり人生経験が10年ほど早い東京の若者ですから、イケていようがイケていまいが、東京人のたしなみとして全員ヴェルファーレに行くのかとあの時はそう真剣に思ったものである。

本来であれば俺自身が「ラフォーレいかねェ?」などと、いかにもラフォーレに行ってそうな感じのラフォーレっぽい友達などからいかにもラフォーレっぽいノリでラフォーレに誘われたときに気付くべきだったのかもしれないが、なんと俺には学生時代に大学に友達がおらずラフォーレどころかやよい軒にすら一度も誘われなかったのであるから泣けてくる。

その後数年してトヨタが「ヴェルファイア」というややこしい名前のミニバンをリリースするといよいよ何がなんだかパニックになった俺は、その時初めてインターネットで調べることにし、ようやくラフォーレとヴェルファーレが全くの無関係、そしてヴェルファイアは車であることを知ってしまった。

ラフォーレは怖くない!そのような気持ちで安心してラフォーレ原宿へ行ってみたのだが、ラフォーレはラフォーレでまあ、あんまり俺とは愛称がよくなくて、最後の望みであるヴェルファイアもまあちょっとなんかカツアゲ感っていうか、ちょっと悪そうな感じがして、この気持ちをどう表現していいかわからないけどとにかく「全滅だな」という自分勝手な感想だけが残った次第である。

 

 

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