小学生の頃、友人の誘いで海の岸壁で釣竿をたらし魚釣りに興じていたときのことだ。狙う魚も決めず、釣竿も仕掛けも餌に至る全てを適当に選んで挑んだ子供の魚釣り。

釣果といえば案の定ヒドいもので、貰ってきた小エビのような餌も海水でふやけてダメになるのを待つか、単純に外れるかしてただひたすらに餌を消費するだけの空しい時間。一匹も釣れぬまま気づけばほんの一時間足らずで餌は終わりに近い量になりつつあった。

そんな折、俺はふと、地面に落ちている一片の黄色い物体の欠片に気がついた。なぜアレが岸壁にと今なら不思議に思えるが、黄色いゴム状のそれは手に取ると少々派手ではあるものの消しゴムの一部であることが分かった。

戯れに、というしか理由はないが餌も底を尽きつつあったことでほんの出来心から俺はそれを釣り針の先に刺し、先ほどまで小エビで行っていたのと同じように何気なしに海へ投げ込んだのである。

 

「フィ、フィッシュ…タイム!」

 

それは一瞬の出来事であった。程なくすると投げ込んだ消しゴムに魚が掛かった。そう、今さっき口で言いましたようにフィッシュタイムの始まりである。

「フィッシュ・タイム」

テレビ東京の釣り番組「釣り・ロマンを求めて」を毎週観ていた皆さんならお分かりかと思うが魚がかかると「フィッシュ!」と言うのが番組の礼儀。そして釣れるまでを「フィッシュタイム」と呼んでいた。お前らがイくときに「イク!」と言うのと凡そ同じ理屈である。

釣りなどしたことないくせに日ごろからあの番組を見ていた成果がまさかこんな形で出るとは思わなかったが、俺は魚が掛かった瞬間ちゃんと「フィッシュタイム」と叫んでいた。釣れたのはボラのような雑魚だったと思うがそんなものは関係ない。フィッシュタイムは誰にも止めらんないのである。

散々そっぽを向いていた魚たちが消しゴムで釣れたというその事実に驚きつつも、そんなこと言ってる暇もなく役立たずの小エビを放り出し、俺たちは消しゴムを針につけ海に投げ込んだ。ここから先はご想像通りである。フィッシュに次ぐフィッシュ。正直消しゴムで釣れてしまう魚ってヤツらのことを小学生なりに生物として軽蔑しつつあったが残念、それもつかの間であった。限りある資源と何度言えば俺たち人類は分かるのか、乱獲された消しゴムはすぐに底をつき突然訪れた未曾有の大漁はすぐにジ・エンド…。

となるはずだったが俺は「キン消し」つまり当時流行っていたキン肉マン消しゴムというゴム製オモチャの「ウルフマン」が「たまたま」背中のナップサックに入っている事を思い出し、一切迷わずウルフマンの腕を力ずくでもぎ取ると、まだ終わらせねえとばかりに針につけて海へ投げ込んだのである。

 

で、これ誰も信じないと思うのだけどそのあとウルフマンの腕でなんとクロダイが釣れたんですよね…。

 

 

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