なんとなく不思議体験をしたくなり、一人で東京の高尾山口駅にあるトリックアート展へ向かった時の話なんですけど、結論から言うと一人で行かないで下さい。

 

心が痛むから。

 

その美術館は山にあるだけあって天候が荒れやすく、家を出た時は快晴だったのに電車が高尾山に向かう内に空は暗くなり、着いた頃には土砂降りで雷まで落ちる始末。しゃあなしに駅で傘を買い、坂を登って美術館へ向かったのだけど大雨と傾斜のせいで「小川か!」と思うくらい水が流れてくる。靴に雨が染み込む。この時点でもう観る気はない、切符代に600円かかっているという事実だけが俺の歩みを進めていた。

 

やっとの思いで入館すると係員のお姉さんがこう言う

 

「会場は奥の階段を降りた所にございます。階段までご案内致します」

 

係員さんの後ろをついていくんだけど、もう分かるのよ、その階段自体が絵だって事が!伊達に眼鏡かけてないっス?。その数メートルの間、お姉さんにどういうリアクションをとるか考えるのに必死でね。

 

「驚かれましたか?実は……この階段もトリックアートだったんです!」

 

知ってたよ俺っち知ってた。さてリアクションだ。

 

「おいいっ!!まさか入口からトリックてーー!ドヒャー!(後ろに倒れて両足をピクピク)」

 

頭の中ではそんなリアクションだったのだが、口から出ていたのは「セスネ…」の言葉。誰か社交性を俺に分けてくれ。

 

さてこの美術館、周りを見てみると客層は殆どがカップルか親子連れで笑い声が所々から聞こえる。確かにこんな体験型アトラクションは面白いだろうね、二人以上で来ていたのなら。

 

『ここに立つと恐竜に食べられてるみたいだよ』ゾーンは館内屈指の撮影スポットらしく、前のカップルは彼氏が「うわぁ~」というポーズをし、それを彼女がスマホで写真を撮っている。楽しそうな写真が撮れた様だ、SNSにあげるのかな?

 

だが一人で来てる俺。俺はコレどう楽しめばいいのか?一人のずぶ濡れの男が係員さんにスマホ渡して「うわぁ~」ってやってるのってホラー映画じゃん?

 

端と端に立つと巨人と小人みたいになるよ!

 

ここに立つと今にも崖から落ちそうだよ!

 

様々なゾーンに俺は無視を決め込むのだ。何故なら一人で来てしまったから。トリックアートの体験ブースは基本他人に見られて成立するってのを現地で気付いてしまった俺だ。

 

そんなブースばかりなのでソロ客の俺は

 

「よく見るとこの絵!全部果物で出来てんジャン!」

 

「うわッ!この車輪!絵なのにグルグル回ってるよーッ!」

 

「エッ!?バアサンと思ったら、向こうを見てる女性!?」くらいの絵しか楽しめない。俺よ、そんなものは図書館で借りて楽しんでくれ。

 

 

ということでソロでの高尾山トリックアート美術館。自分の殻を破るのに最適です。

 

んで、退館したら外めちゃくちゃ晴れてんのね。往復1200円かけて傘を買っただけでやんの。俺が一番のトリックじゃん。

 

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