一度は行ってみたい……廃墟のきのこでできた街「ラッシュルーム」とは?

今から数千年以上前、気が遠くなるほど古い時代からのタイムカプセル。

 

▲廃墟のきのこを加工した人気の玩具「いえのこども」

 

今や国の一大観光資源となっている「RASHROOM(ラッシュルーム)」、通称「廃墟のきのこ」がこの世界に生まれたのは、まだ40世紀にも満たない昔のことでした。

 

数千年前、この地域一帯にあったといわれる建築物は、そこに住んでいた文明の滅亡により、保全されることなく放置され、ゆっくりと朽ちていきました。

 

そこにあった文明の廃墟は、長い長い時間をかけて土砂の奥深くに埋没し、分解され、ひとつの地層を作っていきます。

 

すると、それらの廃墟は地層に溶かし込まれ、琥珀や石油のように、物質を変化させました。

 

そんな、琥珀となった建物たちを母体として出来上がったのが、この「廃墟のきのこ」です。

 

土の奥深くに眠る廃墟、その記憶を吸い上げて作られたきのこ。

 

そんな「廃墟のきのこ」が群生することで出来た街こそが、この「RASHROOM」です。

 

それらは、木や地表から「生えて」、地盤に寄り集まることで、「生きた廃墟」たちのコロニーを形成します。

 

▲雪原地帯で木に共生した、養殖「廃墟のきのこ」

 

その様子がひとつの発疹(rush)のようであり、同時に普遍的な菌類(mushroom)の生態を想起させたため、それはラッシュルームと名付けられました。

 

ラッシュルームは旧出雲(うんた)地区、その中心から同心円状に広がるように群生しており、中心に行けば行くほど巨大で複雑な構造の廃墟が多くなります。

 

 

▲「入口」から北に20時間ほど歩いた地点から見える風景

 

宿泊も可能? 大人気の「廃墟のきのこ」観光ツアー

 

「廃墟のきのこ」は生物であると同時に建物であるため、その内部は通常の家として使うことも可能です。

 

しかし、意図をもって作られた「建築物」ではなく、かつてあった建築物のDNAの継ぎ接ぎなので、その間取りや見た目にはムラができます。

 

比較的住みやすい郊外の廃墟であっても、

「キッチンだけが5部屋ある家」や、

「椅子の壁で仕切られた部屋」、

「数百本の柱しかない部屋」など、

満足な居住には適さない廃墟が殆どです。

 

▲数百本の柱しかない部屋

 

中心部の廃墟群に至っては、未だ踏み入れることすらできていない区画すら、ざらにあるのが現状です。

 

その広さや危険さも相まって、一説には、私たちはまだ全体の2割程度しか確認できていないとも言われています。

 

一方で、危険でない区画や中心部に入りさえしなければ面白い建築物が多くみられるため、都市部からの観光ツアーは非常に好評です。

 

場所によっては、グラフィティにも似た模様が廃墟のきのこに刻まれていることもあり、特に綺麗なものはフォトスポットとしても人気を博しています。

 

▲廃墟のきのこに描かれた模様

 

廃墟の壁や家具の一部を採取・加工する「きのこ狩り」はお子様にも大人気。

物産展などでは、様々な加工品が販売されています。

 

ここに注意! 廃墟のきのこ観光の危険性

その性質上、生活に困窮した人々によるスラムが形成されている場合もあり、人の少ない中心部の治安は決して良いとは言えません。

 

また、場所によっては、石綿などを含む「胞子」によって健康被害を受ける場合や、警察の目の届かないスラム地域で思わぬ危険を被る場合があるため、観光地化(リフォーム)されていない廃墟を歩くことは基本的に推奨されていません。

 

特に、一定の距離を越えた「中心部」へ一般人が行くことは許可されておらず、役所への所定の届出が必要になっています。

 

中心部の最奥には大きな陥没穽があり、付近の整備も進んでいないため、とても危険です。

▲中心部に存在する空洞、通称「穴」

 

しかし同時に、そうした「未踏廃墟」へのロマンから中心部の奥深くを目指して非公式の「探検」を行う人も多く、それによる行方不明事件も後を絶ちません。

 

現在は廃墟のきのこへの入場制限が設けられていて、一般人は所定の「入口」からしか入ることはできません。

 

廃墟の中心部には何がある? さまざまな研究

「廃墟のきのこ」の構造は中心に行くほど複雑になり、壁や家具に刻まれた「模様」も多くなります。

 

これは、かつての建物に置かれていた調度品だけでなく、そこにあった書物や新聞、書置きなども琥珀になり、廃墟のきのこの源になっているからだと言われています。

 

そのため、ある時期からは、この地を訪れるアマチュア言語学者や考古学者などを含めて、この「模様」を解読するプロジェクトも進行していました。

 

廃墟のきのこに刻まれた「模様」すなわち「文字」を解読し、かつてその地に生きていたであろう生物の記憶を復元するという計画です。

 

しかし、現在は前述の法整備により、そもそも中心部への探査自体が少なくなったため、それほど目立った進捗はありません。

 

以下は、廃墟のきのこを訪れた探検家や言語学者たちが発見し、独自に「翻訳」された言葉の一部です。

 

見つかった場所:

数千個のドアノブが敷き詰められた床(「入口」から徒歩40分ほど)

 

状況:

床に敷き詰められたドアノブの一つに、刻印のように刻まれていた

 

書かれていた言葉:

おやすみなさい

 

見つかった場所:

朽ちたタイルが張られた部屋(「入口」から徒歩3時間ほど)

 

状況:

部屋の壁に、赤い塗料の汚れに似た「カビ」が密集していた

 

書かれていた言葉:

本当に[未翻訳: 何らかの動詞]するしかなかったの?

 

見つかった場所:

中心部に存在する「穴」の中腹(「入口」から徒歩と生体ドローンを組み合わせて8か月ほど)

 

状況:

穴の側面にある廃墟のうち一つの窓に、張り紙のような模様が溶かし込まれていた

 

書かれていた言葉:

【緊急ニュース】[未翻訳:何らかの役職と思われる]代理が緊急の宣言を発令 「もはや滅亡は避けられない」との見解

 

見つかった場所:

穴の底部(「入口」から徒歩と生体ドローンを組み合わせて1年2か月ほど)

 

状況:

穴の底に近い廃墟の扉に、殴り書きのような形の黒いカビがいくつも密集していた

 

書かれていたもののうち翻訳可能だった言葉:

・もう時間がない

・これが 私たちがいた証拠

・あなただけは生き残ることができる

・長い時間をかけて[以下翻訳不能]

・ごめんなさい

 

廃墟のきのこは生きている?

廃墟のきのこは、今も成長と拡大を続けています。

この変化は廃墟のいちばん外側、つまり「境目」の部分において最も活発です。

 

これを放置すると、他の街に望まぬ侵食を招く恐れがあるため、廃墟のきのこは加工品としての利用もかねて「剪定」されています。

 

廃墟のきのこに関する「噂」

その非常に複雑に入り組んだコロニーの最深部で、廃墟のきのことは異なる未確認生命体を発見した、という都市伝説が、実しやかにささやかれています。

 

アマチュア探検家による噂も入り混じっていて、信憑性には欠けますが、公的機関の命で派遣された調査隊にも同様の発言をした者はそこそこいるらしいのです。

 

以下は、現時点で最も「廃墟のきのこ」の中心に近付くことのできた調査隊の一人が著した、有名な文章の抜粋です。

 

最深部は、たくさんの排水管と建物が絡みつき、

トンネル状の空間を作っていました。

 

排水管からは所々にぽつぽつと水滴が垂れていて、

鍾乳洞みたいだなと思ったのを覚えています。

 

私はその場で最新式の生体ドローンを飛ばし、

この管が街全体に何本あるのかを数えさせましたが、

カウントアップされる数字の桁数が100を超えたところで、

ドローンの通信機器はエラーを吐き出してしまいました。

 

ぐねぐねと重なり合う管でできた

不安定な床の上を歩き、私はさらに奥まで進みました。

 

そして。

 

気が遠くなるほど歩き続けた先で、

私はその生命体を見つけたのです。

 

静かに目を瞑るその生命体は、

私たちと非常によく似た姿かたちをしていました。

 

その胸元はゆっくりと上下していました。

まるで、それが今も生きて、呼吸をしているかのように。

 

仰向けに寝かされた「彼女」の首元には、

一本の透明な細い管が繋がっています。

 

恐らく、あの大小さまざまな排水管も、

そこから広がる廃墟のきのこも全部全部、

この一本に繋がっているのだろうなと思いました。

 

冬虫夏草、知っていますか?

虫の生命を吸収して伸びるきのこの一種です。

 

彼女を見たとき、私は真っ先にそれを想起したのです。

 

「もう時間がない」。

「これが 私たちがいた証拠」。

「あなただけは生き残ることができる」。

 

ここに来るまでに見た、

廃墟に刻まれるいくつもの落書きを思い出しながら。

私は、根拠のない妄想をしてしまいました。

 

かつてそこにあった文明と街に関する記憶が、

そのたったひとつの生命にとじこめられていて。

その生命を養分として、「廃墟のきのこ」は生えている。

それが今も増殖し、あれほどに大きなコロニーをつくっている。

 

まるで、この廃墟の街全体が、

彼女らがいた世界の、

めちゃくちゃな走馬灯であるかのように。

 

理由も根拠もない妄想ですが。

もしそうだとしたら、

それはどんなにさびしいことでしょうか。

(京三教育出版『廃墟のきのこはどこから来るの? 建築生物のふしぎ』より抜粋)

 

《編集後記》

長年にわたり廃墟のきのこに居住しているスラム地域の人々の間で、

依存性の高い幻覚症状を発する方が増加しています。

 

そのため、「胞子」の多い一部建物への立ち入りは、

充分な防護服を着用した場合を除き禁止されているそうです!

皆さんも、廃墟のきのこを観光するときは、十分注意してくださいね。