「ゲシズリ」の生態について
〈追記: 本人の希望により画像削除済〉
[▲ 当時Aさんが住んでいたアパート]
概要
「ゲシズリ」は、近年日本の住環境において
存在が確認されている節足動物の仮称です。
その生態や分類等には未知の点も多く、
現在も継続して研究が進められています。
ゲシズリは、多くの点で蚰蜒(Thereuonema tuberculata、いわゆるゲジゲジ)に
類似した生態をもっており、
現時点ではゲジ亜綱の新種もしくは突然変異種であるとされています。
蚰蜒との類似点
そもそも一般にゲジは益虫であり、
特に住居に現れる場合には様々な害虫を食すると
されていますが、その点はゲシズリにおいても
基本的に変わりません。
主にコバエやゴキブリ(幼虫)、
ショウジョウバエといった小昆虫を
好んで食するほか、ゲシズリの場合は
植物性繊維や化学繊維を含む繊維屑、
いわゆる埃なども摂食します。
そのため暗所や湿った場所を好みますが、
体表に汚れが付き続けることは嫌うため、
後述する消毒作用なども用いて
つねに体表を清潔に保っています。
これはアシダカグモや通常のゲジにも
共通する特徴であり、
ダニや蚊といった衛生害虫のように
病原体を拡散することは基本的にありません。
夜行性であり、昼間は隠れていることが多いうえ、
通常のゲジと比べて夜間の行動もやや鈍化しています。
そのため敏捷性はゲジにやや劣りますが、
代わりに擬態・待ち伏せに似た行動を取ることが
確認されています。
ゲジは節足動物門多足亜門ムカデ綱に属し、
ゲシズリもそれに近い種であるとされていますが、
ムカデと違って攻撃性はきわめて低く、
比較的穏やかな性格であるといえます。
手掴みするなど極端な接触を図らない限りは
人に噛み付くことはなく、噛まれたとしても
その毒はゲジ同様非常に弱いため、
命に別状はありません。
また、ムカデよりも体躯は短いため、
ムカデのように体をくねらせず、
床や壁を滑るように移動します。
その触角や脚(歩脚)の細長さは、
家の中を細かに徘徊する移動形態には
非常に適しているといえます。
蚰蜒との相違点
一般的なゲジと大きく異なる点は、
・「体色」
・「脚部の変化」
・「網状構造の異常発達」
・「顎肢および皮膚からの体液分泌」
主に以上の四点が挙げられます。
①体色
体色は通常のゲジと同じ暗褐色のほか、
白あるいは薄い茶褐色の個体もみられます。
突然変異による遺伝子疾患として
色素が欠乏した白化(アルビノ)個体
である可能性のほか、
先述の「擬態」に適した体色を
めざした進化である可能性も
指摘されています。
②脚部の変化
ゲジの脚の本数は約30本と
いわれていますが、
ゲシズリはその倍以上の脚をもちます。
その脚は、昆虫の中でも細いといわれる
ゲジと比較してもなお非常に細く、
形状としてはアメンボやザトウムシにも類似しています。
しかし、それらの虫と同様に
脆い構造をしているわけではなく、
寧ろ脚一本一本の構造は非常に強靭です。
それぞれの脚はしなやかな伸縮性をもち、
その歩脚の数の多さも相俟って、
縦・横方向の強い衝撃を吸収する
クッションとしての役割を担っています。
換言すれば、脚がすぐに切れてしまうと
上記の性質をうまく利用できないためか、
ゲシズリはゲジ全般に見られる
「自切」(逃走のために自ら脚の一部を切る行為)を
あまり行いません。
③網状構造の異常発達
ゲジやゴキブリなどの昆虫の脚には
細かい毛が生えており、
これは主に触覚の役割を果たします。
ゲシズリはこの網状構造が
特異に発達しており、
成虫の場合は脚とほぼ見分けがつかないほどに成長します。
そのため、見かけ上は数百本もの
白く細い脚が生えているようにも見えるほどです。
これはゲシズリの好む繊維屑などを
より多く絡め取る役割をもっている
と考えられ、化粧行動(脚や触角を掃除する行動。
クモやハエなどにもみられる)にかける時間も
比較的長くなっています。
④顎肢および皮膚からの体液分泌
ゲシズリは、その顎肢や皮膚から、
軽度の毒を伴う体液を分泌します。
先述の通り毒性は極めて弱く、
アナフィラキシーを発症した例も
確認されていません。
たとえヒトの粘膜に直接触れ、
かつ洗滌をしなかった場合でも、
反応は十数分程度で収まります。
その体液にはサポニンに類似した
界面活性作用、および消毒作用を有する
配糖体が含まれます。
※サポニン…ナマコなどの体内にも含まれる、
薬理作用を持つ成分。しばしば天然石鹸などに用いられる。
これはアシダカグモが
捕食や化粧行動に使用する、
強い殺菌能力をもつ体液と
同様の効果を有すると考えられます。
以上四点が、ゲジや他の生物と
比較した際の主な特徴です。
ヒトの住環境との関係
ゲシズリは、他の昆虫と比較しても
より密接に人の住まいと関わっており、
場合によっては一種の共生関係が
形成されています。
ここでは、アパートの排水溝を介して
ゲシズリが住み着いたAさん(仮名)宅の
実例をもとに、住宅に現れるゲシズリと
人との関係を紹介します。
1. 擬態
洗面台もしくはキッチンの排水溝から
侵入したと思われるゲシズリ(※)は、
Aさんが寝静まった夜間に
活発に行動していました。
※当時、Aさん宅の排水溝などから、
ゲシズリの卵が約██████個発見された。
なお、ゲシズリが一度の産卵で産む卵の数は
一般的なゲジ同様120~300個とされている。
埃やコバエを食して生活していたゲシズリは、
やがて活動の拠点を洗面台に移します。
これは洗面台にナイロン(化学繊維)や綿埃、
湿気などが特に多かったためと思われます。
ゲシズリは自身の白色/薄茶色の
身体を活かし、洗面台に擬態して過ごします。
2. ヒトとの共生
やがてAさん宅のゲシズリは、
Aさんの皮膚や粘膜に含まれる
食物に目を向けました。
Aさんの口腔内に入り込み、
その中の水分や垢などを
定期的に摂取していたとされます。
場合によってはAさんの口腔内に
先述の体液を流し込み、
一時的な口腔内の麻痺状態を
発生させていたとみられますが、
この時点でAさんがゲシズリの
存在に気付くことはありませんでした。
3. 繁殖と産卵
Aさん宅のゲシズリは、
その後に侵入したゲシズリと
交尾行動を行ったためか、
最初に侵入した個体が
卵を持つ雌であったためか、
住居内で産卵を行いました。
湿った暗所を好む性格と、
卵の乾燥を防ぐ目的から、
産卵場所は洗面台の排水溝付近であったと思われます。
卵は小さく、かつ粘性のある白い体液で覆われ、
孵化の時間まで洗面台で守られ続けました。
また、このときに前後して、
他のゲシズリがAさん宅に
複数侵入したと思われます。
これは、ゲシズリの体液に含まれる
フェロモンが排水溝を伝って流れ、
それによって他の個体が引き寄せられた
ことが一因だとされています。
4. 孵化と発見
産卵後3週間ほど経ったところで
ゲシズリの卵は孵化し、
Aさん宅の様々な場所に拡散しました。
ゲシズリの幼虫は、
一見して虫のように見えない
見た目であるため、
Aさんも最初はそれが虫であることに
気付かなかったといいます。
やがて「排水溝の奥に綿が詰まっている」
という電話を受けた水道修理業者が
その幼虫と成虫を発見したことで、
Aさん宅のゲシズリの存在が判明したそうです。
以下に、Aさん宅で発見されたゲシズリと
同様の個体(成虫)の写真を掲載します。
[▲ 擬態したゲシズリの成虫(画像右上)]
付記
ヒトの口腔内に侵入したゲシズリは、
強い刺激を繰り返し加えられることで、
その体から消毒性のある体液を分泌します。
同時に、口腔内に存在する水分や垢を
異常発達した網状器官によって絡め取り、
その後で化粧行動を兼ねた食事を行います。
界面活性作用を持つその体液は、
少量の毒性によって一時的に
舌の細胞膜と味蕾を破壊し、
ヒトの味覚を30分程度狂わせます。
また、化学繊維や植物繊維を
好んで食べる習性から、
同様の性質をもつ物質を食べ、
その物質と「置き換わる」形で
擬態を行うこともあります。
非常にしなやかで強靭な歩脚は
ある程度の衝撃に耐えうる
クッション性をもち、
上述の粘液による滑りも手伝って、
ヒトの軽い咬合程度で
身体が損傷されることはありません。
上述の習性やヒトとの関係性から、
平安貴族の食器に群がる「御器齧」が
ゴキブリという俗称を生んだことに因み、
この生物には「牙歯磨」という仮称が与えられました。