これは、先日僕が偶然発見した異世界への入口、通称「この本屋」に関する記録である。

 

 

 

 

 

こんにちは、ペンギンです。

 

急にすみません。

「物色」って風情があって良いですよね。

 

ぶっ‐しょく【物色】
[名](スル)

1.多くの中から、適当な人や物を探し出すこと。「手ごろなマンションを—する」「空巣が家の中を—する」

2.物の色や形。また、景色や風物。「秋八月、—を見て作る」〈万・一五九九・左注〉

(goo辞書[デジタル大辞泉]より)

 

用例に犯罪が入っているのはご愛嬌ですが、大量の物をザーッと眺めて、目当ての品を見つけて「おっ、あったあった。へぇ、なかなか状態良さそうじゃん」、こりゃなんとも玄人な趣ですよね。

 

とりわけ、

 

 

本屋で目当ての物色する。

 

 

これに勝るオツな物色が他にあるでしょうか?

 

三島由紀夫の新刊は、多分もうないんですけど。

 

ということで、

 

 

やってきました。

電車で2時間かけて、横浜へ。

 

 

なぜわざわざ横浜まで来たかというと、横浜には『有隣堂』の本店があるからです。

僕は横浜育ちなのですが(※)、「本屋といえば有隣堂」と徹底的にすり込まれてきました。

品揃えの多い少ないはよくわかりませんが、お目当ての本、あるいは目当てにしていなかった新しい本と出会わせてくれる。

そんな圧倒的な信頼があります。

この街から遠く離れた今でも、「本を探すなら有隣堂本店が(本当は)一番良い」と思っています。

近所に有隣堂がないから、やむを得ず近場の本屋でいつも我慢しているだけです。

本屋に立ち寄るだけで妥協を重ねる人生。

 

※僕の家は転勤族だったので横浜で暮らした期間は実際のところ計2年半くらいですが、でも母方の実家が横浜にありますし、僕自身も結構な頻度で横浜に帰省したりしてますし、横浜の行政区も全部覚えてるし横浜市歌も歌えるしありあけのハーバーとかめっちゃ沢山食える自信あるので、細かい補足が長くなってしまうと皆さんも困ると思いますしとりあえず今日のところは「実質横浜育ち」ってことにさせてもらえませんか?

 

有隣堂で『金閣寺』を探そう!

 

有隣堂の前に立つと、本屋の入口ならではの新しい紙の匂いが鼻をつきます。

 

さて今日は、お目当ての物色物(ぶっしょく-ぶつ)をあらかじめ決めてから捜索するタイプの物色をやっていきます。

物色物は、三島由紀夫『金閣寺』です。

まだ読んだことがなく、かつ本屋で物色する文庫としてちょうど良さそうだからという、ごく浅い理由です。

 

 

パリッと製本された真新しい文庫本がピシッと整列する、2階の本棚に向かいます。

 

 

さて、ここからが物色の楽しいところです。

 

 

今更何を言うかという話ですが、本屋さんの本の並び方には

①作者ごとに本がまとまっている

②作者は五十音順に並んでいる

という大原則があります。

 

そのため、三島由紀夫だったら「み」の群れを探すべきなので、

 

本当はこんな風に棚の右下あたりから探すのがRTA的には正解なのでしょうが、

 

 

 

物色は回り道も楽しむものなので、左上のスタート地点から眺めます。

 

 

左上は「あ」でした。

スタート地点なので、当然ですね。

 

 

五十音を頭の中で唱えながら、視線を滑らせていきます。

へぇ、この本も面白そうだなあ。

あぁ、この人って作家だったんだ。

道中楽しみながら、棚の中を歩いていきます。

 

一番上の段を終えたら、一つ下のまた左から始めて、右へスーッと目を移していく。

 

 

こうして棚一つ分の周遊を終えたら、一つ右隣の棚へ目を移します。

 

 

このあたりの視線の流れがスルスルッと調子よく進むと、なんとも心地よい気持ちになります。

あぁ、僕は今「本屋で本を物色している」んだなぁ。

 

 

へへへほほほほまま・・・

ま行に入ると、少しだけ緊張します。

もう少しで、「み」が来る。

『金閣寺』、あるかなぁ。

探していたのに、いざ辿り着く直前になると、どうしようもなく胸が騒ぐ。

初めてのデートで、待ち合わせ場所の最寄り駅に着いてからのような。

短いけど永遠のように思える、あの徒歩の時間。

 

いた!!

 

ああ、緊張する。わずかに上がる心拍数。

 

『岬にての物語』『花ざかりの森・憂国』『宴のあと』……

ほぼ棚一列の半分を占めるくらい、ぎっしり三島の本たちが並んでいますが……

 

肝心の『金閣寺』がありません。

 

有隣堂なのに、なぜ……?

有隣堂なのに、探している本が見つからない。

こんなことが起こるとは思いませんでした。

切ない。

待ち合わせ場所、時間、合ってるよな…?

 

一旦、「新刊・話題書」のコーナーに行きます。

しかし『金閣寺』が新刊であり話題書であった時代はとうに過ぎたので、当然そこにはありません。

ダメ元でもう一度さっきの文庫の棚に戻りますが、やはりありません。

 

仕方なく、手ぶらで有隣堂を出ます。

有隣堂なのに、手ぶらで……

 

ブックオフプラスで『金閣寺』を探そう!

 

すぐそばに、ブックオフプラスがあります。

あの有隣堂のそばに出店するとは、ずいぶんと挑戦的な戦略です。

 

ブックオフ、しかもプラスなんですから、絶対『金閣寺』ありますよね。

 

階段で2階に上がると、本のコーナーです。

同じ文庫なのに背表紙の色がくすんでバラバラだったり、新品もあれば、浪人生の参考書くらいやり込められた本も、みな同じ棚にガヤガヤと並んでいます。

有隣堂のちょうど「対」に位置する、また別な輝きを放つ本屋の在り方。

宝さがしみたいな気持ちになります。物色っぽい。

 

 

また律儀に左上からスタートします。

 

 

本棚の流れに目が慣れてきたからか、あるいは有隣堂で『金閣寺』が見つからなかった焦りからか、やや飛ばし気味に「み」の群れを目で探します。

 

 

そろそろだ……

 

 

いた!!!

再び、胸が高鳴ります。

 

頭がひしゃげた『岬にての物語』、背表紙がはがされて申し訳なさそうに棚に収まる『潮騒』……

 

肝心の『金閣寺』がありません。

 

プラスなのに、なぜ……?

 

 

仕方なく、手ぶらでブックオフプラスを出ます。

 

有隣堂にもない。ブックオフプラスにもない。

物色って、こんなに切ない趣味なのか……。

 

でも、ネットではなく実店舗に赴くという物色の性質上、その日の在庫の有りや無しやは、当然ありますよね。

また、一から出直しましょうよ。

 

少しだけ肩を落としながら商店街をくだっていくと、小さな書店を見つけました。

こんなところに、本屋があったんだ。

 

 

この街には有隣堂もあって、ブックオフプラスもある。

それでも、歴史的な趣のあるこの本屋は、アスファルトにしっかり根を張って営業しています。

 

僕はこの本屋に賭けることにしました。

ここで『金閣寺』が見つからなかったら、お家へ帰ろう。

 

まさか、あんな異世界に遭遇することになるとも知らず……。

 

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