初めての本屋で『金閣寺』を探そう!

 

この本屋は手前から奥に向かって細長い店で、出入口のラックには週刊誌が並び、その裏に本棚が縦向きにいくつか並んでいます。

 

 

本屋というのは不思議なもので、外からそれとなく様子を伺うだけでも、ゾーニングがだいたいわかります。

 

 

この本屋の場合は、中央で背中合わせになっている本棚が文庫本ゾーンのようです。

 

さて、三島由紀夫『金閣寺』を探しに行きましょう。

 

①事件編

 

さっきまでと同じように、文庫本ゾーンの前に立ちます。

 

 

 

スタート地点にあった作者は「す」でした。

 

ということは言わずもがな、この棚の並びはこうです。

 

 

本棚の流れが少しでもわかりやすくなるように、子音ごとに色付けしました。
アメリカのお菓子みたいな色合いですみません。

 

つまりこの棚たちは、「す」から始まって、「ん」で終わるゾーンということでしょう。

頭文字が「ん」の作者だっているかもしれませんからね。

 

 

僕が今いる棚が「す~ん」の本棚ということは、

 

 

背中合わせになっている反対側の文庫棚が「あ~し」の本棚ということでしょう。

ギャルの選書コーナー、『あ~しの本棚』

 

ということは、「す」から右にくだっていけば当然、「み」の群れに到達するはずです。

 

 

さっきまでと同じように、スルスルッと視線が左上から右下へ流れていきます。

 

 

次は当然、一つ右隣の棚の左上隅から始めます。

「ね」で終わっているので、勿論次は「の」でしょう。

 

 

………こ?

 

 

あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

なにぬねこ????

 

まあ、一旦落ち着きましょう。

たまたま、うっかりやの「こ」が迷い込んだだけかもしれません。

続きを見ていきましょう。

 

 

なんと、当たり前のように「こ」から再び五十音の流れが始まっています。

つまり、この後に予想される並び方はこうです。

 

あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

なにぬね

さしすせそ

たちつてと

なにぬね

さしすせそ

たちつてと

なにぬね

さしすせそ

 

とんでもない本屋を見つけてしまったかもしれない。

この本棚、無限……!?

続きを見ていきましょう。

 

 

なんだ……?

これは一体、どういう流れ、どういうルールなんだ?

 

 

突然、めまいがしました。

船酔いに似た感覚。

エスカレーターに乗ったら動かなかった時と似た感覚。

当然そう進むだろうと思い込んでいた自分の感覚と、外界で実際起きている進み方との間に著しいズレが生じた時に起こる「めまい」

 

なんだこれは。今、僕は、どこに立っているんだ。

足元がふらつく。めまいがする。

 

②推理編

再び落ち着いて、まずはめまいの原因を解明しましょう。

 

今まで見てきた通り、有隣堂やブックオフプラスーこれらを敢えて「普通の本屋」と呼ばせていただきますがーにおける本の並び方は、こうです。

 

 

どういうことかというと、

 

 

棚の中の流れ(小さな矢印)と、棚自体の流れ(大きな矢印)が、いずれも左から右方向なんです。

この左から右への流れを、仮に順方向と名付けましょう。

 

で、この本屋における本の並び方は、こうです。

 

 

つまり、

 

 

棚の中の流れ(小さな矢印)順方向なのに、

 

 

棚自体の流れ(大きな矢印)右から左、つまり逆方向なんです。

 

本棚にとかとかあるんですかという話ですが、本棚を目で追いながら探している時のことを想像すれば、少しわかっていただけるんじゃないかと思います。

 

普通の本屋における視線の流れは、こうです。

 

 

ああああいいいうううえええおおおかかかききくくけ、と来て、スッとそのままの流れで右上に目を移せば、ここここささ・・・と続きを詠むことができます。

 

しかし、この本屋における視線の流れは、こうです。

 

 

ここまで詠んだら、次は

 

 

大ジャンプ。

 

まるまる2棚分を斜めに大逆走しなければ、続きを詠めません。

頭がぐわんぐわんする滑空感、伝わるでしょうか。

さっきまで左から右へ視線を動かしていたのに、急にグワーッと大きく左に動くことによって起きる『反動』、あるいは『慣性』

 

めまい、しますよね?

 

仮に、棚自体の流れ(大きな矢印)逆方向だったとしても、棚の中の流れ(小さな矢印)も同じく逆方向であれば、まだしっくりくるんです。

↓こんな感じで。

 

 

なぜなら、視線の流れに統一感があるので、めまいがしないんですよ。

 

 

ここまで詠んだら、次は

 

こうなるわけですよね。

確かに、普通の本屋とは真逆の流れなので最初は軽く酔いますが、それでも本の並び方のルールとしては統一感がありますよね。

 

でも、この本屋では、素直に五十音順に視線を動かそうとすると、こうなります。

 

 

これはもう、超常現象といっても過言ではありません。

この本棚、何かしら時空間の歪みが発生しています。

異世界への入口かもしれません。

 

 

これで、めまいの原因はわかりました。

あとは、何故こういう並びになっているのか、この本屋は異世界への入口なのかどうなのかを解明するだけです。

 

『何故って……右の本棚と左の本棚が、配置替えか何かの拍子で入れ替わっただけでは?』

 

 

たしかに、棚を入れ替えるだけで普通の本屋と同じ配置になりますね。

 

しかし、それで終わらせてしまえば、異世界への扉は永久に閉ざされてしまうでしょう。

トトロの住処がすぐそこにあったとしても、信じていなければただのデカい木にしか見えないのと同じです。

 

ぜひ誤解しないでいただきたいのですが、僕は文句を言っているのではありません。

です。僕は感謝しているんです。僕はワクワクしているんです。

 

この超常現象の「理由」、後生だから、どうか、僕に解き明かさせてください。

 

③奔走編

さて、当初予想したところによると、

 

 

今見ている棚は「す~ん」で、反対側の棚が「あ~し」のはずでしたが、

 

 

しかし今見ている棚は、並び方こそ超変則的ですが「あ~ね」でした。

ギャルの代表的な生返事、「あ~ね」

 

 

そう。ギャルは反対側にいるかと思いきや、この棚こそがギャルだったんです。

 

となると、反対側の本棚は、並び方はさておき、「ね」の続きから最後まで、つまり「の~ん」であることはまず間違いないでしょう。

コロコロコミックにおいて伝統的に、「巻きグソではないリアル寄りのう●こ」が描かれている時に頻出する擬態語、それが「の~ん」です。

 

さすがにいらすとやに「リアル寄りう●こ」の絵はなかったので、巻きグソにて失礼します。

 

反対側にいるのは、ギャルではなくう●こでした。

 

問題は、その「の~ん」どういう並び方になっているか、です。

 

「あ~ね」の棚と同じルールを適用すれば、こうなるはずです。

 

 

伝わっていますでしょうか?上から見ると、こうです。

 

 

「あ~ね」の棚と同じルールを適用すれば、「の~ん」の棚

棚の中の流れ(小さな矢印)順方向だが

棚自体の流れ(大きな矢印)逆方向である

と考えられますよね。

 

つまり棚の左上は「ゆ」「よ」あたりになっていると考えられます。

 

 

さて、推理はここまでにして、実地検証へ移りましょう。

反対側へ参るとしましょうか。

 

 

「の」

 

予想と違う。

 

この本屋、僕をまだ楽しませてくれるのか――

 

 

 

左の棚は図の通り、棚の中の流れ(小さな矢印)順方向でした。

 

 

果たして、隣の棚では一体「何」が出てくるのか。

もう、何が何だかわからない。

普通に考えたらそりゃ「み」「む」ですが、先ほどあんなに人を惑わせる並び方をしておいて、今更そんな単純な仕掛けのはずがありません。

だとしたら、「の」の前、「ね」か?いや、「ね」は裏側の棚でもう出たじゃないか…。

何が出るのが妥当なのか、もうさっぱりわからない。

「ゆ」か?「ん」か?「A」か?

「ဈ」か???

(ビルマ文字一覧で、監視カメラみたいで一番かわいいと思った文字)

 

頭がくらくらする。

もしかしたら、存在すらしない文字が出てくるかもしれない。

そのまま僕は、異世界へ吸い込まれてしまうことだろう。

僕は、開けてしまったんだ。異世界へ続く扉を。

さようなら、有隣堂。

さようなら、ギャル。

さようなら、いまだ出会えぬ『金閣寺』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みみみみみむむむむめめ

 

 

 

 

 

 

…………ろわわわわをんん

 

 

 

……終わった。

 

僕は、生きている。

 

 

 

なんと、「の~ん」の棚は

棚の中の流れ(小さな矢印)順方向

棚自体の流れ(大きな矢印)順方向

でした。

 

 

つまり、こういうことです。

 

 

違う図で同じことを説明しますが、こうです。

 

 

 

その瞬間、僕は全てを理解しました。

 

この構造、皆さんどこかで見たことありませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④解決編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラック

 

 

そう。

 

この本屋は、

 

 

トラックだったんです。

 

 

 

この本屋は、トラックだったんです。

 

 

どういうことか?

既にお分かりの方もいらっしゃると思いますが、一応解説します。

 

トラックにおける「流れ」といえば、

 

 

ターャジス

 

ですよね。

 

 

トラックに向き合って右腹は順方向(スジャータなのに、なぜか左腹は逆方向(ターャジスになっている、あれです。

 

 

同じですよね。この本棚とトラック。

 

『それだけで本棚とトラックが同じなんて、なぜ言えるんだ?片方だけの物なんて、世の中にあふれているじゃないか!』

 

これ、非常に重要なポイントが1つあります。

 

先ほど、

 

 

棚の中(小矢印)、棚自体(大矢印)、どちらも逆方向の流れだったらまだ統一感があるのに、という話をしましたね。

 

するとこの本棚は下の図のようになります。

 

 

しかし、これではトラックではないんです。

 

 

左側の大きな矢印だけ逆方向でなければ、ターャジスは成り立たないんです。

 

 

 

何度も同じ図を出して申し訳ないですが、

 

 

これをそのままトラックに置き換えてしまうと、こうなるんです。

 

 

そう。

小さな矢印、つまり文字1つ1つの流れも逆向きになってしまう

ターャジスじゃなくて、ただの鏡文字になってしまうんですよ……!

 

したがって、向かって左側の棚だけが

棚の中の流れ(小さな矢印)順方向

棚自体の流れ(大きな矢印)逆方向

という条件を満たした時のみ、ターャジスが成立するんです。

 

 

こんな特殊な条件を満たす並び方が、他にありますか?

 

そう。この本屋トラックだったんです。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、『金閣寺』も普通にこの本屋にありました。

良い本屋だ。