クロスワードを解いていきます。

クロスワードは、ある問題に対する答えを入れ、言葉を繋いでいく遊びです。

盤面内の言葉は原則として、左から右、上から下に読んでいかなければなりません。

また、すべての文字を埋め、所々に配置された二重マスを拾いながら読んでいくことで、

何らかの言葉や文章が出てくるという設計になっていることが多いでしょう。

 

まずは簡単なところから。

 

1のヨコ

「亡くなった人のことを思い出させる物品、あるいはその人の遺品」

ここに入る言葉は「カタミ(形見)」ですね。

2のタテ

「人の言葉を聞くときに傾けて、聞きたくないときに塞ぐもの」

ここに入る言葉は「ミミ(耳)」ですね。

7のヨコ

「はじめのお葬式で捧げた黄色い花」

ここに入る言葉は「キク(菊)」ですね。

すると、1のタテも分かってきそうです。

「強い恨みを持つ対象」

ここに入る言葉は「カタキ(仇)」ですね。

8のタテ

「神様に備えた食べ物や生き物」

ここに入る言葉は「クモツ(供物)」ですね。

11のヨコ

「この建物に五つあるもの」

これは今の段階だと難しいですね。

一旦後回しにしましょう。

他の言葉を埋めれば分かってくるかもしれません。

 

5のヨコ

「死体が腐敗せず、原形を保ち続けている状態」

ここに入る言葉は「ミイラ(木乃伊)」ですね。

3のタテ

「その冬、この建物にいた人が何を訊かれても切り通したもの」

これも今の段階だと難しいですね。

でも、他の言葉を埋めれば分かってくるかもしれません。

では、ここはどうでしょうか。

 

3のヨコ

「『奇跡』『霊験』とも称される、人間のしわざでは説明できない出来事」

ここに入る言葉は「シルシ(験)」ですね。

すると、それに応じて3のタテも埋まりました。

「この建物にいた人が何を訊かれても切り通したもの」

ここに入る言葉は「シラ(白)」だったのですね。

 

4のタテ

「ある宗教施設において、儀式の信仰を司る職能」

ここに入る言葉は「シサイ(司祭)」ですね。

9のヨコ

「世間に対する風評や見え方 山奥にあるこの建物の人々はそれをサナトリウムにしていた」

これも難しいですが、先ほどと同じように解けないでしょうか。

 

9のタテ

「真っ白い壁を手で触ると、この汚れが目立った」

ここに入る言葉は「テアカ(手垢)」ですね。

すると、自動的に9のヨコも埋まりました。

 

「世間に対する風評や見え方 山奥にあるこの建物の人々はそれをサナトリウムにしていた」

ここに入る言葉は「テイ(体)」だったのですね。

 

人里離れたその建物にいた人々は、そこをひとつの病棟というテイにしていた、

ということなのでしょうか。

 

そう思うと、この「真っ白い壁」という言葉も、

なんだかその場所が病院施設の中であるかのように思えてきます。

 

10のヨコ

「あるひとつのことしか考えられなくなる偏執症を指す精神医学用語」

これは少々難しいかもしれませんが、

病院や病棟にいる方々ならピンとくる方も多いでしょう。

彼らもそうだったのですから。

 

ここに入る言葉は「モノマニア(mono-mania)」です。

あの病棟に勤務していた人は、みんながひとつのことに囚われていました。

ある人はこの建物の壁を、病棟の体裁を保つために無理矢理に白くして、

ある人は周囲から何を訊かれてもシラを切り通しました。

 

12のヨコ

「これが見えるとお互いに監視しやすくなる」

ここに入る言葉は「カオ(顔)」ですね。

場所や環境にもよりますが、

相互監視は基本的に相手の顔色や表情を伺うところから始まります。

 

この建物は図らずも、

中央の居間から放射状に間取りが広がる

日本家屋のような造りになっていました。

 

そのため、十字の廊下を伝って建物の四方にあるそれぞれの部屋に行きやすく、

結果的に相互監視を行いやすかったのです。

 

13のタテ

「棒で鳴らすことで祈りが届くとされる仏具を表す俗語」

ここに入る言葉は「オリン(お鈴)」ですね。

司祭だったりお鈴だったりと、この建物の信仰には統一感がありませんね。

それほどに、手近なすべての信仰に縋ろうとするほどに、

彼らは切羽詰まっていたということなのでしょう。

 

ある程度、答えが埋まってきました。

そろそろ、後回しにしていたものも解けるようになっているでしょうか。

 

11のタテ

「羽根の集合体 死後はこれが生えて天国に行けるから大丈夫だと言っていた」

ここに入る言葉は「ツバサ(翼)」ですね。

あまりにも凡庸な言い訳です。

すると、自動的に11のヨコも埋まりました。

「この建物に五つあるもの」

この答えは「ツツ(筒)」だと分かります。

 

17のヨコ

「遺体を入浴させて、きれいに洗浄すること」

ここに入る言葉は「ユカン(湯灌)」ですね。

湯灌はあくまでも葬儀に際しての洗浄であり、

例えばミイラのように半永久的な保存をするための防腐処理ではありません。

 

なのにその死体はいつまでも朽ち果てませんでした。

五つに解体しても、十字に広がるそれぞれの部屋の床下に埋めても、

まるで奇跡のようにそれはそのままで在り続けたのです。

 

今起こっている現象そのものに対する恐怖、

いつまでも死体が朽ちずに残り続けてしまうことの不安感、

それらはこの建物の人々を狂わせるには十分でした。

 

それこそ、むやみな祈りを繰り返したり、

ありあわせの病棟あるいは監房を作らせたりしてしまうくらいには。

 

そんな彼らのみっともない狂気は、そのほかの点にも表れていました。

 

15のタテ

「この建物にいた人が最初の言い訳に使ったもの」

この答えは「フユ(冬)」ですね。

なんと彼らは、今はまだ寒いから中々死体が朽ちないのだと言ったのです。

夏の暑い時期だとすぐに朽ちて腐臭が立ち込め、

隠蔽が大変だっただろうから、逆に好都合だと喜びもしました。

 

勿論、それは単なる現実逃避だと、

自身もどこかで分かっていたでしょうが。

 

彼らは茹だる夏になってもそこにある五つの部品を前にして、

いったい何を思ったでしょうか。

 

クロスワードもそろそろ終わりに差し掛かってきました。

もうひとつの真ん中も解いて、下半分を埋めていきましょう。

 

6のタテ

「別れを告げること、あるいは休息をくれるよう願い出ること」

ここに入る言葉は「イトマゴイ(暇乞い)」ですね。

その相互監視生活に耐えかねた或る一人の加害者は、

ほぼ半狂乱となって、「病棟」での職務の休暇を取ることを、

つまりはこの生活からの脱出を宣言しました。

 

そんなことをすれば他のひとがどのような行動をとるかなど、

分かりきっているはずなのに。

 

14のヨコ

「この建物にいた人が死後に行けると信じていた世界」

ここに入る言葉は「メイフ(冥府)」ですね。

今ここで暇乞いをしてしまったこの人も、

きっとこの後は安らかに冥府へ行くことができるのだと、

彼らは必死に自身を正当化しました。

 

そうでなければ自分もどうなるか分からないのですから、

当然と言えば当然ですが、

あまりにも滑稽だとは思いませんか。

 

14のタテ

「死体の顔を隠すためにつけたもの」

 

ここに入る言葉は「メン(面)」ですね。

隠したところで、そのあまりにもおそろしい死に顔が

なくなるわけではないのに、

あまりにも滑稽だと思いませんか。

 

このまま、最後の言葉も埋めてしまおうと思うのですが、

その前にいったん整理をしておきましょう。

 

嘗て、この建物ではとある殺人事件が起きました。

この建物は中央に位置する居間から放射状に廊下が広がっており、

四方にもそれぞれ人が滞在できる部屋があります。

 

日本家屋らしく、部屋の床を剥がすとその下には地面が見えました。

 

その死体を隠蔽するために五つに解体し筒に入れて埋葬した辺りで、

加害者である彼らは「死体が朽ちてくれない」という怪奇現象に気付きました。

 

彼らは強迫的な偏執症モノマニアの果てに、

手当たり次第の信仰によってさまざまな葬儀を繰り返し、

この建物が簡易的なサナトリウムであるという方便によって、

在り合わせの隠蔽工作を行おうとしました。

 

しかし、それが上手くいくはずもなく、

彼らは疑心暗鬼の末に密告と相互監視を始めました。

 

それすらも呆気なく瓦解したことは言うまでもありません。

 

それでは、最後の言葉も埋めてしまいましょう。

 

16のヨコ

「このマス目の場所にあるもの」

「このマス目」、すなわち16のマス目は、大きな四角形の隅に位置しています。

また、「この建物」は、中央の居間から十字に廊下が広がっており、

建物の四方──つまりは四隅にも、それぞれ滞在できる部屋がありました。

 

また、死体は五つに解体され、

建物内の部屋の床下に分散して埋葬されていました。

 

なるほど、「この建物」とは、クロスワードそれ自体を表していたのですね。

 

ここに入る言葉は「サワン(左腕)」です。

これですべての言葉が埋まりました。

ところでクロスワードは、すべての文字を埋め、

所々に配置された二重マスを拾いながら読んでいくことで、

何らかの言葉や文章が出てくるという設計になっていることが多いです。

 

そのため二重マスを拾いながら読んでいきたいのですが、

特に順番が指定されているわけでもありませんね。

 

取り敢えずクロスワードの原則に則り、

上から下、左から右に読んでいきましょう。

「シタイノアリカ(死体の在処)」という言葉が出てきました。

 

この建物における死体の在処はどこなのでしょうか。

 

死体は五つに解体され、

建物内の部屋の床下に分散して埋葬されていたそうですが。

先ほどその一つを見つけたばかりなので、

残り四つもスムーズに特定できますね。

 

クロスワードの原則に則り、

上から下、左から右に読んでいきましょう。

「カシマサン(カシマさん)」という言葉が出てきました。

 

「カシマさん」は、日本に伝わる都市伝説の一つ。

 

過去に起きた悲惨な事件により両手足がバラバラになった幽霊であり、

カシマさんの出す問題や質問に対し適切に答えられなければ、

命あるいは体の一部を奪われるといわれる。

 

これで、十字病棟クロスワードが解けました。