WEB上のポータルサイトを用いて記事を公開する場合、

「画像や音声などの複数のメディアを複合した」文章作品の数は非常に多いです。

 

例として筆者が在籍するサイトを挙げるならば、

まずオモコロは言わずもがな、画像ファイルを含めた文章記事がコンテンツの主体であるといえるでしょう。

また、創作コミュニティサイトのSCP Foundation。こちらの掲載記事も文章といくつかの画像によって一つの作品とすることが多く、また画像などの掲載に際しては複数のガイドラインが存在しています。

 

それら作中で使用するメディアの全てを自らの著作権の範疇で完結できればそれが最善なのでしょうが、中々そう上手くはいきません。そのためWEB記事製作者の多くは、いわゆる「フリー画像」を用いることが多くなります。

 

特にホラー、怪談関連の記事で使用する画像を探すとき、まず投稿者が直面する問題として「適切な質感の画像が見当たらない」というものがあります。

というのも、フリー画像サイトの人物・風景写真というものは得てしてプロのモデルやカメラマンが関わっている制作物であり、必然的にそれは「綺麗」な写真になるのです。

 

そのため、一般人が撮影した実写という質感が濃いものを使いたいという場合、そのニーズと合わないということになりかねません。

例えば、あまりにもピントや構図、被写体が綺麗すぎるポートレートを「未解決事件の被害者の写真」といったキャプションで使ってしまうと、

メインの文章や背景情報の内包する不気味な雰囲気に合わなくなってしまう、といった事態が起こり得るのです。

 

すると、一般人が撮影したものを一定の規約のもとに公開している画像サイトのものを借用することが多くなります。サイトによっては「地域のお祭りに行ってきました」「私の息子がお菓子を食べているところです」といったキャプションと共に、画像ブログのような感覚で(商用利用や配布を許諾した)写真をアップロードしている場合もあるため、ある種生活に根差した写真はそういったサイトの方が多かったりもするものです。

 

今回は、そんな中で或る方が見つけた、とあるCC0(出典表記不要、商用利用・改変可能)の画像に関する話です。

 

※以下に示す一枚の画像は、人によっては不快を感じる可能性があります。

[作例4]

 

そのきっかけには、何の前触れもなかったそうです。

福岡県のとある大規模な地下鉄の改札を出たところにある、

大規模なショッピングモール、あるいは商店街のような場所に行ったとき。

ここでは仮に未菜さんとしておきますが、彼女の身に──というよりも彼女の周囲に、

奇妙なことが起き始めたのだと。

 

その場所は先述のように、地下鉄の改札を出てすぐのところにあり、

即ち地下に大きく広がったモール街、歩行者専用の商店街のような装いをしています。

そのため、いつの時間でも乳白色の電灯が煌々と灯っており、

靴屋や雑貨屋、小規模な飲食店などがぎちぎちと連なっているのです。

少し前ならば、週末になるとどこかのストリートパフォーマーなどが、

あみだくじのように広がった地下道の一角を利用して、

何やかやと催しをしていたものでした。

しかしここ数年は以前と比べて全体的に静かになり、

そういった催し物を見る機会も少なくなったそうで。

未菜さんがこの体験をしたのも、そんな静かな時世のことだったと言います。

 

それは、金曜の夜のことでした。

時期もちょうど今くらいで、つまりは春から夏に周囲の環境が切り替わっていく時期です。

六月の初め頃の、やや厚めの服を着ていると湿気がねとりとへばりつく、

しかし何処もそれほど冷房は効いていない、そんな季節柄の週末。

 

「金曜日って私、授業の関係で五限の時間帯まで大学にいるんですよね。で、その日はちょうど彼が書類か何かを大学に取りに来てて、四時くらいに。だったら丁度いいし、五限終わりでご飯でも行こうよってなって。それで大学のカフェで待ち合わせして、そのまま駅まで行ったんです」

 

駅から電車に乗って向かったのは、二人に限らずその地域の大学生が遊びに行くときに利用する、いわゆる学生街。その駅は先述の「福岡県のとある大規模な地下鉄」であり、少し歩けばクラブや居酒屋が立ち並ぶ繁華街に行きつきます。

 

「その時って、さっきも言いましたけど春から夏になるみたいな時期で。だから、前期後期でカリキュラムを分けてる大学だと丁度前期の中間ぐらいになるんですよね。私たちも中間テストとか、春だけで完結する科目のレポートとかで暫く忙しかったから、ちょっと息抜きに遊ぼうかって感じだったんですよ」

 

バイト含め学生が集まるチェーン店の、あまり頼まない割高な期間限定メニューを頼み、剰え得意ではないビールなどを飲み、その後勢いで入ったカラオケボックスを出た頃には、二人とも気持ちよく酔っていたそうでした。

時刻は夜の十一時半。その頃になって彼女は、明日の午前十時から入っているアルバイトのシフトを思い出したのだと言います。

 

「それで、流石にもうそろそろ帰っとかないとやばいかも、みたいなことを言って。正直、十時にバイト先まで行くってなると、私にとっては結構な早起きをしないといけないんですよね。こんな十一時ぐらいまで一緒にいるとは思ってなかったっていうのもあって、その後はまっすぐ駅まで行ったんですよ。それははっきりと覚えてます」

 

彼女らは学生街を少し歩き、地下鉄の連絡通路を経由して駅まで向かいました。

時世柄、そして週末とはいえ十二時前という時間もあってか、その近辺であっても人通りはまばらです。件の商店街までたどり着くと、そこはほぼ無人であると言っても良かったでしょう。

駅までの連絡通路として開放されてはいるものの、そこにある店の類は営業時間をとうに終えており、すうっと伸びた一本道の両側には等間隔のシャッターが立ち並びます。

また、十二時を少し過ぎたところで当の商店街も完全に閉門されるため、わざわざその時間にその道を歩く人は必然的に少なくなるのです。

二人並んでそこを歩き、とある一本道に出たところで。

 

「あれ」

 

語尾が上がった疑問形の語調で、彼はそう言いました。

彼が視線を向けていたのは、本来の進行方向とは反対の道でした。

視線の先には、ずらりと並ぶ薄黒いシャッターと、

それらに挟まれた広い通路をぽつぽつと等間隔に照らす、

くすんだ乳白色の光があるだけです。

あるだけなのですが。

 

「なあ、あれ、なんだろ」

 

依然として何もないところを指差して彼は、そう口にしました。

 

「なにって、なにが」

 

未菜さんはそう返答するしかありませんでした。

最初は自分が何か見落としているのかと思い、

彼の視線の先に伸びる通路を注視していたのですが。

何度見ても、そこはシャッターが並ぶだけの殺風景な地下商店街でした。

 

「いや、ほら。あれだよあれ、なんか人みたいな」

 

人みたいな。

人みたいな?

未菜さんが訊き返すと、彼も首肯します。

 

「ああいや、でも人なのかな。そういうオブジェかもしれないけど」

 

彼はそう言うのですが、やはりよく分からず。

変な酔い方をしているのだろうと思い直した未菜さんは、ふうん、と生返事をして彼のほうに向き直ったのだと言います。

当時の彼女にとっては、酒の入った彼の不可解な挙動よりも、

夜の十二時前に駅を出発する電車の本数の方が気掛かりでした。

 

「ふうん、よく分かんないけど───もう行こ、時間ないし」

 

少しの間が空いた後で、彼もそれに返事をし、再び二人は歩き始めました。

歩きながら、彼女は話の流れから、その何かの話題を出します。

 

「っていうか、それって何、なんでオブジェなの? オブジェみたいな形、っていうと変だけど、作りものっぽいのがあるってこと?」

 

見えないけど。

彼女は何となく後ろを──それらしいものが何も見えない通路を振り返りながら、

そのようなことを言ったのだそうです。

 

「うーん、まあ、そういう感じかな。え、マジで見えてないの? 怖っ」

 

冗談めかして笑いながら、彼はそう言いました。

実際、その時点でどこか薄ら寒い気持ちは未菜さんにもあったのですが、

彼のその言い方に少しばかり安堵し、怖いのはあんただよ、飲みすぎでしょ、などと返したそうです。

 

「いやあ、だとしたらマジで飲みすぎてるな俺。だって今も見えてるもん」

「ちょっと、やめてよそういうの」

「いや、ほんとほんと」

 

彼はちらと後ろを見つつ、

 

「まあでも、あんだけでかかったら人じゃないか」

 

何てことないような調子でそう言いました。

そうそう、と相槌を打ちかけたところで、

彼の発言の不可解さに気付いて。

 

「あとオブジェって言ったって、マネキンとかじゃないと思うんだよなあ」

 

同時にその言い方が、表現が、

未菜さんには、なんだかひどく嫌なものに感じて。

 

「なんか首がこう、ずっとぶんぶん頷いてるみたいな」

 

「───行こ、はやく」

 

未菜さんは彼の手を引き、地下鉄の改札へと急ぎました。

例えば数分前に起きたことを何度も喋るような調子で、酔った彼が続ける「それ」の話を、未菜さんは都度遮って。

あみだくじのように広がる通路の、いわば隣の縦線にあたる通路へと移動して、

二人は当の駅に着きました。

 

この話を聞かせて頂いた時、

未菜さんは当時を振り返りながら「だって」と言葉を継ぎました。

 

「だって、仮にですよ。仮にこの話が単純に酔っ払いの変な話とかじゃなくて、本当に『そういう体験談』の類だったとして───こういうのって普通、『私には見えるけど他の人には見えない』ってパターンじゃないですか。なのにあの時、ずっと私は何も見えなくて。彼だけがずっと、よく分かんないものに会って、それについて喋ってたんです」

 

その、「自分の知らないところで確実に何かが起こっているのだろう」という感触じみたものが。

当時の彼女には、とても気持ち悪かったのだそうです。

 

結局、望みの路線を通る地下鉄は、

二人が着いてから十分ほど後にその駅を出発しました。

彼は大学からはやや遠いところに住んでいます。そのため立地の都合上、帰宅時には彼の方がやや早く電車を降りることになります。

最近のテレビ番組やアルバイトのことなど、

主に未菜さんの主導で、明るげで他愛もない話をして、十分ほどで彼と別れました。

 

飲み会帰りであろう数名の大学生や、スーツ姿で腕組みをして眠り込んでいる中年男性など、電車に乗っている人の姿はぽつぽつとあり、彼女もまた車両の隅の椅子に座っていました。

一人になってからは意味もなくスマホを弄りはじめ、

やがて、自分が降りる駅まで残り二駅分くらいになった頃。

スマホの上部に、LINEの通知が表示されました。

送り主は十数分前に電車を降りた彼からで、その内容は、

 

「ごめん、今通話大丈夫?」

 

というものでした。

まだ電車の中にいて、あと二駅で降りる旨を伝えながら、

彼女は現在座っている座席のシートや、鞄の中などを確認していました。

何か忘れ物でもしていたのか、と思ったための行動でしたが。

しかしそれならばそのまま文章で伝えれば良いだけで、

そのためにわざわざ通話を求めるだろうか、とも思い直しました。

 

「何、忘れ物?」

「あ分かった」

「財布無くしてテンパってるとか」

 

そういった内容のLINEを返してみましたが、

彼からの返事はあまり要領を得ません。

 

「いや、なんか文字打っても説明しづらい」

「なにそれ」

「ちょっと待って」

「別にいいけど」

「ごめん」

「どっちにしろ」

「まだ駅ついてないからね」

「通話はまだむり」

 

それらの書き込みには少し遅れて既読が付いたそうです。

ちょっと待って、という彼の書き込みの後で、

彼は別のアプリを開いていたのでしょう。

数十秒ほど後で、いっぺんに既読が付くと、

間もなくして彼は、

今しがた撮ったのであろう一枚の写真を送ってきました。

 

とても長くておおきい男みたいなものが、

彼の家の真っ暗な玄関に立っている写真でした。

 

当時画面越しに見たそれを巧く説明する言葉を、

未菜さんは未だに図り兼ねているようで。

歯に野菜の筋が挟まったような、もごもごとした調子で、彼女は説明を続けました。

色調が全体的に暗く、一瞬よく分からなかったのだそうですが、

そこに写っていたのは紛れもなく彼の住んでいるマンションの、玄関でした。

未菜さんもちょくちょく出入りしていたため、

それが彼の家を写していることはすぐに分かりました。

それは二階のエレベータを出て一番遠いところ、

非常階段のすぐ横にある彼の部屋で。

 

彼は恐らく、マンション二階の共同廊下に立って、

自分の部屋のドアの前で、それを撮影していました。

真っ暗な玄関のドアは完全に開ききっていて、

本来ならばその向こうには、

フローリングの廊下に薄汚れた玄関マット、

粗雑に並べられた靴などが見えるはずなのですが。

 

扉を開けてすぐのところで、

それらを遮るように立っているそれのせいで、

背後に伸びているはずの廊下すらも碌に確認することは出来ませんでした。

 

顔は見えません。

胴体と下半身です。

顔は天井部分に隠れて見えません。

それくらいに大きい、というよりも長いのです。

縦横比も無視して拡大コピーでもして、

無造作に貼り付けたみたいに。

みち、みち、と不自然に伸びた体躯の男が、

だらりと腕を垂らして立っている。

 

「なんで男だって分かったんだろう───あ、そうだ。服が」

 

服が、何というか男の子の服だったんです。

男性じゃなくて、男の子の。

未菜さんは手元のスマートフォンを動かしながら、話を続けます。

 

「───ああ、検索してもあんまり出てこないな。あのなんていうか、小中学生でよく男の子が着るような服ってありますよね。大きく二桁ぐらいの数字がプリントされてたり、英単語が三つ四つ書いてあったりするTシャツに、ポケットが多いポリエステルのズボン、みたいな」

 

そういう服を着てたんです。

自分でも言ってて変だとは思うんですけど、

と未菜さんは付け加えます。

 

でもそれを着てる腕とか脚は男性、男の子とかじゃなく男性で。

しかも明らかにその姿は、人間ではありえなくて。

もし仮に人間で、そこに誰かが立ってたんだとしても、

そんな写真を撮って送ってくるはずが無いですよね。

 

やや早口になりながら、彼女はそこまで言い切りました。

結局、当時の彼女は直近の駅で一旦電車を降りて、

彼との通話を試みたのだそうです。

電車が去って、静かな駅の中でLINEの呼び出し音が鳴って、

程なくして彼が通話に応じました。

 

「───ああ、未菜。ごめんな、急にLINEして」

 

所々聞き取りづらい部分はありますが、彼の口調自体はいつも通りでした。

 

「ああ、うん───いや、なに、話したいことって。そもそもあの、画像も」

 

未菜さんも、ただならぬ雰囲気を感じて取り敢えず通話を試みたものの、

何をどう話せば良いのか、

どれから話せば良いのか、分かり兼ねていました。

そうして途切れ途切れに話を繋げようとする彼女を知ってか知らずか、

彼は漫然と切り出しました。

 

「お前にも伝えたほうがいい気がして、LINEしたんだけどさ」

 

そして、その後に続いた言葉は当初、

一瞬電波が悪くなったように声が遠くなり、聞き取れなかったのだといいます。

 

「あれ多分          だよな」

「え───ごめん、何て言った?」

 

恐らく、最初から聞き取れていたところで、

反応はそれほど変わらなかったのでしょうが。

 

「あれ多分、水抜きみたいなことだよな」

その言葉が、何を意味しているのかも分からず沈黙していると。

彼は、未菜さんが次の言葉を待っていると思ったのでしょう。

つらつらと説明を始めました。

 

いやだから、あの地下街にいたでっかい人がさ。

あの時もちょっと話したけど、ぶんぶん首振って、

頷く動きみたいな、そういう風にしてたんだよな。

で、さっき写真送ったろ?

あの時に俺もちゃんと見たから何となく分かったんだけどさ。

たぶん、なんかを外に出そうとしてたんだよあの人。

それこそプールで泳いでて、

変な潜り方しちゃったから耳に水が入った、みたいな感じで。

 

だからさ、俺たちも怖い怖いーみたいな反応してたけど、

あの人も言ってみれば被害者なんだろうし、悪いかなって思って。

それで今LINEしたんだけど。

 

「えっと───何言ってんの? っていうか、あの写真は」

「ああ、あれは別に大丈夫だった。電気点けたらいなくなったから」

「いなくなったって、今あんた家に居るの」

「え、うん。そりゃあもうこんな時間だし」

「いや、だって警察とか」

 

と、そこで未菜さんは気付きました。

話しているとき、彼のいる建物の辺りで救急車か何かが通ったらしく、

後方からかすかにサイレンの音が聞こえていたのですが。

その音が正常に聞こえ続けているのにも拘らず、

彼の声は屡々途切れるように発せられていたのです。

 

電波ではなく、時折彼の話す言葉の発音だけがおかしくなっているんだとそこで気付きました。

てっきり電波の不調なのだろうと思っていたのですが、

環境音に影響が無いとなれば、

その聞こえ方には別の原因があるということになります。

 

彼の声は時々遠くなり、

まだ正常に聞こえるというサイクルを繰り返しています。

 

まるで、彼が電話口で大きく顔を揺り動かしているように

 

と、そのことに気付いた瞬間、

彼女は今聞いている声がとても嫌なものに思え、

反射的に通話を切ってしまったのだといいます。

 

もちろん、すぐに彼から急な切断を心配する内容のLINEが送られてきたのですが、

通話をするために電車を途中で降りていたことと、

話している最中に終電が到着し、乗らざるを得なくなったこと(後者はもちろん嘘ですが)を説明し、未菜さんは強引に話を終えたそうです。

 

その後、彼女はどうしても自宅に行く気力が湧かず、

突発的に降りた駅の近くに住んでいる友人に無理を言って泊めてもらい、

そのまま翌朝に早起きをして一旦帰宅した後で、バイト先へ向かいました。

 

「だって───本当に根拠もない妄想なんですけど、もしあのまま家に帰って、玄関を開けてドアのすぐ向こうにそれがいたらって、そういう風に思ってしまって」

 

翌日以降、彼は特に変わった様子もなく、普通に生活をしていたそうです。

ただ、何となくあの日の話はしないほうがいいような気がして、

未菜さんはあの夜の出来事について話すことだけは避けつつ、彼と接しているとのことでした。

 


 

この話を取材した、一か月ほど後のことです。

この話をした彼女───未菜さんから、

私にメールが送られてきました。

 

そのメールには数行の文章と、ひとつのリンクが記載されていました。

 

いま、大学の授業でちょっとしたプレゼン資料を作らないといけなくて、

そこで※※※※※[筆者註: 先述の話に登場した、九州某県の地下鉄付近にある大規模なモール街]の画像が必要になったので、画像を探していました。

そしたらこんなものを見つけたので、共有します。

 

リンク先は、とある画像共有サイトの、投稿者ページでした。

そのサイトでは自らの撮影した画像を任意のライセンスにより公開・共有することができ、一枚以上アップロードしたことのある人は専用のユーザページが作られます。

youtubeで何かの動画をアップロードしたユーザのアイコンを押せば、そのユーザの投稿動画や再生リストがまとめられたページに遷移する、概ねそのようなイメージです。

 

そのユーザも例に漏れず複数のファイルをアップロードしており、それらの画像が一覧として数十件ほど、投稿日時の古い順で並べられているのですが。

そこに表示されている数十枚の画像は、

一番古い一枚を除いてすべて同じ内容でした。

 

一枚目は、何か別の写真から切り抜いたのであろう、男性の顔で。

まるで強く顔を振っているところを撮影されたかのように、

顔面は縦に大きくぶれています。

アイコンのような大きさの、その写真についたキャプションには、

「心霊写真が撮影できました」

と書かれており、Own work(自分で撮影あるいは作成した画像)として、

転載や改変、商用利用が可能なライセンスで公開されていました。

 

そして、それ以降に続く数十枚の写真はすべて、

先述の大きくぶれた顔写真の切り抜きに対して、

様々な胴体と下半身、あるいはそのどちらかが雑に結合されていて。

 

その、縮尺のおかしな人形のようになった男性が、

様々な場所に「立っている」、そんな構図の画像でした。

電車の中、家の玄関、シャッターの閉まったモール街。

場合によっては、背景として合成されている場所の写真と男性の大きさの比率が合わず、

あたかも男性がとても大きな人間であるかのように写っています。

 

それら数十枚のコラージュ画像に付けられたキャプションは全て、

 

「心霊写真が培養できました」

 

という言葉で統一されていました。

それは誰が、どんな目的で作ったものなのかは今もって分かりませんが。

あの夜以降に二人の間に起こったことを考えると、恐らくその誰かの行動が、

少なくとも何らかの実害を生じさせることのできる結果を生んでいることは確かなのでしょう。

 

自分の顔を心霊写真の一部に作り替えられるって、どんな感覚なんでしょうね

 

未菜さんから届いたメールは、そんな一文で締め括られていました。