①過度な性的表現の件数

 

今回最も顕著に右肩下がりに減少した項目である。

1巻での過度な性的表現の数が「26件」だったのに対して、2ヶ月後に発売された2巻ではすでに「18件」まで減っており、4巻以降では一桁台に収束している。

 

さらに16・24・27・36巻での「1件」は、いずれもみさえの乳首の露出であり、確かにその乳首の様子は生々しく劣情を催しうると解釈でき、仕方なく過度な性的表現とはしているのだが、ひまわりにお乳を与えるためという背景もあった。

それと比べると、1巻に出てくるような「みさえの恥部がビデオカメラによって家電屋さんの巨大ディスプレイに映し出される」といった衝撃的なシーンは、それ以降出てこない。

 

「過度な性的表現」においては質・量ともに1〜2巻がピークであったと考えられる。

 

②陰茎の露出件数

 

大きな変化はないものの、大局的には下降気味の傾向である。

注目すべきは4巻の「10件」。これは一体何があったのだろうか。

 

実はこの巻、しんちゃんの陰茎の露出度が必然的に高まる「温泉」のシーンと「自宅の風呂に入る」シーンが各二回ずつあったのだ。

これらに加えて、八百屋、公園、海、幼稚園などでも陰茎を露出しており、陰茎のベストアルバムのような仕上がりになっていた。

 

しんちゃんはただでさえ非常識な場所で陰茎を露出することが多いので、陰茎を自然に露出できるシーンが存在するほど、その巻全体でのしんちゃんの陰茎露出回数は底上げされてしまうのである。

 

③臀部の露出件数

 

こちらは巻数を重ねるごとに、綺麗に右肩下がりになっている。

しんちゃんが臀部を露出するシーンといえば「ブリブリ〜〜」のケツダンスが印象的だが、初期には知らない家のインターフォンのカメラに臀部ないしは肛門を限界まで近づけ居住者を脅かしたりする危険な描写などもあり、「子供が真似するからやめろ」というクレームが入りそうな描写もあった。

 

そんなことを真似する子供はいないとは思うが。

 

④折檻件数

 

こちらも1巻から50巻にかけて顕著に減っている。

初期の頃はしんちゃんの怠惰だったり生意気な口調に対してすぐにげんこつ、グリグリなどを繰り出していたみさえも、15巻を超えたあたりから、「ボクシンググローブをはめて紐を縛る仕草」「包丁を研ぐ仕草」などの威嚇表現だけで終わっており、直接手をあげることが減ったように思える。

 

実はこのあたりでみさえは第二子となる「ひまわり」を出産している。野原家に家族が一人増えたことで、よりホームコメディとしての側面が強くなり、折檻シーンが減ったのかもしれない。

 

⑤“オカマ”の登場回数

 

単巻あたりでは最高でも「3件」という程度なので、5巻単位でまとめてみた。終盤では一度も登場していないため下降気味とも言えるが、有意な母数でないため何とも言えないだろう。

 

ステレオタイプな「オカマ」表現に対して議論が大きく巻き起こるようになったのは近年のことであり、直近の事例だと、とんねるずの番組内キャラクター「保毛尾田保毛男」の炎上が記憶に新しい。

また、野原一家が一時的に「またずれ荘」というアパートに住む際に、原作ではスーザンというオカマキャラが登場するがアニメには登場しない。アニメ化の際に校正された表現も多く存在するようだ。

 

全体の推移

全5項目のグラフを総合したものが以下である。

 

 

1巻が発売された1992年から最終巻が発売された2010年まで、18年間の中で漫画『クレヨンしんちゃん』の表現はこのような変化を辿っている。

 

実はクレヨンしんちゃんは、アニメの放送開始の2日前に第1巻を発売している。放送開始後にみるみる視聴率を伸ばしていき、翌年には映画化も実現しているのだ。

急速なメディアミックスのため、かなり初期に過激な表現が見直されていき、ひまわりを授かってホームコメディ色が強まった段階で、折檻や臀部露出の表現も影を潜めていったのかもしれない。

 

子供に見せて良い巻・見せたくない巻

では今回の記事の目的の一つであった、お子さんに見せてもいい巻は何巻なのか。

 

今回計測した5項目の件数の合計が、「5件」と一番低かった

49巻 だ。

 

 

引っかかった項目についても、陰茎と臀部の露出が各1回ずつあった程度である。下半身1セット分の内容であるため、情操教育にも大きな害はないだろう。

全50巻の漫画を49巻から買い与えるのは中々トリッキーだが、情操教育のためである。

 

では逆に、お子さんに見せてはいけない巻は何巻なのか。

5項目の件数の合計が「66件」と最大値をマークした巻が2つある。

1巻 だ。

 

 

1巻は言わずもがな、冒頭に紹介したソープ売り飛ばし地上げ屋をはじめとして多くの不適切表現が繰り出される。BPOとPTAが融合合体(フュージョン)して襲いかかって来るレベルで盛りだくさんだ。

4巻に関しては、陰茎の項目で取り上げた陰茎ベストアルバムの巻である。いくら男の子とはいえ、児童に陰茎ベストアルバムを買い与えるのは時期尚早だろう。シングルですらまだなのに。

 

とにかく、この2巻は要注意していただきたい。

 

なお、補足として

不適切シーンの合計値こそ低かったが、33巻も子供に見せるべきではないかもしれない。

 

 

 

この巻は1話目でいきなり、「Hなもの禁止法に対抗して世界中の放送局の映像に毎分1/24秒間ずつHな映像を流し続け、そのサブリミナル効果で人々を無意識にH大好き人間に仕立て上げようとする『H(エッチな)・E(映像)・E(ええじゃないか)』計画を目論む男たち」が現れる。

 

また、そのうちの一人として元AV男優のミートボール無海(むかい)も登場する。

もちろん現実世界のAV男優であるチョコボール向井を模したキャラクターであり、非常に教育的に良くない。何より書いていて意味がわからない。

 

総括

いかがだっただろうか。

時代と共にその内容をアップデートしてきたしんちゃん。もちろん好みは分かれるだろうが、それゆえに長きにわたって、子供から大人まで楽しませるコンテンツとして君臨し続けている。

 

我々は大丈夫だろうか。ちゃんと変われているだろうか。

時代に迎合するわけではない。時代から生まれる・可視化される意見を受けて、自身の凝り固まった思考に問い続けなければいけない。

その考えは正しいかい?と。

 

難しい?

難しくないさ。

 

しんちゃんもできたのだから。