2日目〜ゆで汁の正体〜

朝10時。起きてすぐに昨日茹でに茹でたゆで汁を見に行く。

 

鍋の中は、悲しいことにパグの眉間の寄せ集めのようになっていた。

これは脂肪が固まってきて出来た膜で、あまりにも多かった為浮いた脂肪を半分以上捨てて更に猛烈に煮る事に。

 

―昨日から凄い手間隙かけて煮てるけど、これは何?―

信じられない…分かんないで見てたの?これスープだよ。これでカエシ(スープのタレのこと)を割るんだよ。

 

―色んな物をこれ1つで茹でてたから、茹でるお湯をケチってるんだと思ってた―

チッ(舌打ち)

 

昼の3時。

スープに火を通しながら、豚を湯煎で温めたり、味に飽きた時につまむニラキムチをテキパキと作る弟から悲報が入った。

 

「乳化失敗した。あと、舐めてみたら信じられない不味さだった」

 

えっ…そんな…!!急いで失敗したというスープを見に行った。

 

【煮込みうんち】そのワードが頭に浮かんでは消えた。

 

―これ…使うの…?―

使うよ。今から新しいスープ作ってたら間に合わないよ。

 

―マジか…―

 

ラーメンはいつでも作れる用意が出来た頃、弟から仕事に出掛けた親が帰宅してから作りたいというお願いをされた。

 

うちの弟、いい奴なんだよね。ほんと、働かないだけで。

 

という訳で、親が帰って来るまでの空き時間を利用して犬に芸を仕込む弟。『お鼻』という、手を出したら手に鼻を入れる芸を覚えさせるようだ。

 

(お手の合図だと思って必死にお手をしようとする犬)

〜2時間後〜

 

(『お鼻』を覚えた犬。これがきっかけで『お手』を忘れたらしい)

 

完成、弟流ラーメン二郎

夕方5時、母が帰宅したのでラーメン作り再開。

まず、『豚カスアブラ』を作り始める。これはラーメンの上に乗せたり、別皿に盛り付けてつけ麺のようにして食べたりするらしい。

昨日茹でておいた脂身を湯煎で温めたものがこちら。

 

ビジュアルはマイナス100点だが、これをフォークで潰してバラバラにし、豚を漬けたタレを入れて温める。

その間に豚を切るのだが

 

ウルトラダイナミクス

 

そして昨日冷蔵庫に入れておいた麺を取り出す。

「二郎は太麺の角麺!!!」

と弟に怒られたのが大昔のように感じる。久しぶり、麺。元気してたか…

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

麺、終わってた。

かなり麺同士が融合し、ゾンビみたいな色になっていた。

私達は手が込んだ物から順にダメになっていく呪いのラーメンを作っているのだろうか。

 

―麺、死んでるけど麺無しでいく?―

は?麺無し?馬鹿じゃねぇの。これでいくよ。頑張ってほぐすしかない。

 

大猿の右脳?

 

弟の必死のほぐしも虚しく、麺は所々融合したキメラ状態のまま煮えたぎる湯の中に潜っていった。

これが無職の限界なのだろうか…。

 

そう諦めかけたときだった

 

なんと茹でられる事で麺が徐々にほぐれてきて、色が明るくなってきたのだ!!!!!

醤油・みりん・化学調味料をひと煮立ちさせて作ったカエシに煮込みうんちスープを入れる

 

すると、味の濃さを確認するために少し舐めた弟が言った。

「うまぁ!!!」

 

程よい脂の光が旨そう

 

いいぞいいぞ!!風向きが変わってきた!

キッチンには、豚のダシとニンニクの匂いが充満していて食欲を誘ってくる。

 

そうこうしている間に麺が茹であがったので、スープに麺を

 

ドーーーーーーン

そこに軽く茹でた野菜を

 

ワサァァアアアア

上から豚カスアブラ

 

バシャァアアアア

そしてとうとう……

 

完成☆

す…凄い!!急にラーメンになった…!

 

更に生卵・豚カスアブラ・ニラキムチと、味に退屈させない弟こだわりの品も登場。

これが1回も二郎に行ったこと無い人が作ったラーメン二郎!?信じられない!!

じゃあ早速…いただきます!

 

うっ…………

 

うまっ

濃い豚骨醤油味のスープに、刻みにんにくのガツンと脳を揺さぶるパンチの効いた味!!モチモチ弾力のある超太麺!!感動レベルの美味しさだ。

 

そうこうしてると家族が集まって来たので皆で食べた。

 

二郎は家族で分けあっても十分な量だった。かけそばを分けあって食べてた家族にも教えてあげたい。

 

弟の作った二郎は、味の方もかなり再現度が高く

これは完全に二郎!!!

……と言いたいところだったのだが、私はラーメン二郎に2回しか行った事が無かった為、正直あまり分からなかった。

これはもう弟を二郎に連れて行って、弟に判断してもらうしかない。

 

引きこもりin二郎

翌日、朝7時。

 

―もしかして飛行機初めて?―

1回だけある。中3の修学旅行で。

 

-いいじゃん!楽しかった?―

ずっと不登校だったのに修学旅行だけ行ったから、周り知らない人ばっかりで何も面白くなかった。

 

―すごい話だな―

 

とうとう念願の二郎に並ぶ弟。

今回は店員さんの接客も優しく、二郎初心者向けと言われる池袋東口店を選んだ。

開店の15分前に到着したが、前には10人以上の方が並んでいた。

 

―何頼むの?―

ラーメン……麺少なめ…

 

―え?マシは?―

できない…東京に緊張して食欲がない………マシマシお残ししちゃいそう…。

 

―マシマシお残し?―

マシて残す事…今俺が考えた言葉…。残したら怒られる事もあるらしい……。怖いからマシはしない…。

 

―前から一緒にマシする時の練習してたのに…―

 

↑二郎に行った時のマシの頼み方を教えてくれた弟。今この頃の雄弁な弟はいない。

 

銀行強盗のコント衣装みたいな服を着た弟は、厳つい見た目とは裏腹にマシマシお残しと都会に大変怯えていた。

話をしているうちに店は開店。事前に練習した頼み方をして私たちのラーメンがきた!!!

 

(私が頼んだ野菜マシ、アブラ、ニンニク少なめラーメン)

うっめぇ〜〜〜〜

スープは乳化していてコクがありつつ、ニンニクのパンチの効いた味と調和して飽きずに食べれちゃう美味しさ!野菜のシャキシャキもアクセントになってアブラも甘くておいしぃ〜〜。

 

―盛りはどう?麺少な目だし余裕で全部食べれちゃうでしょ―

緊張してるし……朝も都会も苦手だし…全部は厳しいかも…。

 

―味は!?ずっと夢見てた理想の味なんじゃないの!?―

 

弟「…………………俺、少し苦手かも…」

えぇ……?

 

 

どうやら二郎は弟の目指した味とは違ったようだ。

しかし、二郎はお店によって味が違うので弟にはこれで諦めずに色んな二郎に行って自分のベストオブ二郎を見つけてもらいたい!!!!

 

根性で全部食べ、青森へ帰る弟。

 

保安検査場で靴と上着を脱がされて、ポケットの中身を保安検査員に全部チェックされていた。